よくアクセスがあるものをまとめておきました。右バーのカテゴリ別も参照ください。

レポート・実験データ等のまとめ
・研究室に貼っておくと便利な表などをあつめてみた(現在も随時更新追加中)
・検索・計算に使える化学サイトをあつめてみた
・特殊記号の出し方・ショートカットキーまとめ
・MS WORDショートカットや特殊アルファベットの入力法まとめ
・Powerpointのショートカットキー
・出版社ごとのオープンアクセス化費用をまとめてみた(有機合成化学向け)
・ネットコンテンツを参考文献に挙げる話
・情報ソースはウィキペディア、な論文の話
・タダで読めるけど・・・-オープンジャーナルのあやしい世界
・最近のOLのはなし

材料化学・自然化学・疑似化学
・ボーイング787の窓の秘密とクロミック材料の話
・アメフラシの紫汁の謎
・タコが光ってもいいじゃなイカ!-青い毒タコ・ヒョウモンダコ科の秘密-
・やけど虫の毒と抗がん活性
・世界一大きい花の臭いの話
・竜の血の赤、虫の赤
・撤回された天然竜血分子が全合成で確かめられた話
・はじけるキャンディ・ドンパッチの話
・危険なDHMO? SDS(MSDS)の話
・水を脱水した話
・高校生が高価な薬分子を格安で作った、という話
・人工分子は天然に存在しないのか―抗がん剤分解物は妖精さんだった話―
・創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話

有機合成化学実験
・Swern酸化の利点
・光延"反転"の話
・実験、爆発:やってはいけない組み合わせ
・モレキュラーシーブスは塩基か酸性か
・TBAFにモレシな話
・モレキュラーシーブスの乾燥法で収率が変わった話
・原料の不純物で反応が行ったり行かなかったりした話

大学講義の初級有機化学
・フィッシャー投影式をジグザグ式に変換する方法
・ニューマン投影式の理解の仕方
・R/S表記やE/Z表記など

2020年11月01日

オンライン学会に関する所感

2020年に入り全てが激変、すっかり「学会はオンラインでやるもの」と化してしまった感があります。COVID-19以前に戻るとは到底思えないので、「実地学会の発表未経験世代」どころか近いうち「現地開催の学会の存在そのものを知らない世代」も出てくるのでは。それにしてもこれ元に戻ったとしても旅費申請しづらくね?『オンラインにすればタダですよね?(ニッコリ不支給)』とかなりそう。

さてそんなこんなでオンラインでの学会で発表したりしなかったり呼ばれたり呼ばれなかったり呼ばれなかったりしてましたので、なんとなく思ったことを羅列して、更新のお茶を濁すことにします(何


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posted by 樹 at 18:02| Comment(5) | 有機化学雑記 | 更新情報をチェックする

2020年08月05日

恐怖のシクロヘキシルメチル基を回避する話

ベンゼン環といえば有機化学だけでなく化学、科学全般はおろか、一般人でも見たことあるレベルの「ザ・化学(っぽい)」なイメージが広く知れ渡った化学構造と言えます。6員環に便宜上3つの不飽和結合で表記した「シクロヘキサトリエン」として描かれますが、実際にはそれぞれがオレフィンのような挙動を示すわけではなく、非局在化・芳香族性によって強力に安定化された構造となっています。その安定性もあって、大概燃やしたらベンゼン環含む何かにはなるので潤沢にある資源でもあります。この2次元構造であるベンゼン環の芳香族性をぶっ壊して、sp3の三次元分子の原料にしてやろう、というアプローチは、昔からBirch還元やアンゲで大炎上した人みたいに酵素による不斉酸化などをつかって天然物合成でもやられてきましたが、ここ10年くらいでさらに複雑な手法が発展し、無置換ベンゼンからの全合成まで登場しました。

BenzylDeprotect09.jpg
BenzylDeprotect10.jpg

Synthesis of (+)-Pancratistatins via Catalytic Desymmetrization of Benzene
D. Sarlah et al.
J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 15656

Catalytic Three-component C–C Bond Forming Dearomatization of Bromoarenes with Malonates and Diazo Compounds
K. Muto, J. Yamaguchi, et al.
Chem. Sci. DOI: 10.1039/D0SC02881A


