2017年10月10日

論文の訂正通知は本文PDFにくっつけといてくれませんかね

いやもうタイトルまんまです。なんでバラバラやねんと。
そんな話を各社の対応含めて。



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雑誌記事や新聞同様、論文も投稿したら知らぬ存ぜぬ投げっぱなしジャーマンとはいきません。投稿後、誤字脱字はさておき、研究者自身による調査の結果、明らかに研究情報として間違ってしまったものを載せてしまったということも往々にしてあります。例えば表に書いてある構造が違うとか、そもそもの前提条件に引用しなきゃいけないことがぬけてたりとかNMRのごみピークを恣意的に削ったとか。研究本体に直接関係ない場合でも、恩恵を受けたグラントが抜けていたり必須であるはずの参考文献が抜けていたり、ひどい場合には入れるべき著者が抜けてたりといったことでも修正報告が出る場合もあります。

これらは論文本論の結論にはさして影響を与えるわけではないのでAddition/Correction/Errata/Corrigendaという形で論文の発表後に追加で修正がかかります。そんなもん論文自体を修正すりゃええやないか、と思うのもごもっともですが、新聞や雑誌の紙媒体が、後々の修正情報を受けて本体が直されるわけがないのと同様、発表事実そのものの修正(うがった見方をすれば最初に釣ったこと書いてあとでなかったことにする隠蔽ととらえかねられない)になるため、そういった大元からの改訂は基本的には出来ません(ページ番号とかがつくまえなら本文が差し変わることはある)。それは本体論文が撤回されたとて同じこと、出版の事実自体は消すことが出来ません。そのため、大元の論文は間違ったままで掲載され、後々修正が後から出されることになります。

しかし、「本論に影響が出ない程度」の修正は本体を読んでもそれに関する追加情報が一切出てこないため、割と致命的な話でも修正の事実自体に気づくことがない場合が多々あります。そもそも新聞等の報道でもそうですが、最初の報告はドバーンと大々的に出てきて注目を一手に集めるものの、それが後々間違ってましたサーセンwwwっていうお詫びの欄なんてほとんどの人は見やしません。


もちろん大元から再現性がないとかデータねつ造とかいう場合はドアウトなので、そういった場合には撤回通知に加えて、論文本体ファイルも"Retracted"というハンコがでかでかと論文本体にプリントされるので、それを見逃すことはありません(※紙媒体しかなかった時代は実際に図書館司書の方がその紙ぺージに「撤回」のハンコを押していた模様)。

撤回された論文の例、ページ背景にでかでかと撤回ハンコが押される
Total Syntheses of Hexacyclinol, 5-epi-Hexacyclinol, and Desoxohexacyclinol Unveil an Antimalarial Prodrug Motif
J. J. La Clair
Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45,2769



きょうび論文誌を紙媒体で購読しているところなんてそうそうありませんし、大概はネットベースなわけです。であるなら、わざわざ論文本体と修正情報を独立のままにする必要はないわけで、撤回情報同様に、修正情報も最初に発表された論文に追記すればいいだけの話なわけです。特にきょうび論文の管理法自体が論文ファイルPDFを落として保存するパターンなので、昔ながらで独立して修正情報を出されても、PDFファイル本体にその情報が反映されてなければそんなもん気づきもしません。新聞記事をスクラップで集めてもお詫び訂正のところがついてこないのとおんなじです。

そんな修正項目の、論文本体との連携具合について軽く調べてみました。


Nature系とScience系はその辺の対応がしっかりしてます。Scienceでは一番見られる大元の論文のwebページも赤で思い切り目立つ形で修正情報が挙がっており、見逃さないような工夫がされていることが分かります。

Nature系ではweb上だと大して目立った形で修正の通知がされてない感じですが、なにより両誌とも一番読まれる論文本体のPDFファイルにも訂正の通知が追加されているので、ファイルを別個保存したとしても見逃すことはありません。なおNature系の場合、修正はどうも他論文のerrataもまとめて載せて通知する形をとってるようなのである種の公開処刑感が。

