よくアクセスがあるものをまとめておきました。右バーのカテゴリ別も参照ください。

レポート・実験データ等のまとめ
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・特殊記号の出し方・ショートカットキーまとめ
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・Powerpointのショートカットキー
・出版社ごとのオープンアクセス化費用をまとめてみた(有機合成化学向け)
・ネットコンテンツを参考文献に挙げる話
・情報ソースはウィキペディア、な論文の話
・タダで読めるけど・・・-オープンジャーナルのあやしい世界
・最近のOLのはなし

材料化学・自然化学・疑似化学
・ボーイング787の窓の秘密とクロミック材料の話
・アメフラシの紫汁の謎
・タコが光ってもいいじゃなイカ!-青い毒タコ・ヒョウモンダコ科の秘密-
・やけど虫の毒と抗がん活性
・世界一大きい花の臭いの話
・竜の血の赤、虫の赤
・撤回された天然竜血分子が全合成で確かめられた話
・はじけるキャンディ・ドンパッチの話
・危険なDHMO? SDS(MSDS)の話
・水を脱水した話
・高校生が高価な薬分子を格安で作った、という話
・人工分子は天然に存在しないのか―抗がん剤分解物は妖精さんだった話―
・創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話

有機合成化学実験
・Swern酸化の利点
・光延"反転"の話
・実験、爆発:やってはいけない組み合わせ
・モレキュラーシーブスは塩基か酸性か
・TBAFにモレシな話
・モレキュラーシーブスの乾燥法で収率が変わった話
・原料の不純物で反応が行ったり行かなかったりした話

大学講義の初級有機化学
・フィッシャー投影式をジグザグ式に変換する方法
・ニューマン投影式の理解の仕方
・R/S表記やE/Z表記など

2019年12月25日

2019年論文オブザイヤー改め2019年論文を振り返る話 ③インフォマティクス・安全性・総説論説・その他おまけ編


2019年論文オブザイヤー改め2019年論文を振り返る話
①構造有機・保護脱保護・天然物編
②試薬・装置・反応編


2019年論文振り返り企画第三弾!!

最後は「③インフォマティクス・安全性・総説論説・その他おまけ編」
もういろんなのいっぱい。AIやら総説やら安全関係やら論文取り下げまでなんでもあり!
ぬわああああん疲れたもおおおおん


[安全性編]

やっぱり実験って危ないよね、というわけで今年の気を付けよう論文ズ。OPRD誌多め。


Phantom Reactivity in Organic and Catalytic Reactions as a Consequence of Microscale Destruction and Contamination-Trapping Effects of Magnetic Stir Bars
V. P. Ananikov, et al.
ACS Catal. 2019, 9, 3070.

・撹拌子が金属触媒反応のコンタミを引き起こす話(有機化学論文研究所)

・テフロン撹拌子に注意!!(高純度化学研究所公式ブログ)

コンタミ・オブザイヤー論文(なにそれ
撹拌子にくっついてる不純物が変な起こすケースを実証。確かにすさまじくきったない撹拌子たまにあったり、もうテフロン剥げて磁石見えちゃってるやつとかあるけど、こういう危険性あるのねえ。「この撹拌子だと反応が進む」みたいなこともありそう。というわけで攪拌子は1反応ごとに捨てて新しいのを買いましょう(それはアホ



1,2,5-Oxadiazole-Based High-Energy-Density Materials: Synthesis and Performance
L. L. Fershtat, N. N. Makhova
ChemPlusChem DOI: 10.1002/cplu.201900542.

高エネルギー化合物1,2,5-オキサジアゾールの総説。やばい化合物しか出てこない件。あと”Explosophore”(誘爆団?)なんて言葉初めて聞いたけど一応wikipediaにも項目あるのね(Wikipedia(英, explosophore))



Potassium tert-Amylate: A Cautionary Tale
D. D. Caspi, S. M. Richter
J. Org. Chem. 2019, 84, 8256.

ラボスケールだとtBuOKだけど工業スケールでよく使われるtert-amylOK (あとtBuOKより溶媒によく溶けるらしい)。同じじゃん?って思ってたけど、トルエン中で使ったときに反応で副生したり水分のせいで発生するtert-amyl alcoholのせいで系がガッチガチにゲル化するという現象が。事故につながりかねないこの現象に関するAbbVieからの論文。



Mutagenic Impurities in 1-Hydroxybenzotriazole (HOBt)
D. S. Treitler, et al.
Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 2562.

縮合剤HOBtに変異原性のヒドラジン・ヒドラジドが混ざってたよという話、複数社品も比較。ラボスケールならいいかもしれんけど、なんせ2000ppm以上入ってるっぽいのでデカくなってきたらそうもいかない。



Investigating the Underappreciated Hydrolytic Instability of 1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene and Related Unsaturated Nitrogenous Bases
A. M. Hyde, et al.
Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 9, 1860

DBUなどの環状アミジン・グアニジン有機塩基の分解反応について。水存在下だとぶっ壊れちゃうよって当たり前なんだけど言われてみれば確かにオブザイヤー。ほかにも求核剤と反応して分解という例や、じゃあ水があったらどんだけ分解しちゃうのプロファイルなどいろいろ。



Explosion Hazards of Sodium Hydride in Dimethyl Sulfoxide, N,N-Dimethylformamide, and N,N-Dimethylacetamide
Q. Yang, et al.
Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 10, 2210.

NaH in DMF, DMAやらDMSOやらの条件ってよくある(Bn化なんかはBnBr, NaH, DMFとかだし)けど、発熱分解反応が意外と低温で起こるし、NaH/DMSOに至ってはどっかーん、ということが判明。というわけでNaHはやっぱりこわいよ、というお話。安全性の話で今年一番Buzzった論文かしら。



Bis(3-nitro-1-(trinitromethyl)-1H-1,2,4-triazol-5-yl)methanone: An Applicable and Very Dense Green Oxidizer
J. M. Shreeve, et al.
J. Am. Chem. Soc. DOI: 10.1021/jacs.9b11326.

2019oftheyear08Safety01Shreeve.jpg

Sitan.jpg

というわけでいつものShreeve感。“Very Dense Green Oxidizer”と言われましても・・・
それはそれとして、トリニトロメチル基ってそうやって作るんだへーってなります。絶対今後使うことはないけどw



Diazoacetonitrile (N2CHCN): A Long Forgotten but Valuable Reagent for Organic Synthesis
P. K. Mykhailiuk, R. M. Koenigs
Chem. Eur. J. DOI: 10.1002/chem.201903335.

ジアゾアセトニトリルとかすげえな、炭素2個に対して窒素3個ですわよ。そんな試薬の合成法や物性、最近のリバイバル新しい使い道などについての総説。




2019oftheyear08Safety02Cyrene.jpg

New solvent seeks to replace NMP (C&EN, May/30/2019)

Merck Introduces New Greener Solvent, Cyrene™ (Sigma-Aldrich)

Bio‐available Solvent Cyrene: Synthesis, Derivatization, and Applications
J. E. Camp
ChemSusChem 2018, 11, 3048.

論文としては今年じゃないけど、やたら今年Merckが「次世代のグリーン溶媒」とか言って推してくるので紹介。買うと高いけどセルロース煮て作れるレボグルコセノン。磯部-西川研テトロドトキシン全合成の原料にも使われてたこのキラル化合物の2重結合をつぶしたのが商標名「Cyrene」のジヒドロレボグルコセノン。キラル原料としてなのかと思いきや推しの用途は非プロトン性極性溶媒。なんでこれが推されてるかというと、極性溶媒のNMPの規制が強くなっちゃったんですね。というわけで工業的な代替溶媒を探さないといけなくなってきたという流れ。どんどん厳しくなるなあもう。

なお、溶媒自体の安定性(というか何をやったら分解しちゃうか)をまとめた総説も去年出てます。分解例ばっかし載ってるのでこうしてみると使えない溶媒感出ちゃうけど、知らないうちにこういう溶媒を分解する反応はやってたりするのよね。そういう意味でもlimitationを知ることは大事。



Thermal Stability and Explosive Hazard Assessment of Diazo Compounds and Diazo Transfer Reagents
J. P. Hallett, P. W. Miller, J. A. Bull, et al.
Org. Process Res. Dev. DOI: 10.1021/acs.oprd.9b00422.

ジアゾ化合物やジアゾ移動剤の爆発性・熱安定性について。意外とちゃんとしたデータがなかったらしいのでそれをちゃんと改めて評価した話。電子求引性基で引きまくってると意外と安全な奴がいる、というのも。逆に押すのはダメよ。


[機械学習・データ駆動等インフォマティクス編]
一億総機械学習社会(ぉ




Rapid and Accurate Prediction of pKa Values of C−H Acids Using Graph Convolutional Neural Networks
B. A. Grzybowski, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 17142.

C-Hの酸性度pKaをグラフ構造ニューラルネットワークで高速かつ正確に予測。C-Hの酸性度はC-H官能基化能にも影響するので短工程全合成経路の立案にもかなり影響するのでは。



Learning Retrosynthetic Planning through Simulated Experience
J. S. Schreck, C. W. Coley, K. J. M. Bishop
ACS Cent. Sci. 2019, 5, 970.

Abstractの冒頭から“The problem of retrosynthetic planning can be framed as a one-player game”というアレ。機械学習を使って最適効率的短段階の逆合成を立案しちゃうというもの。これもう多グループで合成すること自体の意味というか多様性自体をなくしていってる気がしなくもない。



Selection of cost-effective yet chemically diverse pathways from the networks of computer-generated retrosynthetic plans
B. A. Grzybowski, et al.
Chem. Sci., 2019,10, 4640.

その逆合成経路探索にコスト要素まで組み込んだシステムまで登場。
??省「これいいじゃん。なので科研費も運営交付金も私学助成も減らせるな?」



Navigating around Patented Routes by Preserving Specific Motifs along Computer-Planned Retrosynthetic Pathways
B. A. Grzybowski, et al.
Chem 2019, 5, 460.

・Chematica could help chemists avoid patented synthetic routes (C&EN, Jan/17/2019)


Chematica (現Synthia)で合成経路の特許回避。もうなんでもできちゃうなこれ。いろんな会社がこういうの導入したらけん制し合って三すくみみたいになったりして。



Computational design of syntheses leading to compound libraries or isotopically labelled targets
B. A. Grzybowski, et al.
Chem. Sci., 2019,10, 9219.

同位体ラベル化化合物のライブラリ合成に向けた計算システム。



Data-Driven Prediction of Risk in Drug Substance Starting Materials
B. J. Reizman, et al.
Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 1429.

Elly Lillyから。様々なパラメータを用いたデータ駆動による反応原料基質のリスクアセスメントの事前予測と実際の応用。
企業の方がこういうの積極的にやってる印象強くて大学の当該分野の方が圧倒的に出遅れてる感。まあ結局持ってる自前の膨大なデータをどう効率的に使うかなわけだから大企業で経験値ある方が手が出せる一方、手持ちデータの薄い個人ラボがやりにくいのはしょうがないか。



Prediction of higher-selectivity catalysts by computer-driven workflow and machine learning
S. E. Denmark, et al.
Science 2019, 363, eaau5631.

Holistic prediction of enantioselectivity in asymmetric catalysis
J. P. Reid, M. S. Sigman
Nature 2019, 571, 343.

・高選択的な不斉触媒系を機械学習で予測する (Chem-Station)

寺田-秋山型触媒の機械学習による最適触媒構造の探索と応用。これ可能になったらもうなんでもできるじゃんという気がしちゃうけど、これ寺田-秋山型触媒の反応機構含めた先行研究・知見がいっぱいあるからできる話であって、自前の新しい触媒とか知見なしの触媒とかにはこういうやり方できないので注意。



Characterization of Leptazolines A–D, Polar Oxazolines from the Cyanobacterium Leptolyngbya sp., Reveals a Glitch with the “Willoughby–Hoye” Scripts for Calculating NMR Chemical Shifts
P. G. Williams, et al.
Org. Lett. 2019, 21, 8449.

