お次は「②試薬・装置・反応編」ですよ。
備忘録リスト的には毎年これが本体なのです!行くのです!
2019年論文オブザイヤー改め2019年論文を振り返る話
①構造有機・保護脱保護・天然物編
③インフォマティクス・安全性・総説論説・その他おまけ編
[試薬調製・大量合成編]
便利な試薬やアレやコレやの簡便ででかいスケールでの合成法など。
Facile access to nitroarenes and nitroheteroarenes using N-nitrosaccharin
D. Katayev, et al.
Nat. Commun. 2019, 10, 3410.
ド定番ともいえるベンゼン環のニトロ化も、よく考えてみたら学生実験レベルの強酸バカスカ使うやつくらいしか思い浮かばないので意外と進歩してないんですよね。アミノ基の保護体としてだけでなく、最近ではニトロ基もクロスカップリングに使えるのでもうちょっと便利な方法ないすかね、ということで登場したのがこれ。ニトロ化されたサッカリンを使ってニトロ基を移動させることのできる試薬。サッカリンなので安く上がるし大量合成も可。溶媒がHFIPというのがちょっとあれだけど、これだけ温和にニトロ基入れられるようになったのはかなりの進歩。
Highly Efficient Multigram Synthesis of Dibenzoazacyclooctyne (DBCO) without Chromatography
A. Adronov, et al.
Org. Process Res. Dev. DOI: 10.1021/acs.oprd.9b00406.
クリックの定番素子歪アルキン種の中でも分子にくっつけやすいtether部分がついてるDBCO、こいつをなんと一切シリカゲルカラム精製をすることなく大スケールで合成できる方法が登場。出発原料や基本ルートは変わらないものの、あいだの工程と処理法のチョイupdateで10gスケールでの持ち上げも実現。
Installation of Minimal Tetrazines through Silver-Mediated Liebeskind–Srogl Coupling with Arylboronic Acids
C. W. am Ende, J. M. Fox, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 17068.
こちらもクリックがらみ。最近流行りのテトラジン。確かに反応性はいいけれど、その導入ならびにテトラジン自体の合成法が問題。いうて4つもN入ってるし、下手に低分子にしちゃうと危ないしそもそも合成ムズイ、ってんでどうしてもconjugateするには余計な部分が合成上必要になってしまうのが問題。この論文は、その重量と大スケールでの合成法を確保したうえで、Liebeskind–Srogl反応を使うことで最小単位に近い形で基質にテトラジンを放り込めるというもの。
Sequential Functionalization of meta-C–H and ipso-C–O Bonds of Phenols
X. Xu, Z. Jin, J.-Q. Yu, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 1903.
原料の試薬高えじゃん( ・᷄ὢ・᷅ )いやいやそういう話じゃなくて。この手のC-H官能基化、官能基化するのはいいけど入れるのに使った配向基はそのあと邪魔じゃね?ってのが昔からの問題。最近になってアミドの変換法がやけに流行りだしたのもそういった需要があってのことだと個人的には思ってるんですが、この論文はmeta位のC-H官能基化に使用可能で、かつ使い終わった配向基をそのままクロスカップリングの脱離基として利用することができるという、もったいなくない配向基。
An air-stable binary Ni(0)–olefin catalyst
J. Cornella, et al.
Nat. Catal. DOI: 10.1038/s41929-019-0392-6.
From glovebox to benchtop (解説)
N. K. Garg, et al.
Nat. Catal. DOI: 10.1038/s41929-019-0407-3
年末に登場した話題の論文。Ni触媒反応ってめっちゃ流行ってるけど、Ni触媒ってホント酸素に不安定なのな( ・᷄ὢ・᷅ )なんちゃって窒素雰囲気化でどうにかできるような簡単な反応ってホントないのね。と、そこへ登場した空気下でも安定で大量合成可能な活性Ni(0)錯体。電子不足スチルベンで囲ったこのNi(0)種を用いれば系内でのリガンド交換でいろいろなカップリングに使用可能。ただ、精製の「-35℃でろ過」はうちじゃ無理なので早く売ってくださいお願いします(
Solvent-free anhydrous Li+, Na+ and K+ salts of [B(3,5-(CF3)2C6H3)4]−, [BArF4]−. Improved synthesis and solid-state structures
A. J. Martinez-Martinez, A. S. Weller
Dalton Trans. 2019, 48, 3551.
