2015年11月22日

論文誌が高くなりすぎて

(11/22 20時ごろ、リンクとかCL, BCSJの話とか追記)
以前に論文誌が猛烈に高くなっていることを書いたことがあります。

・論文誌が高すぎて

最近はオンライン購読が多いので、この場合では1誌ごとの購読よりも複数ジャーナルのアクセス権を買うパッケージ販売がほとんどです。このパッケージ価格、2,3誌バラで購読するよりも、いらないジャーナルをバンドルした抱き合わせ商法的パッケージの方がお値段的にお得になっているので大概こういう形で交わされているのが実情です。「ならパッケージ買いの方がお得ってことじゃん?」と思うかもしれませんが、単純に単発購入が異常に高いだけです。

このただでさえ高い費用の上、毎年半端ない値上げを敢行しているために、どうにかして論文コストを下げる対策が世界的急務となっています。この改善策としてオープンアクセスジャーナルとかも一般的になってきましたが、さて現状はどうなっているでしょうか。改善したかって?いやいや全然。むしろついに論文誌購読の放棄が緊急議題に挙げられるくらいのレベルの危機的状況にまでなっています。


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posted by 樹 at 17:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 化学とネット・PC | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月28日

情報ソースはウィキペディア、な論文の話

今年10月のはじめに、ABC朝日放送で『炭酸ガスと水で効率的に石油を合成した』という研究発表が報道されました。エネルギー事情は最近特に重要な問題ですから、この成果は大きな話題を集めました。

【速報】京都大学、炭酸ガスと水を使って石油合成に成功 (アルファルファモザイク)

しかし、これだけハイインパクトなトピックにも関わらず、追随する報道は全くなく、それどころか研究室からも大学からもプレスリリースがないという、いったいどうしてそんな報道をしたのかというとこからよくわからない感じになっていました(結局現時点で報道1次ソースは存在せず(朝日放送の動画はもう見れない)、まとめサイトを貼らざるをを得ない形に)。何よりも、研究者としてはその研究成果のソースである論文が一体どれなのかすら明らかにされていなかったので色々怪しい感じがどんどん強くなっていきました。

で、やっと論文の正体が明らかとなり、それは日本の国際化学論文誌であるChemistry Letters (Chem. Lett.)だったことがわかりました。


An efficient way of producing fuel hydrocarbon
from CO2 and activated water
Tadayuki Imanaka, Tadashi Takemoto
Chem. Lett. DOI: 10.1246/cl.150720


これだけでもわかる人は吉本新喜劇ばりにヽ(・ω・)/ズコーってな具合になったのですが、これが相当な論文でして。。。テレビ報道があったことも後押しして、この中身について強い批判が集まりました。

1) 「炭酸ガスと水で効率的に石油を合成と発表」のChemistry Lettersにツッコミまくる人々(Naverまとめ)
2) 「炭酸ガスと水で効率的に石油を合成」のファーストインプレッション (togetter)
3) 『炭酸ガスと水で効率的に石油を合成』:論文を読もう (隠れ家的な闇的な)

詳細は専門外ですし↑に任せるとして、でかくブチ上げたにもかかわらず突っ込みどころ満載な中身だったことに加えて、なんと学術論文にもかかわらず、その参考文献にウィキペディアが挙げられているということも判明しました(論文のref 6参照、Fischer-Tropsch processについて。読めない人は3のブログで確認してください)。

ウィキペディアと言えばいまや大体みんな検索かけて真っ先に読んじゃう、ラフに調べものするときには使っちゃうものではありますが、1)だれでも編集できるうえに 2)専門家が書いたとは限らない 3)現在残っているものが正しいという保証は一つもない という意味で確実なソースとするには極めて危ないものでもあります。そういう理由から、学生実験や雑誌会勉強会では学生に「ウィキペディアは信用するな」とか言っている教員がほとんどなわけですが、そんな中で学術雑誌がウィキペディアを公式ソースに挙げて、そしてそれをエディターが通しちゃった、という一連の流れが炎上に拍車をかけたわけです。

その結果、論文としての中身がアレな上、『ソースがウィキペディアってwwwwww』という論文を受理してしまった側にも当然批判が集まるわけで、Impact Factor値1.3の日本が誇る国産化学論文誌Chemistry Lettersはツイッター上で