一方、こういった置換でsp3分子に変えていくスタイルだけでなく、単純に還元してsp3分子に変換、未知の分子と構造による化学的性質を解明しようという基礎的な研究も盛んです。例えば、塩素やフッ素といったハロゲンを持つベンゼンを、ハロゲンを還元的に飛ばすことなく、かつベンゼン環をシクロヘキサトリエンかのように水素付加してその(形式的)2重結合を還元し、ヤヌス型分子を合成してそのコンホメーション、相互作用を解明するという、きわめて基礎科学的な研究も2020年だけで多数報告されています。

BenzylDeprotect07.jpg
BenzylDeprotect08.jpg

Janus face all‐cis 1,2,4,5‐tetrakis(trifluoromethyl)‐ and all‐cis 1,2,3,4,5,6‐hexakis(trifluoromethyl)‐ cyclohexanes
D. O'Hagan, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.202008662

From Hexaphenylbenzene to 1,2,3,4,5,6-Hexacyclohexylcyclohexane
A. Narita, K. Müllen, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 12916.

アレーン類の水素化反応による官能基を有する飽和環式化合物の合成
(Review de Debut, オープンアクセス)
渡邉康平
有機合成化学協会誌 2020, 78, 723.

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2020.10.05追記
Correction to “From Hexaphenylbenzene to 1,2,3,4,5,6-Hexacyclohexylcyclohexane”
JACS DOI: 10.1021/jacs.0c09797

訂正入りました。全部飽和したと思ったら一個オレフィン残ってたんだってさ。
元論文見たら1H NMRしかないじゃんこれ。あと収率もないし。タイトルまで変わるわけで、これretractじゃなくてcorrectionで通っちゃうんだってなりましたまる。

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とはいうものの、日常的にはあまりベンゼン環自体を還元することはそうそう一般的な話ではないんですけどね。そもそも頑丈だし。

一方、芳香族化合物を取り扱ってない人でも多段階合成を行う際よく登場するベンゼン環といえば保護基として知られるベンジル(Bn)基があります。水素ガス雰囲気下Pd触媒などによる水素化分解で簡単に?外せる点が売りです。この際、ベンゼン環自体は壊れていません。なお、この脱保護は「水素化分解(hydrogenolysis)」であって2重結合の還元のような「水素化(hydrogenation)」ではないので用語に注意。

ところがどっこいこのベンジル基、肝心な時で外れないことでもおなじみ。外れないのでもむかつくのに、頑丈なはずのベンゼン環が水素化分解条件で見事に水素化還元され、シクロヘキシルメチル基に変化して外せないオワタ、となるケースすらあります。こうなると本当にどうしようもありません。てかお前「シクロヘキサトリエンじゃない」んじゃなかったんかい、普段頑丈で言うこときかないくせに。

BenzylDeprotect00.jpg

保護基をめぐる恐怖譚 (有機化学美術館・分館)

「なあ……誰かシクロヘキシルメチル基の外し方を知らないか?」

uwaaa.gif

そんな懐かしのAA置いてるくらい余裕あるならいいですが、大概絶望のどん底に突き落とされることになります。
そんな怪談ネタばかりをを夏よろしくかき集めた怪談話・・・をしてもいいんですが、これ以上人間を絶望に追いやることをするのも憚られるご時世なので、その回避法についての話も上げることにします。


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posted by 樹 at 09:00| Comment(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする

2020年04月11日

Markovnikov(マルコフニコフ)則の話

なんだか対面講義が中止になったりとかで、一人講義収録とかユーチューバーになれ指令とか来たりとか、だいぶ様相が様変わりしてきましたね突然。まあこういうことでもない限り変わらんのだけど悪い側面も今後出てくるんでしょうなあ。なんにしても良し悪しはある。一人講義収録を今後進めるとなると、ユーチューバーの講義動画投稿とかもハードル下がってくるんかな。まあ顔出ししたくないのでVtuberでいいすか?(何
それはそれとして、ハンコ文化はこれを機に新コロナウイルスとともに根絶やしにされてください。