Tetrakis[3,5-bis(pentafluorosulfanyl)phenyl]borate: A Weakly Coordinating Anion Probed in Polymerization Catalysis
S. Mecking, et al.
Organometallics 2019, 38, 2710.
Photoredox反応も含め、カウンターイオンの配位性は触媒反応に大きな影響をもたらします。ボレートは配位力の弱いアニオンとして触媒反応でよく利用されますが、新しいボレート類の各種調製法・改良法がこちら。
Construction of a Bidentate Arsenic Ligand Library Starting from a Cyclooligoarsine
H. Imoto, K. Naka, et al.
Chem. Lett. 2019, 48, 1312.
2座ホスフィン配位子のヒ素(As)版ライブラリ合成。リンと同族の元素なんだから同じっちゃあ同じだけど配位力も変わるヒ素配位子。Ph3Asなんかは昔から小杉-右田-Stilleカップリングに使われてたけど、そもそも入手と合成がしんどい&猛毒はちょっと・・・、というのでなかなか使われてきませんでしたというかそもそもリガンド自体の合成が全然すすんできませんでしたが、中研が確立した安全な手法を使ってそれらのヒ素版をまとめて合成。
ちなみに中研を中心としたヒ素ヒ素ばなし(何)のミニ総説も今年出てるので、そちらもどうぞ↓
The Dawn of Functional Organoarsenic Chemistry
H. Imoto, K. Naka
Chem. Eur. J. 2019, 25, 1883.
[機械・装置編]
便利にする反応器具やら装置組み立てやら。こういう装置系の論文はそもそもあんまりないですが、だからこそ取り上げていくスタイル。
A Continuous Stirred-Tank Reactor (CSTR) Cascade for Handling Solid-Containing Photochemical Reactions
K. F. Jensen, et al.
Org. Process Res. Dev. DOI: 10.1021/acs.oprd.9b00378
フローとバッチを足して2で割ったような装置。不溶性のモノを流しながら光反応の光路長を短くするために回転子付きのタンクリアクターを間に挟むという、その発想はなかった装置。考えてみたらクロスカップリングとか溶けない無機塩基使うし、Photoredox反応だとそういう工夫もいるのか。
Small-Scale Procedure for Acid-Catalyzed Ketal Formation
B. M. Stoltz, et al.
J. Org. Chem. 2019, 84, 17, 11258.
加熱脱水反応はスケール小さくなるとDean-Starkじゃデカすぎるし、モレキュラーシーブス存在下だとモレシ自体の酸性塩基性やらでうまくいかないことも。それをどこのご家庭にもある(?)滴下漏斗に活性化モレシを詰めて反応系組んだ、という話。ただこれもそうだしDean-Starkもだけど上部のデッドスペースデカすぎるのよね、結局溶媒枯れそう。あと、小スケール用のDean-Starkキットってなかったっけ?コックで取り除くんじゃなくてくぼみみたいになっててそこに活性モレシ置いとくタイプのやつ。
Simple Apparatus for Adding Small Amounts of Powder Materials under an Inert Atmosphere
T. Oishi, K. Torikai, et al.
Synlett 2019; 30, 2058.
