2014年11月26日

TBAFにモレシな話

TBAF(テトラブチルアンモニウム・フルオリド, tetrabutylammonium fluoride)は有機合成系の研究室では持ってないところはほとんどないと思われるくらいにメジャーな試薬で、シリル系(Si)保護基の除去としての利用法が一番多いかと思います。ほかにも塩基として用いたり、その塩基性を潰すため、TBAFにAcOHなどを添加する方法も知られています。

が、このTBAF、副反応としてアンモニウムイオンの分解によるトリブチルアミンの生成が知られているほか、水によって活性の弱いHF2へと変化してしまうこともわかっています(もっともTetrabutylammonium HF2-も脱シリル化剤として知られてはいるのですが)。またそれによって強塩基性のHO-が発生したりと、水のせいで色々やらしいことになってしまいます。

7 TBAF副反応分解.jpg

しかしTBAFそのものは極めて吸湿性が高い結晶で、脱水条件を実現するのはなかなかに困難です。加熱条件で無理やり脱水させた例もあるそうですが、加熱したせいなのか純粋TBAFがそういう性質なのかわかりませんが、Hofmann分解でアミンになってしまうという報告も同時にされています。一方、市販品で通常入手する形としては、THF溶液である場合が多いかと思います。しかしこのTHFも水とガンガン混ざるのでちゃんとした脱水試薬を調製するのはなかなか難しそうです。


そんなTBAFの脱水法について

『TBAF溶液にモレキュラーシーブス入れてる』


という話がTwitterに出てきました。確かに脱水剤のド定番ですからNa2SO4やMgSO4みたいにイオン交換とかの恐れを考えなくてもよさそうだし、一件問題なさそうです。
が、改めてモレシの組成を見てみると、、、、

MS3A: 0.6 K2O: 0.40 Na2O : 1 Al2O3 : 2.0 ± 0.1SiO2 : x H2O
MS4A: 1 Na2O: 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2 : x H2O
MS5A: 0.80 CaO : 0.20 Na2O : 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2: x H2O

過去Entry:モレキュラーシーブスは塩基か酸性か

あれ、シリカ成分入ってるけどいいのこれ!?TBAFとモレシ反応して失活しちゃわない?てかほんとにTBAF溶液モレシで脱水していいの!?

と思ったので色々探してみました。

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posted by 樹 at 09:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年09月11日

構造改訂と論文引用の話

日々次々と新しい有機化合物から天然から発見され
天然資源から採ってきたものだと全合成と違って原資が限られるので壊さないように、かつ構造がわかるように誘導をしたり、いろんな不純物を取り除いてたらなくなっちゃったみたいなことを繰り返してやっとこさ構造決定をするので大変しんどい分野ですが、それだけ苦労して提案した構造も合成によって再改定されることもしばしば。最近では

フッ素を持った天然物が取れた!

実はFじゃなくてOH(水酸基)でしたー!
なんて話が話題になりました。

1 フッ素天然物.jpg

他にも最近全合成で構造決定されたモノがあります。シクロイヌマキオールという天然物の提出構造を合成してみたら全然合わなくて、どうもこれは19-hydroxytotarolという既知化合物ではないかという話になったようです。水酸基の分分子量合わないけど、まあX線で直接見れるわけでもないし、間違え方としてはまああるかな、という気はします。

2 シクロイヌマキオール.jpg

中にはちょっと違ってる、とか立体化学が違うとかいうレベルじゃない構造改訂も。
究極例はこちら。軸不斉を持ったビナフチル天然物として報告された化合物。
ところが・・・・

3 ビナフチルがジフェニルエーテルだった.jpg

何 一 つ 合 っ て な い じ ゃ な い す か こ れ。

提出構造を作ったらあまりに違いすぎて単離元からサンプル取り寄せたらこうなった、とのことなのでまあこれで正しいんでしょうね、単離元の人も見てるし。ブロモとかすごいわかりやすそうなのに、ってか分子量の全然違うやんけ。いや、そもそも軸不斉とはなんだったのか。

まあこんな風に単離文献とあとあと構造違ってたなんてことはよくあることですが(最後のやつはさすがにどうかと思うけど)、今回問題にしたいのはそこではなくその引用の話。
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posted by 樹 at 10:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月10日

キノコから毒ガス?の話

秋ですねえ。キノコのおいしい季節になりました。
キノコと言えば某ホクトのCMが話題のようですが苦情で中止になったとか。

ホクトのきのこCM、苦情で打切り(livedoor news)

キノコ(意味深)。

ところでキノコと言えば食用と同時に毒としても有名なヤツですね。ベニテングダケやカエンタケみたいないかにも毒キノコってやつもいれば、非常に紛らわしくてプロでも間違うようなものもあります。
しかしこれらはほとんどが食して毒性が発現するものばかり(カエンタケは触るだけでも重症になる特殊タイプ)。胞子をガンガン飛ばしている割に毒ガスやら甘い息やらを吐くキノコは聞いたことがありません。ゲームやアニメにはよく出てきますけどね。まあガスをばらまいて遠く離れた獲物を仕留めたところでそもそも取りに行けないし、危険を回避する目的だとしてもそんな広域にまでばらまくのは労力に見合わないことを考えるとまあいなくて当然かなとは思います。

じゃあ、毒ガスを出すキノコがいないのかと言えばそうとも言えません。

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posted by 樹 at 19:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月13日

CO2(二酸化炭素)を使った有機合成

製品を作るにしてもでも何にしても、それを作るための材料は豊富にあってかつ安価なものである方が望ましいものです。ましてやそれが処理しにくかったり厄介者扱いされているようなものである場合、そのうまい利用法・処理法を開発することができれば、使い物にならないゴミ山は一瞬にして宝の山へと変化します。

CO2、二酸化炭素も人間自身呼吸するたびに生産しているガスであり、大気中に山のように存在しています。最近では温暖化の話もあって何かと厄介者扱い。ですが炭素を1個単位で追加できるC1化合物であり、類似化合物であるものの毒性が高く取り扱いが大変な一酸化炭素と違って、引火性もなく窒息に気を付けるくらいのもんなので合成素子として魅力的なものの一つです。ただし、工業的にも幅広く使われている反応性の高い一酸化炭素と比べて反応性はかなり落ちます。とはいえ構造としてはO=C=Oというカルボニルが二つくっついたような形をしているので、求核剤が反応すればカルボン酸となり、C1ユニットを、もっとも酸化段階の高い形で導入することができるわけです。安価かつエコな合成材料となるわけですから何とかしてうまく利用する方法はないか、そういう取り組みはさらに強まっています。最近はさらに窒素分子の利用法の開発も実現され始めてきていますが、今回はCO2を材料にした合成を、最近の例を中心に簡単に紹介します。


schemeNuCO2.jpg
s_NuCO2.JPG

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posted by 樹 at 10:00 | Comment(3) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月27日

どっちやねん!な話ー創薬分子絶対構造決定の顛末

生物活性を持つ有機分子は山のようにありますが、同じ分子でも同じように効果があるわけではありません。天然か人工かは全く関係ないですが、同じように見えて、鏡に映した像に相当する分子、つまり同じ手は手でも左手と右手のような関係にある分子では、生体・人体に与える影響は全く異なる場合が多く見られます。たとえば甘味料としてお馴染みのアスパルテームでも鏡像分子はまるで甘くないと言われています。ほんとかどうかは舐めたことないので知りませんけど。

アスパルテーム.jpg


同じことは当然薬の分子についても起こります。
Mefloquineは合成創薬化合物で、抗マラリア薬として現在も現役です。創薬化合物としては古参で、耐性菌が出ちゃってるくらい古参です。構造はこれまた古くから知られている天然の抗マラリア分子であるキニーネを模倣したものになっています。(Mefloquineにはthreo体とerythro体がありますが、今回erythro体の話しかしませんので以降はerythro-mefloquineを"Mefloquine"として表記します)

実はこのMefloquineは神経系に結構な副作用が出ることが昔から知られていました。マラリアで死ぬよりはましですから用法用量を守って正しくお使いください、なわけですが、最近になってこの副作用が光学活性なマイナス体のみに表れるもので、プラス体にはない、という報告がされたそうです。


mefloquine 0 構造と活性.jpg


元々Mefloquineはラセミ体として使われていたようですが、そうとわかれば光学活性なものを用意すればよいわけです。ですが、このプラスだとかマイナスだとかいうのは分子の比旋光度の符号のことなので、副作用が少ない方を今後選択的に合成していくに当たってはどういう絶対立体化学なのか(R/Sで示される絶対立体化学)をちゃんと実験的に決めないといけません。

ところがこのmefloquineの絶対立体化学決定の歴史をまとめてみると・・・・

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posted by 樹 at 15:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする