それはそれとして、ハンコ文化はこれを機に新コロナウイルスとともに根絶やしにされてください。
・今までの基礎有機化学系の投稿リスト
というわけで、ここんところ学部生向けのやつをやってなかったんでやってみようと3月に思い始めてもう4月。
てかもうこれ以上なにやればいいのよ、丸々講義やるわけにもいかないしネタが・・・
|д゚) よし、パクろ
というわけでMarkovnikov則をやります。
ところで高校の化学で「マルコフニコフ則」を初めて聞いたとき、「マルコフニコフソク」までが人名だと思ってやっぱロシア人の名前はなげーなあ、ってなってたのは僕だけですかそうですか。
とはいうものの、どうせ講義でやるんだし長々書いたってしょうがないので、キモのところだけドーンとやります。
すなわち、
多置換、なんかいっぱいついてる炭素のカチオン(カルボカチオン)は安定!発生しやすい!
酸ってのは電子が足りてないので、いっぱい電子持ってるやつらから2電子奪い取りがち!ルイス酸も同じ!
以上、終わり!
あれ、マルコフニコフは・・・?
というこの2つが本質です。そこさえ押さえとけば
では実例、2-メチル-2-ブテンの反応で見てみましょう。あ、当然この化合物命名とかもちゃんとできるようになっといてね。
電子の足りない酸(ここではブレンステッド酸のH+)に対して、π電子を持つ電子豊富なアルケンが2電子を与えに行くわけです。この時問題になるのは、第2級側、第3級炭素側のどっちでプロトンを捕まえるか、言い換えると、「どっちの炭素上に、電子持ってかれた分の正電荷を発生させるか」ということです。
これを、さっきの要点で見ると、いっぱい置換されてる炭素上に正電荷が乗る形、つまり第3級カルボカチオンが生じる方向で、プロトンを捕まえる方が有利ということになります。
実際には電荷出しっぱなしは不安定なので、酸としてHX(H+ と X-)の反応で見ると、H+との反応で生じた安定なカルボカチオンに、求核剤X-が付加した化合物が、反応生成物としてメインに取れてくることになります。
Markovnikov則は「2重結合にH+が付加するとき、元々水素を多く持っていた炭素側に付加する」と説明されますが、さっきも言ったとおり要は出やすいカルボカチオンを出すようにして酸を捕まえるのが本質なので、機械的に覚えるよりはこっちの方が感覚として理解しやすいかと思います。
では実践的な例として毎度出てくるヒドロホウ素化反応を見てみましょう。ボランBH3とオレフィンが反応し、基質にBH2とHがくっつく反応ですが、ホウ素Bが第2級側か、第3級側か、という選択肢があります。
ヒドロホウ素化の反応機構としては4員環遷移状態を経てBとHが同時に付加するんですが、ここでは理解のために無理やり分割して段階的に見ることにします。
すると、電子の足りてないルイス酸であるホウ素に対してアルケンが2電子あげちゃう形として描くことができます。結果、安定カルボカチオンを出す3置換炭素側が+になるイコール2置換炭素中心側でホウ素を受け取ることになり、多置換側にはヒドリドHが付くことになります。
この後酸化的処理でホウ素の部分を水酸基OHに変えると、マルコフニコフ則と逆の向きに水が付加したanti-Markovnikov生成物になります。
さて反対にMarkovnikov型の生成物を与える反応として例に用いられるのがオキシ水銀化反応です。化学量論量の水銀塩を水存在下アルケンに作用させ、形式的に水が付加した生成物を得る反応です。なんだけど、今日び触媒的じゃないオキシ水銀化反応なんてもう誰もやんないんだし、いい加減別の反応例とかにならないかしらねこれ。
それはさておき、水銀塩はHg2+、電子足りてないのでこれもまたアルケンから電子を奪う形になります。反応機構としては3員環型のマーキュリウムイオンを経由するんですが、これもわかりやすくするために分けて考えます。
すると、先ほどのヒドロホウ素化同様、安定カルボカチオンを出すように、2置換炭素側で水銀イオンを捕まえることになり、生じた安定カルボカチオン側には水が入って水酸基が導入されます。
でもヒドロホウ素化がanti-Markovnikov、オキシ水銀化がMarkovnikov生成物という逆向きの水付加体を与えるのはなにか不思議な気もしてしまいます。この辺でわけわかんなくなる人もいそうですが、これはあくまで付加後の変換の結果、水酸基の入る側が違ってるというだけです。もっと正確に言うと、水和物を与える反応はヒドロホウ素化-酸化(hydroboration-oxidation), オキシ水銀化-脱水銀化(oxymercuration-demercuration)のようにその後の酸化還元反応とセットなので、ヒドロホウ素化・オキシ水銀化単体でMarkovnikov則がどうこう言うのは正確ではありません。
ヒドロホウ素化の場合、ボランの付加の段階では水酸基は入っておらず、ホウ素の酸化によってあとから水酸基が導入されます。一方のオキシ水銀化は最初の段階で水酸基がすでに入っており、この後還元的処理で水銀を吹っ飛ばしてHに変えることになります。
結果、水酸基の位置は逆になりますが、そもそもの最初の段階である「オレフィンに対する酸の付加」という点においては、ヒドロホウ素化・オキシ水銀化のどちらもやってることが同じなのです。なので、Markovnikov, anti-Markovnikovという名前を前面にして覚えると本質を覚えられなくなるし、下手したら「フレミングの法則左手と右手を間違える」みたいになって全部解答逆になる恐れも。
というわけであんまり名前に踊らされずに「酸・求電子剤との反応は、安定なカルボカチオンが出るように反応が進む」と覚えておきましょう。
ちなみに反応の名前ですが、これもあまり暗記的呪文的に覚えないように。アルケンのそれぞれの炭素を「オキシ(oxy)」「水銀(mercury)」化するのでオキシ水銀化(oxymercuration)、「ヒドロ(hydro)」「ホウ素(borane)」化するからヒドロホウ素化(hydroboration)なので、そういった認識も心がけましょう。
関係ないけど人名反応もあんまし人名に踊らされちゃだめよ、あれはいちいち「ほらアレや、アレがあーなってアレができるよく使う・・・ほらアレ!」って言わなくていいように名前がついてるだけの話なので(なのでろくに誰にも使われてないのにname reaction化権威付けのバーゲンセールっていうここ20年くらいの流れはほんとに嫌い)。
というわけでMarkovnikov則の話をしたわけですが、これでみなさん完ぺ・・・・なに!?わからんだと!?
じゃあもうYouTubeでも見といて(:3[_____]