固体試薬類を完全に不活性雰囲気下条件を保ったまま加えることができる特殊コックの開発。
窒素やアルゴン雰囲気下、この手の固体試薬を後から加える実験、Experimental procedureみても「加える」しか書いてないからどうしてるのか謎だったんですよ、学部生とか修士のころ。まさかの急いで蓋開けて入れてまた閉じるっていうのだと思わないじゃないですか(もちろん溶液にしてカニューラとか滴下漏斗で入れる手段もある)。で、これ使うと蓋開けなくても固体のまま加えられるとのこと。
[反応編]
反応編、ってざっくりしすぎじゃね?・・・(困惑
おかげでピックアップもド大量ですわよほんと┌(┌ •́ω•̀ )┐-3
個人的な好みと、後は割とすぐ使えそうなものを多めに選んでおります。
One-Pot Absolute Stereochemical Identification of Alcohols via Guanidinium Sulfate Crystallization
J. W. Kolis, D. C. Whitehead, et al.
Org. Lett. 2019, 21, 9622.
いきなり、これは反応カテゴリでいいんですかね・・・・?(要審議
単結晶を使ったX線結晶構造解析は今でも力強い構造決定法。とは言え、デカくて質のいい、解析可能な単結晶が得られるかどうかは基質にもよるので半ば運次第。そこでこの論文では水酸基やアミノ基を足掛かりに硫酸エステル化後グアニジニウム塩とすることで、結晶性が高く、かつ重原子として硫黄が入ってるので絶対立体化学の決定にも利用できる汎用的手法を報告。結晶化しなくてお困りの方はぜひ。
ちなみに最近、オレフィンをオスミウムで酸化してできる環状オスメートが結晶性が高くてOsを重原子とした絶対立体化学の決定に使えます、って方法が出てきたんですが、オスミウムを等量使って構造決定って割と最終手段的な気がするしやりたくない・・・(捨てられないしオスミウム)。
Relative and Absolute Structure Assignments of Alkenes Using Crystalline Osmate Derivatives for X‑ray Analysis
S. D. Rychnovsky, et al.
Org. Lett. DOI: 10.1021/acs.orglett.9b04133
Visible-light mediated C–C bond cleavage of 1,2-diols to carbonyls by cerium-photocatalysis
J. Schwarz, B. König,
Chem. Commun. 2019, 55, 486.
過ヨウ素酸や四酢酸鉛でぶった切るのがデフォだった1,2-ジオールが、なんと塩化セリウムごとき(ぉぃ)で可視光照射下切断されるというもの。混みいったものには使えなさげだけどこれは簡単な方法でよろしい。
A Redox Strategy for Light-Driven, Out-of-Equilibrium Isomerizations and Application to Catalytic C–C Bond Cleavage Reactions
R. R. Knowles, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 1457.
ジオール?そんなもんなくてもC-Cは切れるぜ!というもう何でもありなやつ。Ir触媒可視光照射で環状・非環状のアルコールが炭素―炭素結合の切断を伴ってケトンになってしまうという反応。これもうちょっと触媒が簡単な奴になったら分子合成のルート大幅に変える手法になるのでは。
Water and Sodium Chloride: Essential Ingredients for Robust and Fast Pd‐Catalysed Cross‐Coupling Reactions between Organolithium Reagents and (Hetero)aryl Halides
V. Capriati, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 1799.
水の中に向かってPd触媒ならいざ知らず、有機リチウム種をぶち込むという安全教育上大変問題あるようにしか見えない反応。でも20秒でクロスカップリング終了。なんでこんなのやろうと思ったんだろうか、怖いわ。まあn-BuLiくらいだったらまだいいけど・・・
Photocarboxylation of Benzylic C–H Bonds
B. König, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 11393.
Carboxylation of Benzylic and Aliphatic C–H Bonds with CO2 Induced by Light/Ketone/Nickel
N. Ishida, M. Murakami, et al.
J. Am. Chem. Soc. DOI: 10.1021/jacs.9b12529.
同時多発同じ反応、コワイヨーコワイヨー。ベンジル位C-Hを光照射下CO2を使ってカルボン酸に変えるという反応。4気圧だけど金属なしを選ぶか、金属要るけどNiCl2だしCO2は1気圧、どちらを選ぶかはあなた次第。
Substrate-Directed Lewis-Acid Catalysis for Peptide Synthesis
W. Muramatsu, T. Hattori, H. Yamamoto
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 12288.
Tantalum-Catalyzed Amidation of Amino Acid Homologues
W. Muramatsu, H. Yamamoto
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 18926.
ペプチド縮合をニート条件でやってしまうという、脱水縮合の究極系ともいえる反応。カルボン酸からだとTMS-imidazoleと加熱が必要だけど、その他諸々の縮合剤の用意とウレアやら残骸の後始末に追われるのに比べたら。
Cerium(III) Chloride-Mediated Stereoselective Reduction of a 4-Substituted Cyclohexanone Using NaBH4
R. Vaidyanathan, et al.
Org. Process Res. Dev. DOI: 10.1021/acs.oprd.9b00458
地味だけど割と重要なテクなので。塩化セリウムを使うLuche還元、不飽和ケトンの1,2-還元法として知られていますが、巨大なセリウムイオンの影響を受けて還元の面選択性が大幅に変わることが多いので、飽和ケトンの選択的還元手法の一つとしても覚えておきましょう。あとケトンの還元速度自体もNaBH4単体に比べて大きく加速されるのもミソ。
Direct Access to Acyl Fluorides from Carboxylic Acids Using a Phosphine/Fluoride Deoxyfluorination Reagent System
G. K. S. Prakash, et al.
Org. Lett. 2019, 21, 1659.
芳香族カルボン酸とかだったらいいけど、もっと複雑な基質の時これどうやって合成すりゃいいんすかね、ってなってたフッ化アシル。それをカルボン酸から直接調製してしまう方法。なお、金属触媒反応での利用法の総説が今年出てるので併せてどうぞ。↓
Acyl Fluorides in Late-Transition-Metal Catalysis (Review)
Y. Ogiwara, N. Sakai
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.201902805
Ketone Synthesis by a Nickel-Catalyzed Dehydrogenative Cross-Coupling of Primary Alcohols
S. G. Newman, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6869.
カルボニルに対するカップリング反応って基本的には酸化度は下がりますね、ケトン・アルデヒドにGrignard試薬付けたらアルコールになるように。そのため、redoxレベルからするとアルコールからスタートするとまず酸化してくっつけて酸化してまたくっつけて、ってならざるを得ないのがステップ的にもいやらしい。というわけで最近は酸化度を維持したカップリングが出てきているのですが、この論文は、アルコールとアリールトリフレートとのカップリングの後、なんとケトンになって酸化度が原料よりも上がるという反応。
Catalytic Staudinger Reduction at Room Temperature
J. Mecinovic, et al.
J. Org. Chem. 2019, 84, 6536.
アミノ基の保護体でもあるアジド基を還元する手法のStaudinger反応。邪魔で悪名高いホスフィンオキシドが出ちゃうのが玉に瑕。これを触媒化する手法が最近出てきましたが、この論文はそれまで必要だった高温条件から室温にまで軽減。
Catalytic Asymmetric Staudinger–aza-Wittig Reaction for the Synthesis of Heterocyclic Amines
O. Kwon, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 9537.
で、そのStaudinger反応からのaza-Wittig反応という定番反応を不斉反応にしちゃったのがこれ。ずいぶんけったいなキラルホスフィンですこと。
Redox-neutral organocatalytic Mitsunobu reactions
R. M. Denton, et al.
Science 2019, 365, 910.
そしてそのホスフィンを使う人名反応3つめ、光延反応のホスフィンを完全に触媒量にしてしまったのがこの論文。こんな感じで、ホスフィンオキシドを出すような既存の反応も触媒量ホスフィンで済むようになってきました。それはそれとして、これは果たして「光延」反応って言っていいんですかね・・・?Azodicarboxylate入ってないし・・・
Site-selective and versatile aromatic C−H functionalization by thianthrenation
T. Ritter, et al.
Nature 2019, 567, 223.
Tobias Ritter in 2019。芳香環のC-Hをスルホニウム化し、そのあと様々に官能基化できるようにする戦略シリーズ。今年だけで大量に出ました。初報が↑で、以下にも続々出て、ラベル化フッ素の導入にも使えるくらい迅速に置換可能(F化論文ばっかしリンク貼ったような気がするけどたまたまですよたまたま)。
Photoredox catalysis with aryl sulfonium salts enables site-selective late-stage fluorination
T. Ritter, et al.
Nat. Chem. DOI: 10.1038/s41557-019-0353-3
Site-Selective Late-Stage Aromatic [18F]Fluorination via Aryl Sulfonium Salts
T. Ritter, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.201912567
Synthesis of Benzylic Alcohols by C−H Oxidation
T. Ritter, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 17983.
Ritterからもういっちょ。単なるベンジル位の酸化といえば酸化ですがずいぶんマイルド。あと最初にとれるのが水酸基じゃなくてメシレートだってところに用途の広がりを予感。ずいぶん見慣れない過酸試薬だなあと思ってたら、これ去年もう出してるのね、芳香環C-Hの酸化反応として(あと試薬自体はRitterオリジナルではない)。安定性が気になるところですが、一応安定で衝撃にも安定(50℃までは)とのこと。↓の2018年論文で分解性を検証してますが、50℃って微妙な温度。あと合成が、別にdevided cell使わなくていい上に装置かなり適当でもできるっぽいけど電気化学的合成なのはなかなかやったことないラボにはしんどい(あと溶媒がメシル酸って
Late-Stage Aromatic C–H Oxygenation
T. Ritter, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 47, 16026.
Base‐Mediated Defluorosilylation of C(sp2)−F and C(sp3)−F Bonds
R. Martin, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 2068.
で、そのフッ素を飛ばしてシリル化する方法。遷移金属入ってないんだけど、塩基だけでこんな簡単にC-Fって切れて置換できるんだっけ・・・?ってなるくらい条件がシンプル。シリルボランってすぐ作れるんかな。
Origin of the Difference in Reactivity between Ir Catalysts for the Borylation of C–H Bonds
J. F. Hartwig, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 16479.
反応そのものというよりは副反応の解析と予防措置。Ir触媒でC-Hボリル化してたらフェナントロリンリガンドまでボリル化されて失活しちゃったでござるの巻。tBuついてるけど反応性の高いNの横はスカスカなのでむべなるかな。というわけでそこをC-HではなくMeに変えることで活性を維持した触媒に。
Enantioselective Olefin Hydrocyanation without Cyanide
S. L. Buchwald, et al.
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 18668.
シアンなしでシアン化。どうやんのと思ったらオキサゾールを使って不斉ヒドロアリール化した後、アセチレンジカルボン酸エステルを使ったDiels-Alder/Retro Diels-Alderでシアノ基爆誕。ラボスケールではそこまで回りくどいことしなくていいかもだけど、プロセスなど企業側にとっては毒劇物の回避は望ましいので(ラボでも最近すごくめんどくさいけど
Redox reactions of small organic molecules using ball milling and piezoelectric materials
K. Kubota, H. Ito, et al.
Science 2019, 366, 1500.
Olefin-accelerated solid-state C–N cross-coupling reactions using mechanochemistry
K. Kubota, Y. Hasegawa, H. Ito, et al.
Nat. Commun. 2019, 10, 111.
Mechanochemistry allows carrying out sensitive organometallic reactions in air: glove-box-and-Schlenk-line-free synthesis of oxidative addition complexes from aryl halides and palladium(0)
K. Kubota, R. Takahashia, H. Ito
Chem. Sci. 2019,10, 5837.
Solid-state Suzuki–Miyaura cross-coupling reactions: olefin-accelerated C–C coupling using mechanochemistry
K. Kubota, H. Ito, et al.
Chem. Sci. 2019,10, 8202.