「Chem. Lett.はこんな論文も通すのか」
「ウィキペディア引用するような論文通すなよ、日本化学会のレベルが疑われるぞ」
「エディターも査読も機能不全だな」
「ここまで落ちぶれたか」
「まあChem. Lett.だし仕方ないね」
「そもそもChem. Lett.って時点でお察し」
「あーChem. Lett.か・・・」
「Chem. Lett.ってもしかして査読ないの?」

といった具合のウルトラフルボッコを食らっておりました(実社会でも「あれはないわ」であふれてましたが)。IF低かろうが何だろうが化学的に、論理的におかしいものを通すのは論文として論外なんですけどね、あくまで新規性の程度で判断すべきであって。だからIF低いものほど審査ザルになるのは本来おかしいんですが。もっとも論文一個でそのjournalのクォリティを見るのもよくないんですけどね、Natureやアンゲにもゴミみたいなのもあるわけで。

さてそんな大炎上のM山レターズChem. Lett.ですが、アレな中身という論文本体とその査読についてはさておき、今日びネットデータベースも充実してきてるわけですので、『ネットコンテンツは論文の参考文献として挙げてはいけない』といったことは全然なく、むしろアメリカではそのためのルールも出来上がっているくらいです。このあたりはだいぶ前に紹介しましたが、参考にしたサイトの名称や管理人名に加えURLとそれを閲覧した年月を明記する、と言ったことが必要とされています。詳しくは↓を見てね☆(ゝω・)vキャピ

・ネットコンテンツを参考文献に挙げる話

とはいうものの、やっぱりウィキペディアをソースにするってどうよ?と思うのもよくわかります。そもそもあれが合ってるという保証ないし、いくらでも書き換えられるし、大体、同じ項目なのに言語ごとで書いてる内容違ってたりするし。
というわけで、「ウィキペディアを参考文献に挙げてるような論文wwwww」はほかにあったりするのか探してみました。

すると、大変意外なことに、いまや一流の化学論文誌(というか高IF論文)でもウィキペディアがソースに使われていることが判明したのです。

※基本的に化学研究の論文を対象にしています。化学教育分野(J. Chem. Educ.とか)になるとwikipediaを含めたネットコンテンツ引用はすさまじく多いです。

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2015年10月20日

人間由来の『天然物』の話 −続・トラマドール騒動 そのA完結編?―

(2015.10.21こっそりタイトル変更)
冒頭から関係ない話ですが、月刊化学11月号の某記事のreferenceに載りました
・*:.。..。.:*・゜ヽ( ´∀`)人(´∀` )ノ・゜゚・*:.。..。.:*
あくまでreferenceなのですが、いやーただの私的ブログが偉くなったもんです(*´ω`)
よろしければどこに載ってるか探してみてください(販促

by カエレバ


さて本題。前回までのあらすじを簡単に改めてまとめます。

創薬分子のなかにトラマドールというものがあり、鎮痛剤として使用されているのですが、これは人工合成分子として開発されたものであり、自然界には存在しないと思われていました。

ところが、アフリカ・カメルーンの植物S. latifoiusの根から、自然界に存在しないと思われていたこの人工鎮痛剤が発見されたという報告が登場しました。人工分子が自然界から見つかることはありますが(人工分子は天然に存在しないのか―抗がん剤分解物は妖精さんだった話―)、非常にレアであることから大変な話題を集めました。

しかし、この報告に疑問を持ったグループが独自に調査を行った結果、この植物から採れるはずのトラマドールは非常に少ないか全く採れない、さらには同じ植物なのに地域差、季節差があったり、しかもどういうわけかこの鎮痛剤を哺乳類が接種した際に生じる代謝物まで見つかるという非常に不可解なことに直面しました。

そしてさらに調べたところ、現地の一部地域でトラマドールの用法外過剰摂取が横行していただけでなく、人間用の鎮痛剤のはずであるトラマドールを、馬や牛といった家畜に投与してオーバーワークさせていたという大変に想定の斜め上を行くブラックな実態が明らかとなりました。これらの結果から、「植物から採れた」というトラマドールは、植物が生産しているのではなく、家畜などがジョボジョボブリブリした結果、その排泄物に含まれる人工トラマドールが水ごと植物に吸収された環境薬物汚染の結果である、という結論を導き出しました。(創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話)

tramadol returns returns 1 トラマ.jpg

トラマドール自体は割と簡単に手に入るもののようですが、スポーツ界でもこの鎮痛剤の乱用が問題となっており(危惧されるプロトン内での鎮痛剤「トラマドール」の乱用 安全なレースシーンを目指す動き/サンスポ内「週刊サイクルワールド」)、スポーツのみならず生活の中でもこんな薬物汚染があるのかと恐ろしくなる報告でした。

で、これで終わったかとおもいきや、ところがどっこい、最初に「トラマドールは植物が生産する天然物である」とするグループは「それは人が住んでる地域での話であって、我々が採取したのは人の手の入らない自然保護区内だから関係ない」とし、さらに独自の追加分析と植物の生合成についての考察を発表し、改めて「トラマドールは確かに植物が生産する」と主張しました。
このように、人工?鎮痛剤トラマドールの『天然物かそうでないか』論争はさらに混迷を増してきた、というのが前回までの流れです。("生合成"的に"人工創薬分子"を作った?話 −続・トラマドール騒動 その@―)

そこへきてつい最近、「トラマドールは天然物ではなく薬物環境汚染の産物である」とするグループが、これらの主張に対する返答として「植物から見つかった」トラマドールの起源についての調査結果を発表してきましたので、今回はそれを紹介します。


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posted by 樹 at 10:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月17日

『生合成』的に「人工創薬分子」を作った?話 −続・トラマドール騒動 その@―

去年の今頃、こんな話を投稿しました。

創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話

2013年、人工の創薬分子であるトラマドールが、カメルーンの植物から発見され、人工薬だと思っていたものが自然界から産生していた、ということで話題となりました。

ところがその翌年、別の研究グループの調査により、人用として市販されているはずのトラマドールが、現地カメルーンでは家畜にまで投与されるなど乱用されている実態が明らかとなり、結果として家畜の排せつ物から出たトラマドールが植物に蓄積された結果である、という報告がされました。つまり、この植物が生産していたと思われていたトラマドールは、人工の薬がまわりまわって植物に蓄積された薬物汚染の産物である、ということが報告されたのです。

tramadol top.jpg

天然から見つかった分子を人工的に作り出すのは、元ネタが分かっているという意味で容易ですが、人工的に作ったものが自然界から見つかったという例は、あることはありますが(人工分子は天然に存在しないのか―抗がん剤分解物は妖精さんだった話―)、そうそう見つかるものではありません。今回のトラマドールの件もそういう意味でNatureも取り上げるなど非常に話題を集めたものだったのですが、薬物汚染という報告が出たことから、アフリカの闇が明らかとなった上、化学的には非常にしょんぼりした感じで終わりました。

しかし、論文というものはなんにせよ所詮「・・・とワシはおもっとる」という根拠付きの自説を述べる媒体なので、反論やらなんやらというものはなんにでもやってきます。当然この「天然物じゃなくて市販の薬で汚染された結果でしたー」という論説に反対する人間もいるわけです。

そう、最初に「トラマドールを天然から発見した」と報告したグループです

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posted by 樹 at 14:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月02日

またどっちやねん!な話−抗マラリア薬合成再び

2年前にこんな話を投稿しました。

どっちやねん!な話ー創薬分子絶対構造決定の顛末

メフロキンは、キニーネの構造を模倣した創薬分子で、抗マラリア活性を持っています。薬としては古くから知られており、神経系の副作用も同時に知られていました。元々ラセミ体として使われていたようですが、比較的最近になって、旋光度が(+)を示す光学活性体にはその副作用が見られないという報告や、(+)体の方が1.5倍(−)体よりも強力で、半減期も長いということから、メフロキンのキラル合成の需要が急速に高まったのです。

mefloquine2 0 構造と活性.jpg

目的とする(+)体を確実に合成するためには、まずその絶対立体化学(S, R)を決めないといけません。ところがこの分子の絶対立体化学の決定は実にややこしい経緯をたどることとなり、こんな小さな分子にもかかわらず、その決着に40年も費やすこととなりました。

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posted by 樹 at 09:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする