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2018年03月19日

アジドを自在に区別して色々とくっつけた話

はいどもー、ブログでの個人による身勝手な直接発信の集積で混乱をもたらしてる人ですこんにちは!(՞ةڼ◔)

(24)科学論文は広く社会のためにある (野依良治の視点, JST)
※一応言っときますが、御大がここで言ってるのはわけのわからんトンチキ学説や胡散臭い理論(一次情報)をちゃんとした論文や学会無視してブログやらSNSで直接かつ一方的な発信する輩の話ですからね、念のため。


さてそんな話(ぉぃ)は置いといて、今回はすっかりクリックケミストリーでメジャー官能基に出世した感のあるアジド基の話です。

0 azide.jpg

アジド基は上述の通り窒素原子三つからなる双極性官能基で使い方は色々あるのですが、
今や「アジド=はいはいクリッククリック」ってされるくらいにはクリックケミストリーの代表格になってます。一番の代表例が銅触媒を使ったアルキンとの[3+2]反応でトリアゾールを作る方法で、最近は無触媒条件で連結できる歪みアルキンを使ったものも多く利用されています。他にもStaudinger ligationとかあるけど今回関係ないからスルー。
それと以前に「Azides(アジド)」って書いたTシャツのネタ書いてるのでアジドクラスタ諸君はちゃんと買っておくように(何

・アジドTシャツの話

こうしたアジド基を利用したトリアゾール化による2分子連結は、剛直かつ簡便に2つの分子をくっつけることが出来るのでケミカルバイオロジーの分野で一躍有名になりましたが、他にも高分子などのマクロな材料にも使われています。

0 cycloadclick.jpg

で、分子と分子を1:1でくっつけるのは楽ちんちんちんになったので良しとするとして、もっといろんなユニットを一つの分子にくっつけてやればすっごい機能のプローブやら材料やらできんじゃね?ってな風に次の段階としてはなるわけです。もちろんアジド以外にも分子連結に使える官能基は山ほどあるのですが、導入のしやすさと反応性の高さ、それと分解したとしても出てくるのが窒素ガスくらいだという点からも、アジド基を使って色々くっつけられるのが望ましいところ。

0 selectiveconjugation.jpg

ただ、その反応性の高さとアジド基自体を保護することが現状できないことから、アジド基だらけの分子を使って、それの特定部位だけを使ってモノをくっつけるという戦略はそう簡単ではありません。なお、たくさんのアルキンがある分子をプラットフォームにして位置選択的にくっつける戦略も当然あるしそっちの方がメインストリームですが今回はこれもスルー。

昔からこうした複数のアジド基を区別しようというアプローチはされており、クリックケミストリーが興って初期の段階でFokin, Finnらがジェミナルジアジドを用いた非対称化不斉[3+2]反応を検討しています。ただ金属触媒による[3+2]は基本、アセチレン側と金属との相互作用(アセチリド相当の錯体をメインとして)によっておこるので、アジド基はそこまで触媒が関与する側ではありません。そのため過剰反応と区別の困難さから収率、光学純度ともお世辞にもよいとはいいがたいものです。そしてジアジドの不斉非対称化はいまだにこれくらいしか報告がないことからもその難易度が分かります。むしろ不斉が出てるだけでも十分すごいことでは感。それよりもこの分子量でジェミナルジアジドって大丈夫・・・?
一方、複数アルキン分子を使ってアジドではなくアルキン側を区別する不斉非対称化クリック法では良好な収率と光学純度がなんとか出せるようになっています。
(総説:Brittain, W. D. G. et al. ACS Catal. 2016, 6, 3629)

1 enantioselective2.jpg

Kinetic resolution by copper-catalyzed azide?alkyne cycloaddition
Meng, J.; Fokin, V. V.; Finn, M. G.
Tetrahedron Lett. 2005, 46, 4543.


1 enantioselective3.jpg

Asymmetric Copper(I)-Catalyzed Azide−Alkyne Cycloaddition to Quaternary Oxindoles
Zhou, J. et al.
J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 10994


というわけでなかなか官能基そのものだけだと相互作用の付けづらいアジド基なので不斉反応はとりあえず放置しておくとしても、どうやって区別して特定箇所のアジド基だけを反応させるか、といった話はやはり難易度は高いまま。そこでこれを達成するためには基質分子のデザインが重要となります。

Zhuらの場合には母核をピリジンとして2位と5位にアジド基を導入したものを用いることで、位置選択的なアジド-アルキン[3+2]を実現しています。肝となるのはピリジン上の窒素原子、ここと配位することで近傍のアジドが選択的にCu(II)触媒で反応するという仕組みです。もう一方はというと、いわゆる銅によるトリアゾール環化CuAACはCu(I)が触媒に用いられるので環化は起こりません。そこでCu(II)で一方を選択的に連結に用いた後、アスコルビン酸による還元にてCu(I)としてもう片方を使ってカップリングさせるone pot法も報告しています。

2 coorination.jpg

Zhu, L. et al.
Chemoselective Sequential “Click” Ligation Using Unsymmetrical Bisazides
Org. Lett. 2012, 14, 2590.


Experimental Investigation on the Mechanism of Chelation-Assisted, Copper(II) Acetate-Accelerated Azide-Alkyne Cycloaddition
J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 13984.


一方、こうした金属配位場を設置する以外に、アジド基そのものの反応性の差を利用したアプローチもされています。だいぶ前も紹介したことがありますが、東京医科歯科大の細谷・吉田らはかさ高いイソプロピル基で挟まれたアリールアジドが、一般的なアリールアジドよりも高い反応性を示すことを明らかにしています。普通のアリールアジドは芳香環とアジド基が共役していてアジド基の反応性が低下しているのに対し、かさ高い方のアジド基はその平面共役化状態を取ることが出来ず普通のアリールアジドよりも高い求核性を持っています。また混んでいるアジド基そのものが歪んでおり、歪みアルキンとの[3+2]環化時においてもエネルギー的に有利となっています。そのため、ぱっと見では圧倒的に反応に不利に見える非常に込み入った方が先に反応する結果となっています。
前に取りあげた時のやつもついでに見てね✦(╹◡╹| (前のヤツ:Sterically-hindered)

3 hindered2.jpg

Enhanced clickability of doubly sterically-hindered aryl azides
Yoshida, S.; Hosoya, T. et al.
Sci. Rep. 2011, 1, 82.



こうした分子環境場の違いによるアジド基の反応性の差をさらに活用し、これまで見てきた2つのアジド基の使い分けからの上を行く、同一分子にある3つのアジド基を自在に使い分けた報告が同グループから最近されました。

4 triazide.jpg

Convergent synthesis of trifunctional molecules by three sequential azido-type-selective cycloadditions
Yoshida, S.; Hagiwara, M.; Hosoya, T. et al.
Chem. Commun. DOI: 10.1039/C8CC01195H


前回の「アリールvsかさ高いアリール」に加えてアルキルアジドが参入した形です。それぞれの反応性の精査したところ、アルキルアジドについてはルテニウム触媒的環化(Cu触媒的な環化だと選択性が若干悪い;なおCu触媒的な環化と比べてRu触媒的環化はくっつくアルキンの向きが逆になることに注意(Cuは1,4-置換でRuは1,5-置換トリアゾールが出来る))、かさ高いアジドは前述の通り脱共役とアジド基自体のひずみを利用した手法、普通のアリールアジド部位は付加後アミドアニオンの安定性を利用したカルバニオンによる手法を駆使することで、3か所を高い選択性にてユニットをくっつけることに成功しています。

そしてこのトリアジドプラットフォームを用い、実際にHaloTagおよびビオチンリガンド、そして蛍光発光部位といった3つの異なる機能性部位を高位置選択的に導入した分子プローブも合成しています。
なお、プローブ分子は図の通り

①カルバニオンーAr-N3; ②Ru触媒的アルキンーアルキルN3; ③歪みアルキンーかさ高いAr-N3

の順番で逐次的にくっつけていますが、他にも

①歪みアルキン; ②カルバニオン; ③Cu触媒的

の順でつけることも可能です。「さっきRuだったやんけ」と思うかもしれないけど最後の一個だったら選択性も何もないのでCuでOKなのよ。

といった風に反応性が高く区別がつけられないと思われがちなアジドも、こんな風に使い分けられるようになってきました。今後さらに発展して4,5,6個とアジドをコントロールできればどんどん機能化できそうですね。個人的にはこの手のアジド分子連結がケミカルバイオロジーばっかし注目されてる気がするので、もっとそういうの関係ない機能材料分子とかそういったのの合成でもこうした位置コントロール法とか使うようになればなあ、と思う今日この頃。あ、低分子量でのアジ化物には気を付けてね、特に低沸点なやつとかあぶないので。

posted by 樹 at 09:00| Comment(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする
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