2016年02月22日

同時多発同じ研究の話


"どんなに画期的なアイデアでも、同じアイデアを持っている人が100人いても不思議ではない。こんなことを思いついたのは自分だけだと、全員が思い込んでいるにすぎない。"

という格言(この先に続きがあってそれだと意味変わっちゃうんだけど)があるらしいですが、どんなにいいアイデアを持っていても、それでいい成果が出ていたとしても、自分だけがそれをやっている保証は全くありません。そしてそれを世に出そうと思ったとき、誰かに先を越されてしまえばパーになってしまうのが研究の世界。古くはグラハム・ベルに2時間遅れで電話の特許を申請したため優位性が認められなかったイライジャ・グレイなんかが知られていますが、論文でも同じようなもので、1番じゃないと「発明者」とはなかなかなりません。むろん実用化や効率化も非常に重要なので2番以降はそういうことが重要になってくるわけですが、結局それらは1番の人の業績があって、という話になってしまいます。先行者と同じことを独立してことをやっていても、2番手になってしまえばパクりともいわれてしまい、大概の場合論文としての発表自体ができなくなってしまいます。何年研究にかかっていようがパーです。こんな感じで先に出されてしまって博士の学位がお亡くなりになってしまった話も聞きます。


さすがに論文の世界では数時間でアウトというわけではなく、ある程度時間が近ければ何とかpublishさせてもらえる場合が多いのですが(もちろん緊急事態なので大至急論文化しないといけないわけですが)、今回は無事(?)同時に出すことに成功した(と思われる)世界同時多発類似研究を取り上げてみます。


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2015年10月02日

またどっちやねん!な話−抗マラリア薬合成再び

2年前にこんな話を投稿しました。

どっちやねん!な話ー創薬分子絶対構造決定の顛末

メフロキンは、キニーネの構造を模倣した創薬分子で、抗マラリア活性を持っています。薬としては古くから知られており、神経系の副作用も同時に知られていました。元々ラセミ体として使われていたようですが、比較的最近になって、旋光度が(+)を示す光学活性体にはその副作用が見られないという報告や、(+)体の方が1.5倍(−)体よりも強力で、半減期も長いということから、メフロキンのキラル合成の需要が急速に高まったのです。

mefloquine2 0 構造と活性.jpg

目的とする(+)体を確実に合成するためには、まずその絶対立体化学(S, R)を決めないといけません。ところがこの分子の絶対立体化学の決定は実にややこしい経緯をたどることとなり、こんな小さな分子にもかかわらず、その決着に40年も費やすこととなりました。

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2014年11月26日

TBAFにモレシな話

TBAF(テトラブチルアンモニウム・フルオリド, tetrabutylammonium fluoride)は有機合成系の研究室では持ってないところはほとんどないと思われるくらいにメジャーな試薬で、シリル系(Si)保護基の除去としての利用法が一番多いかと思います。ほかにも塩基として用いたり、その塩基性を潰すため、TBAFにAcOHなどを添加する方法も知られています。

が、このTBAF、副反応としてアンモニウムイオンの分解によるトリブチルアミンの生成が知られているほか、水によって活性の弱いHF2へと変化してしまうこともわかっています(もっともTetrabutylammonium HF2-も脱シリル化剤として知られてはいるのですが)。またそれによって強塩基性のHO-が発生したりと、水のせいで色々やらしいことになってしまいます。

7 TBAF副反応分解.jpg

しかしTBAFそのものは極めて吸湿性が高い結晶で、脱水条件を実現するのはなかなかに困難です。加熱条件で無理やり脱水させた例もあるそうですが、加熱したせいなのか純粋TBAFがそういう性質なのかわかりませんが、Hofmann分解でアミンになってしまうという報告も同時にされています。一方、市販品で通常入手する形としては、THF溶液である場合が多いかと思います。しかしこのTHFも水とガンガン混ざるのでちゃんとした脱水試薬を調製するのはなかなか難しそうです。


そんなTBAFの脱水法について

『TBAF溶液にモレキュラーシーブス入れてる』


という話がTwitterに出てきました。確かに脱水剤のド定番ですからNa2SO4やMgSO4みたいにイオン交換とかの恐れを考えなくてもよさそうだし、一件問題なさそうです。
が、改めてモレシの組成を見てみると、、、、

MS3A: 0.6 K2O: 0.40 Na2O : 1 Al2O3 : 2.0 ± 0.1SiO2 : x H2O
MS4A: 1 Na2O: 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2 : x H2O
MS5A: 0.80 CaO : 0.20 Na2O : 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2: x H2O

過去Entry:モレキュラーシーブスは塩基か酸性か

あれ、シリカ成分入ってるけどいいのこれ!?TBAFとモレシ反応して失活しちゃわない?てかほんとにTBAF溶液モレシで脱水していいの!?

と思ったので色々探してみました。

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2014年09月11日

構造改訂と論文引用の話

日々次々と新しい有機化合物から天然から発見され
天然資源から採ってきたものだと全合成と違って原資が限られるので壊さないように、かつ構造がわかるように誘導をしたり、いろんな不純物を取り除いてたらなくなっちゃったみたいなことを繰り返してやっとこさ構造決定をするので大変しんどい分野ですが、それだけ苦労して提案した構造も合成によって再改定されることもしばしば。最近では

フッ素を持った天然物が取れた!

実はFじゃなくてOH(水酸基)でしたー!
なんて話が話題になりました。

1 フッ素天然物.jpg

他にも最近全合成で構造決定されたモノがあります。シクロイヌマキオールという天然物の提出構造を合成してみたら全然合わなくて、どうもこれは19-hydroxytotarolという既知化合物ではないかという話になったようです。水酸基の分分子量合わないけど、まあX線で直接見れるわけでもないし、間違え方としてはまああるかな、という気はします。

2 シクロイヌマキオール.jpg

中にはちょっと違ってる、とか立体化学が違うとかいうレベルじゃない構造改訂も。
究極例はこちら。軸不斉を持ったビナフチル天然物として報告された化合物。
ところが・・・・

3 ビナフチルがジフェニルエーテルだった.jpg

何 一 つ 合 っ て な い じ ゃ な い す か こ れ。

提出構造を作ったらあまりに違いすぎて単離元からサンプル取り寄せたらこうなった、とのことなのでまあこれで正しいんでしょうね、単離元の人も見てるし。ブロモとかすごいわかりやすそうなのに、ってか分子量の全然違うやんけ。いや、そもそも軸不斉とはなんだったのか。

まあこんな風に単離文献とあとあと構造違ってたなんてことはよくあることですが(最後のやつはさすがにどうかと思うけど)、今回問題にしたいのはそこではなくその引用の話。
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2013年11月10日

キノコから毒ガス?の話

秋ですねえ。キノコのおいしい季節になりました。
キノコと言えば某ホクトのCMが話題のようですが苦情で中止になったとか。

ホクトのきのこCM、苦情で打切り(livedoor news)

キノコ(意味深)。

ところでキノコと言えば食用と同時に毒としても有名なヤツですね。ベニテングダケやカエンタケみたいないかにも毒キノコってやつもいれば、非常に紛らわしくてプロでも間違うようなものもあります。
しかしこれらはほとんどが食して毒性が発現するものばかり(カエンタケは触るだけでも重症になる特殊タイプ)。胞子をガンガン飛ばしている割に毒ガスやら甘い息やらを吐くキノコは聞いたことがありません。ゲームやアニメにはよく出てきますけどね。まあガスをばらまいて遠く離れた獲物を仕留めたところでそもそも取りに行けないし、危険を回避する目的だとしてもそんな広域にまでばらまくのは労力に見合わないことを考えるとまあいなくて当然かなとは思います。

じゃあ、毒ガスを出すキノコがいないのかと言えばそうとも言えません。

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posted by 樹 at 19:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする