

Synthesis of (+)-Pancratistatins via Catalytic Desymmetrization of Benzene
D. Sarlah et al.
J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 15656
Catalytic Three-component C–C Bond Forming Dearomatization of Bromoarenes with Malonates and Diazo Compounds
K. Muto, J. Yamaguchi, et al.
Chem. Sci. DOI: 10.1039/D0SC02881A
一方、こういった置換でsp3分子に変えていくスタイルだけでなく、単純に還元してsp3分子に変換、未知の分子と構造による化学的性質を解明しようという基礎的な研究も盛んです。例えば、塩素やフッ素といったハロゲンを持つベンゼンを、ハロゲンを還元的に飛ばすことなく、かつベンゼン環をシクロヘキサトリエンかのように水素付加してその(形式的)2重結合を還元し、ヤヌス型分子を合成してそのコンホメーション、相互作用を解明するという、きわめて基礎科学的な研究も2020年だけで多数報告されています。


Janus face all‐cis 1,2,4,5‐tetrakis(trifluoromethyl)‐ and all‐cis 1,2,3,4,5,6‐hexakis(trifluoromethyl)‐ cyclohexanes
D. O'Hagan, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.202008662
From Hexaphenylbenzene to 1,2,3,4,5,6-Hexacyclohexylcyclohexane
A. Narita, K. Müllen, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 12916.
アレーン類の水素化反応による官能基を有する飽和環式化合物の合成
(Review de Debut, オープンアクセス)
渡邉康平
有機合成化学協会誌 2020, 78, 723.
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2020.10.05追記
Correction to “From Hexaphenylbenzene to 1,2,3,4,5,6-Hexacyclohexylcyclohexane”
JACS DOI: 10.1021/jacs.0c09797
訂正入りました。全部飽和したと思ったら一個オレフィン残ってたんだってさ。
元論文見たら1H NMRしかないじゃんこれ。あと収率もないし。タイトルまで変わるわけで、これretractじゃなくてcorrectionで通っちゃうんだってなりましたまる。
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とはいうものの、日常的にはあまりベンゼン環自体を還元することはそうそう一般的な話ではないんですけどね。そもそも頑丈だし。
一方、芳香族化合物を取り扱ってない人でも多段階合成を行う際よく登場するベンゼン環といえば保護基として知られるベンジル(Bn)基があります。水素ガス雰囲気下Pd触媒などによる水素化分解で簡単に?外せる点が売りです。この際、ベンゼン環自体は壊れていません。なお、この脱保護は「水素化分解(hydrogenolysis)」であって2重結合の還元のような「水素化(hydrogenation)」ではないので用語に注意。
ところがどっこいこのベンジル基、肝心な時で外れないことでもおなじみ。外れないのでもむかつくのに、頑丈なはずのベンゼン環が水素化分解条件で見事に水素化還元され、シクロヘキシルメチル基に変化して外せないオワタ、となるケースすらあります。こうなると本当にどうしようもありません。てかお前「シクロヘキサトリエンじゃない」んじゃなかったんかい、普段頑丈で言うこときかないくせに。

・保護基をめぐる恐怖譚 (有機化学美術館・分館)
「なあ……誰かシクロヘキシルメチル基の外し方を知らないか?」

そんな懐かしのAA置いてるくらい余裕あるならいいですが、大概絶望のどん底に突き落とされることになります。
そんな怪談ネタばかりをを夏よろしくかき集めた怪談話・・・をしてもいいんですが、これ以上人間を絶望に追いやることをするのも憚られるご時世なので、その回避法についての話も上げることにします。
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