コンピューターばっかしで「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」感ばっかりですが、かといって理屈も分からずタダ乗りしてるだけだと痛い目見るよって話。

天然物Leptazolines A−Dの構造決定、なんですがそっちよりも話題の中心は別のところにあり、そちらの方で世界的に大きな話題になった論文。NMRスペクトルデータ実測値からの構造決定のhelpとして、NMR化学シフト計算プログラムを走らせたところ、同じGaussian出力ファイルなのに使用OSで結果が変わるという現象が。Macに至ってはOS X Mavericksは大丈夫なのに最新のMojaveにするとダメになるという劣化っぷり。結論として、使ってたPython script(すでにかなりの数のグループに天然物・反応生成物構造決定などの手法として使われている)に、いままで誰も気づかなかったエラーがあったということが判明。大惨事ですわよ。




[総説・論説編]

総説だけでなく論説も。

恐ろしいサイエンスのポピュリズム化 (山本尚, 「化学と工業」2019年8月号論説, PDF)

鴻が見る風景 ~山本尚教授の巻頭言より~ (Chem-Station)

ブチ切れ御大。実はいまだに会ったことも講演も聞いたことないのは内緒。
その一方、せっかく御大(某会前会長)がこういってるにもかかわらず、肝心の2020年度次期会長がそのポピュリズムというか脳筋そのものな発言をしており、大変救いがないでござる



An Information-Rich Graphical Representation of Catalytic Cycles
J. S. McIndoe, et al.
Organometallics 2019, 38, 4051.

触媒サイクルの絵をもっとわかりやすく書きましょうよという話。確かに今はもういろんな絵描けるし、冊子体論文も今日び少ないからカラー制限も少ないし、もっとステージ毎、触媒サイクル毎カラフルにするとわかりやすい。というわけで結合ごとに色を変えますね(やめなさい



Synthetic organic chemistry driven by artificial intelligence
T. Rodrigues, et al.
Nat. Rev. Chem. 2019, 3, 589.

AIによる有機合成化学の総説。らしいですよ。読めないからわかんないので感想キボンヌ(他人任せ



Metallomimetic Chemistry of Boron
H. Braunschweig, et al.
Chem. Rev. 2019, 119, 8231.

ひたすらホウ素。構造有機的な内容だけど、ホウ素化学というかホウ素ポテンシャルの学習に。



Structural Simplification of Natural Products
C. Sheng, et al.
Chem. Rev. 2019, 119, 4180.

天然物の構造をどこまで簡略化できるかレース(嘘
ほんとに全部の構造がないと活性出ないやつもいれば劇的に簡略化できるやつもいるから不思議。



Computational Ligand Descriptors for Catalyst Design
D. J. Durand, N. Fey
Chem. Rev. 2019, 119, 6561.

触媒リガンドに関する様々なパラメータとコンピューターによる探索総説。



Reductive Amination in the Synthesis of Pharmaceuticals
D. Chusov, et al.
Chem. Rev. 2019, 119, 11857.

創薬合成における還元的アミノ化の総説。重要だけどあんまりまとまったのが見れないテーマなのでいいまとめかも。



Photopolymerization in 3D Printing
A. Bagheri, J. Jin
ACS Appl. Polym. Mater. 2019, 1, 593.

3Dプリンタにおける光重合。光酸発生剤などの話も。一般的になってきた3Dプリンタの材料側の話題として。てかACSもまーたこんな新しい論文誌作っちゃって
╮(•́ω•̀)╭



Designing around Structural Alerts in Drug Discovery
A. S. Kalgutkar
J. Med. Chem. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.9b00917

創薬分子設計でこの構造よろしくない!という知見をまとめた話。要は俺の屍を越えてゆけ的論文。



Applications of Deuterium in Medicinal Chemistry
T. Pirali, et al.
J. Med. Chem. 2019, 62, 11, 5276.