北大伊藤研からのメカノケミストリー祭り。無溶媒でボールミルでゴリゴリ物理でやるだけで分子合成。グロボ・シュレンク必須のはずの酸化的挿入反応がなぜか空気中でも進行するようになったり、ついにはゴリゴリ圧力機械刺激条件を利用した圧電素子チタン酸バリウムを触媒としたredoxC-H官能基化クロスカップリングまで登場。どこのご家庭にもあるすり鉢でもできたりして。図の薬研はイメージです。でも金づちでぶっ叩くだけで反応が進むのは本当。
This paper includes the first hammering-induced borylation. I love this as an organoboron chemist. Dr. Kubota did this. The hammer and anvil were newly purchased from the internet only for taking this video... pic.twitter.com/0mvrRf0mfV
— Hajime Ito (@haj19932469) December 21, 2019
Photoredox, Electrochemicalときて次はMechanochemistryですかねブームは。触媒との接触効率的にはかなり不利なイメージあるんだけどこれでできちゃうから不思議。Mechanochemistryは今年総説も出たので併せてどうぞ。↓
Mechanochemistry for Synthesis (Review)
T. Friščić, et al.
Angew. Chem. Int. Ed. DOI: 10.1002/anie.201906755
Overcoming Halide Inhibition of Suzuki–Miyaura Couplings with Biaryl Monophosphine-Based Catalysts
M. A. Düfert, P. J. Milner, et al.
Org. Process Res. Dev. 2019, 23, 1631
単座配位子SPhosやそれが配位したPrecatalyst Pdを使った際、クロスカップリングで出るハロゲンイオンが(特に高周期ほど)反応の減速をもたらすという話の解析とその解決策。THFみたいな塩が溶ける溶媒からtolueneに代えて溶解度を下げると解決。
The ubiquitous cross-coupling catalyst system ‘Pd(OAc)2’/2PPh3 forms a unique dinuclear PdI complex: an important entry point into catalytically competent cyclic Pd3 clusters
I. J. S. Fairlamb, et al.
Chem. Sci. 2019,10, 7898.
Pd(II)からホスフィン足してって活性種作るやつ、ホスフィンの量で活性全然違うのよね。やけに半端に入れる方が活性よかったりする場合あるし。そのなかから、活性種などが分かってなかったPd(OAc)2 : PPh3 = 1 : 2の触媒系についての解析。
Asymmetric Catalysis in Chiral Solvents: Chirality Transfer with Amplification of Homochirality through a Helical Macromolecular Scaffold
Y. Nagata, R. Takeda, M. Suginome,
ACS Cent. Sci. 2019, 5, 1235.
ポリマーリガンドで不斉反応、ただしポリマーはラセミ体、だけどキラル溶媒を使ってキラルらせん構造へと誘導してその状態を不斉リガンドとして不斉合成。つまり、キラルな化合物は反応化合物には直接手を下さず、キラル環境場形成によって間接的に不斉触媒反応を実現。なんとなくピタゴラスイッチなイメージ。
Selective Methylation of Amides, N-Heterocycles, Thiols, and Alcohols with Tetramethylammonium Fluoride
F. Schoenebeck, et al.
Org. Lett. DOI: 10.1021/acs.orglett.9b04400
アミン存在下でもアミドのNHや水酸基をメチル化できちゃうという論文。その試薬はMe4NF (TMAF)、要はTBAFと同じ脱シリル化剤。F以外だと全然反応しないのでFの塩基性が効いてるのでは、とのこと。個人的にはメチル化の反応手法として以上に、化合物の脱シリル化の際に遭遇しそうな副反応として頭に入れておく価値があるかな、という気がしてます。
以上、2019年論文振り返りオブザイヤー第二弾「②試薬・装置・反応編」おしまい!
まだまだ続くよ!
2019年論文オブザイヤー改め2019年論文を振り返る話 ③インフォマティクス・安全性・総説論説・その他おまけ編