・今までの基礎有機化学系の投稿リスト

というわけで、ここんところ学部生向けのやつをやってなかったんでやってみようと3月に思い始めてもう4月。
てかもうこれ以上なにやればいいのよ、丸々講義やるわけにもいかないしネタが・・・






|д゚) よし、パクろ


というわけでMarkovnikov則をやります。
ところで高校の化学で「マルコフニコフ則」を初めて聞いたとき、「マルコフニコフソク」までが人名だと思ってやっぱロシア人の名前はなげーなあ、ってなってたのは僕だけですかそうですか。
あと高校の時に同時に覚えたはずのザイツェフ(Saytzeff)則って大学入って以降一切名前見ないよね

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posted by 樹 at 09:00| Comment(0) | 基礎有機化学 | 更新情報をチェックする

2020年03月26日

触媒っぽく見えない触媒分子のはなし

(3/27 FLP1電子移動の記述を若干変更)

触媒開発どころか考えてみたら触媒反応開発すらやってこなかった身なので、金属リガンド設計やら有機触媒分子設計やらができる人ってすごいなあって昔からずっと思ってます。なんでこんなんで不斉出ると思ったんやとか、これで触媒再生して活性出せるってすごくね?とか。最近だとBen Listの超かさ高い有機強酸触媒とか「でけーよ」ってなるし。


中には「えっ、そもそもこれ触媒でまわるの?」ってものもあったり。というわけで、そんな感じでどうにも「これほんとに触媒なの?」というような分子による最近の触媒反応をあつめてみました。結果、遷移金属じゃなくて有機(っぽい)分子触媒での反応になるので金属屋さん怒らないでちょ。


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posted by 樹 at 09:00| Comment(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする

2020年03月10日

ジアゾやアジドを使わない話

(2020.3.10:西沢先生のくだりを訂正、2020.05.18:スルホキソニウム種に関して論文と関連リンクを追加)

全世界で不要不急のありとあらゆるイベントがなくなってますけど、これって任期付き職にとって大ダメージじゃないですかね????
いや、論文主体の分野ならまだましだけど、カンファレンス発表実績とか紀要メインだと致命傷では????
はーつらい(ヽ’ω`)





「仮想化」って選択肢あるのすげー時代だなって。

ということで、不要不急のブログを更新しておりますこんにちは(時節柄の挨拶)。
まあ3か月更新なかったしいいじゃんいいじゃん(偉そうに言わない
さて本題。

化学実験も大昔とは比べ物にならないほど安全に気を使うようになっています。大昔なんて(ピペッターなんてないから)ホールピペットで口使ってベンゼンとか吸ってたとか、タバコ吸いながらエーテルで分液振ってるとか、現代視点で見たらクレイジーとしか言いようがないことがあったわけですが、今や作業環境の大気測定とかでひっかかったら実験そのもの止められちゃうし、ドラフトチャンバーの実装もどんどん進んで(進めさせられて)います。

実験環境を整備するのはまあ考えてみたらむしろやってなかった方がまずいわけですが、実験そのもの、使う試薬類についてもそういう話はますます注目を集めるようになってきました。ごく最近では、頻繁に使われてきたペプチド縮合剤でアナフィラキシーショック起こしたという話や、ジクロロメタンをぶっ刺して入れちゃったらどうなるのっと→結果、見たいな超衝撃論文も話題になりました。

Anaphylaxis Induced by Peptide Coupling Agents: Lessons Learned from Repeated Exposure to HATU, HBTU, and HCTU
K. J. McKnelly, W. Sokol, J. S. Nowick
J. Org. Chem. 2020, 85, 1764.

Safety First: A Recent Case of a Dichloromethane Injection Injury
S. Vidal
ACS Cent. Sci. 2020, 6, 83


こんな風に直接暴露での人体に対する影響も広く認知されるようになりましたが、生物活性的なこういうことのほか、爆発等の物理的な危険性を示す物質に対しても、その代替法を模索する動きは昔からあります。ジアゾメタンとか使えるんかな今、いろんな事考えるとやりたくないし、多少収率低くてもTMS-ジアゾメタンにしたいところ。この辺は前にも書きましたが、こう言った安全性の向上は近年でも大きな研究テーマとなっています。

TMSジアゾメタンの話


こうした、代替法について、特に爆発だなんだと嫌がられるジアゾ(N2)、アジド(N3)について最近の例を挙げてみることにします。


Diazo-Azide00.jpg


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posted by 樹 at 09:00| Comment(2) | 有機化学 | 更新情報をチェックする