メドケムにおける重水素Dの利用。総説になるくらいには使われてるのね、知らんかった。



Medical Uses of Silver: History, Myths, and Scientific Evidence
S. Medici, M. Peana, V. M. Nurchi, M. A. Zoroddu
J. Med. Chem. 2019, 62, 5923.

銀の怪しい話と科学的根拠について。銀イオンドライヤーとかあったなあ(白目



Biaryl monophosphine ligands in palladium-catalyzed C-N coupling: An updated User's guide
S. L. Buchwald, et al.
Tetrahedron 2019, 75, 4199.

ビアリール単座ホスフィン配位子の総説 by 配位子マン



A Survival Guide for the “Electro-curious”
P. S. Baran, et al.
Acc. Chem. Res. DOI: 10.1021/acs.accounts.9b00539

Baranによる俺様電解反応総説。俺様だけど分かりやすいからしょうがない、電極材とかもちゃんと解説してるし大変入門的だし実践的。そして例によってしれっと自分の商品装置を宣伝()



Synthetic Photoelectrochemistry
J. P. Barham, B. König
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.201913767

今度は光電気化学の総説。光と電気を両方使ってもなおエコなイメージ(あくまでイメージ)あるのがうらやま。



Different Strategies for Designing Dual-Catalytic Enantioselective Processes: From Fully Cooperative to Non-cooperative Systems
A. H. Hoveyda, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 45, 17952.

2触媒系不斉合成についてのケーススタディ解説。



Synthetic Applications of Oxidative Aromatic Coupling—From Biphenols to Nanographenes
H. Butenschön, D. T. Gryko, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.201904934

芳香環の酸化的カップリング手法に関する総説。
定番のやつは限られるけど思ってたよりいろいろ酸化剤種類あってびっくり。



π-Conjugated Macrocycles Bearing Angle-Strained Alkynes
K. Miki, K. Ohe
Chem. Eur. J. DOI: 10.1002/chem.201904114

歪んだアルキンを含むπ共役マクロサイクルの総説。環状アルキンのシクロカーボンも今年出たことだし、注目分野の学習に。



Mechanisms of Nickel-Catalyzed Cross-Coupling Reactions
J. B. Diccianni, T. Diao
Trends in Chemistry 2019, 1, 830.

Cellプレスがなんかまーた新しい総説誌出してるんですけど。で、そのTrends in ChemistryからNi触媒クロスカップリングの反応機構についての総説。



Before and After Photoshop: Recursive Fraud in the Age of Digital Reproducibility
Mario Biagioli
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 16334.

フォトショ前フォトショ後のねつ造の傾向などについてのアンゲの論説。なかなか面白い話。



[その他いろいろ編]

なんというか、分野ごとにまとめようがなかったのでもうごった煮。

Technical Synthesis of 1,5,9-Cyclododecatriene Revisited: Surprising Byproducts from a Venerable Industrial Process
J. H. Teles, et al.
J. Org. Chem. 2019, 84, 13211.

工業スケールでも長らく合成されてきた1,5,9-Cyclododecatrieneに含まれていた副生成物の数々を構造決定。13C-2D INADEQUATEやDFTを活用。いままで気づかれてなかったというのが驚き。



Secret Paper with Vinegar as an Invisible Security Ink and Fire as a Decryption Key for Information Protection
Y.-J. Zhu, Z.-C. Xiong, et al.
Chem. Eur. J. 2019, 25, 10918.

特殊な紙に見えないインクとして酢を使って書くと、燃やした時に機密情報が浮かび上がるというもの。やったーかっこいい!!って炙り出しと変わらんのでは?いやいやほんとに火をつけるんでこれ。火つけても燃えないんで。



Physicochemical Investigation into Major League Baseballs in the Era of Unprecedented Rise in Home Runs
S. Basu, et al.
ACS Omega 2019, 4, 20109.

