アミン存在下、カルボニル化合物にスルホニルアジドを作用させると、図のような機構でカルボニルα位がジアゾ化されます。通常ジアゾ基は不安定ですがカルボニル基があるので(比較的)安定に存在することが可能となります。
ところで、上の機構を見るとジアゾ化されるのも良くわかりますが、では同じ要領でカルボニルα位のN2ジアゾ化ではなくN3アジド化というのはできないのでしょうか。
実はほぼ同じ反応機構でアジド化も進行するのです。Evansらはアミンではなく、金属エノラートを発生させ、スルホニルアジドを作用させることでカルボニルα位のアジド化が起こることを報告しています。
と書くと「混ぜれば出来る」ように見えてしまいますが、見てわかる通りこのアジド化反応、スルホニルアジドが末端でくっついているところまでは先ほどのRegitzジアゾ化と全く同じです。従ってこのアジド化は上記のジアゾ化と競合することは想像に難くありません。Evansらのこの反応にはそれを防ぐためのいくつもの鍵があります。まずは金属エノラートのカウンターイオン種、Li << Na < Kの順にアジド移動したものが多く得られるようになります。そしてもっとも重要なのが付加したスルホニルアジドをどのようにして分解するか。すなわち、スルホンアミドの脱離(→ジアゾ化)ではなく、スルフィン酸(RS(O)OH)としての脱離が必要なのですが、酢酸の添加によって望みのアジドへと効率的に変換されることが見出されました(他にはTMSOTf、TMSCl、TFA等。AcOHが最もよい)。ちなみにスルホニルアジドとしては p-nitrobenenesulfonyl azide < TsN3 < TrisN3で収率が向上します。
Evansらはこの手法を自身のEvans不斉補助基を用いた反応に応用し、ジアステレオ選択的なα-アジド化を達成しています。この手法はKozminらの天然物合成にも用いられています。どうでもいいけどこの論文、著者が二人ともSergeyだったりします、Kozmin教授の方はお会いしたことありますけど。
Evans不斉補助基でない場合の例もあり、この合成ではLDAが塩基として用いられています。
ところで何でアジド基なんかを入れる必要があるんだ、という話もあるかと思います。アジド基は、最近ではclick chemistryにおけるHuisgen反応としての利用例が目立ちますが、Staudinger反応や水素化分解によってアミノ基へと変換することが可能な官能基です。つまり言い換えるならばアミノ基が保護された状態なわけですから、アジド基の導入は保護されたアミノ基の導入と同義なのです。実際、α-アジド化ではありませんがBaranらのPalau'amine全合成やHanessianらのPactamycin全合成でも「保護されたアミノ基」としてのアジド基の利用が大きな力を発揮しています。生じるのが窒素であり、他の保護基と比べても環境に優しい(?)面もあるので頭の片隅に入れておくとよいかもしれません。
ついでに塩入試薬DPPA(DiPhenylPhosphoryl Azide)についての参考文献
ジフェニルリン酸アジド(DPPA)−この 35 年 (TCIメール、PDF注意)