メジャーリーグでホームランがバカスカ出るようになったのはなんでですかね、ってのを物理化学的に調査した論文。Graphical Abstractが実にそのまんま。



Endangered Elements (ACS)

論文じゃないけど絶滅危惧元素の周期表。HeとかInとかはわかるけどZnとかTeもやばいのね、知らんかった。



Systematic characterisation of the structure and radical scavenging potency of Pu'Er tea (普洱茶) polyphenol theaflavin
G. A. Chass, et al.
Org. Biomol. Chem. 2019,17, 9942.

論文の中身はどうでもいいんです(酷
タイトルなんですよタイトル、漢字が入ってるんですよ。そんなんありかよ?じゃあこれから日本語とかどんどん使ってこうぜ。
ちなみに論文のページに行くと( )の部分が化けてつぶれてるように見えますが、これが画像リンクになってるのでクリックするとでかでかと「普洱茶」って出てきます。プーアル茶といえば、当初は爽健美茶に入ってたけど、爽健美茶をカフェインレスにするために消されてしまった可哀想な子でもあったりします。



Modernization of a Photochemical Reaction for the Undergraduate Laboratory: Continuous Flow Photopinacol Coupling
K. Volpe, E. E. Podlesny
J. Chem. Educ. DOI: 10.1021/acs.jchemed.9b00628

ベンゾフェノンの光ピナコールカップリングをBatchとFlowで比較する学部生向け実験。
一般に思い浮かべるようなフラスコでの反応じゃないやり方があるっていうデモンストレーションと、分析手法以外でLambert-Beer則を登場させて理解させるのにちょうどいいのでは。




[グラフィカルアブスト・表紙編]

最近はGraphical Abstractも重要視されるので目立つの重要。それはそれとして、冊子体を廃止したACSとかでもカバーがいまだにある(それどころかむしろ枠増やしてる)あるのは不思議。表紙とは一体・・・・うごご・・・・!!


Student-Generated Digital Tutorials in an Introductory Organic Chemistry Course
M. T. Gallardo-Williams, et al.
J. Chem. Educ. 2019, 96, 597.

わんわんお!ᓚᘏᗢ



Inside back cover:
Metallo-supramolecular assembly of protic pincer-type complexes: encapsulation of dinitrogen and carbon disulfide into a multiproton-responsive diruthenium cage

S. Kuwata, et al.
Chem. Commun., 2019,55, 1177.

論文本体↓
Chem. Commun., 2019,55, 1028.

一体これはどこの〇本環〇なんだ・・・、という日本人にしかわからないネタ。
なお同グループから今度は絵師カバーが最近出ております。

Cover Art:
Half‐Sandwich Iridium Complexes Bearing a Diprotic Glyoxime Ligand: Structural Diversity Induced by Reversible Deprotonation

T. Ikariya, S. Kuwata, et al.
Chem. Asian J. DOI: 10.1002/asia.201901486

論文本体↓
Chem. Asian J. DOI: 10.1002/asia.201901276





[Retraction編]

最後は毎年おなじみ、下衆いネタで締めます!(ぉ


Retraction of “Iron-Catalyzed Three-Component Reaction: Synthesis of Fluoroalkylated 2H‑Azirines”
N. Ramkumar, L. V. Meervelt, and E. V. V. der Eycken
Org. Lett. 2019, 21, 850.

van der Eyckenの論文の撤回。原因はなんと
「1st authorが、前のラボでやってたデータを前ボスと現ボスに黙って勝手に使って、前ラボでpublishしたネタ(Nat. Commun. 2019. 10, 122. ちなみにこの論文では2nd author)とそっくりの内容で論文を出してた」
というもの。論文自体は別に多重投稿というわけではないので、『俺のやった研究は(たとえボスに振られたネタであったとしても)俺のものであってボスのものじゃない』 的な人だったんか、それとも単に忘れてただけなのか。まあでも前のところのデータを勝手に使うのはねえ。van der Eyckenの貰い事故感半端なくてたいへんかわいそう。前所でのネタを他所でやるときはちゃんと前ボスに許可貰いましょう。



以上、2019年の論文総振り返りを3回にわたってお送りしました!
一言書いてくだけでもしんどいわこれ(;´Д`)

posted by 樹 at 09:00| Comment(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする
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