Science誌の例 (修正内容は論文本体PDFに連結済。ただしCorrigendum通知そのものはPDF版なしでweb上のみ)
Two Histone Marks Establish the Inner Centromere and Chromosome Bi-Orientation
Y. Watanabe et al.
Science 2010, 330,239


Erratum for the Report “Two histone marks establish the inner centromere and chromosome bi-orientation” by Y. Yamagishi, T. Honda, Y. Tanno, Y. Watanabe
Science 2017 358, eaaq0573


Nature系の場合 (修正内容も本体論文PDFに連結済、Erratum通知のページは他の論文ものまとめて掲載)
Copper-catalysed selective hydroamination reactions of alkynes
S. L. Buchwald et al.
Nat. Chem. 2015, 7, 38


Erratum: Copper-catalysed selective hydroamination reactions of alkynes
Nat. Chem. 2015, 7, 178


Click-generated triazole ureas as ultrapotent in vivo–active serine hydrolase inhibitors
B. F. Cravatt et al.
Nat. Chem. Biol. 2011,7, 469


Corrigendum: Click-generated triazole ureas as ultrapotent in vivo–active serine hydrolase inhibitors
Nat. Chem. Biol. 2012, 8, 318



さてNatureレベルの一流紙は一流紙並みにしっかりした対応だったわけですが、他のところはどうでしょうか。

結論から言ってしまうと、大元論文のPDFに連結させてまで通知を徹底しているところは調べた限りNature, Science程度のもので、有機合成化学系メジャーどころではほとんどが旧来の慣習通り、論文本体と修正通知がバラバラです。したがって、論文単体で保存してしまうとcorrectionの存在に気づかない形式になってしまっています。次の例はWileyとACS(アメリカ化学会)、Elsevierで、一応Webページには通知はしていますが、ACSも赤で示してはいるもののさほど目立つ形じゃないし、他2社は場合によっては気付かんぞこれ・・・・。

ACSでの例(右側に修正情報や元論文へのリンクあり、ただし本体PDFへの連結はなし)
Selective Oxoammonium Salt Oxidations of Alcohols to Aldehydes and Aldehydes to Carboxylic Acids
W. F. Baily et al.
Org. Lett. 2012, 14, 350


Addition/Correction
Selective Oxoammonium Salt Oxidations of Alcohols to Aldehydes and Aldehydes to Carboxylic Acids
Org. Lett., 2012, 14, 4034


Wileyでの例(タイトル下、アブスト前に修正情報あり、ただし論文PDFへの追記はない)
Pyridylidene-Mediated Dihydrogen Activation Coupled with Catalytic Imine Reduction
A. Pfaltz et al.
Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 9542


Corrigendum: Pyridylidene-Mediated Dihydrogen Activation Coupled with Catalytic Imine Reduction
Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 9266


Elsevierの場合 (Webにerrata情報とリンクはあるがPDF論文本体への追記はない)
Predicting the regioselectivity of nucleophilic addition to arynes using frontier molecular orbital contribution analysis
S. Mirzaei et al.
Tetrahedron Lett. 2017, 58, 3362


Erratum to “Predicting the regioselectivity of nucleophilic addition to arynes using frontier molecular orbital contribution analysis” [Tetrahedron Lett. 58 (2017) 3362–3365]
Tetrahedron Lett. 2017, 40, 3910


どんどんやる気がなくなってくる方向で紹介してしまってますが、次はRSC(英国化学会)。なんと大元論文のweb上には修正の情報が見当たりません。実は右ちょいしたにあるPublication detailにある"1 associated article (Opens below)"というところを開くと修正情報の存在を知ることが出来るのですが、それ以外は全くなし。ってかそんなとこ知ってるか重箱の隅つつこうと思ってない限り絶対開かねえよ。むしろ隠してんのかって思うレベル。Correction通知ページ側からも同様で、associated articleを開かない限り元論文への直接リンクが出てきません。

RSC Chem. Commun.の例(論文PDF本体への修正情報追加はなし。右下の"associated article"を開かないと、そもそも修正が出ていることにすら気付かない)
Using anion recognition to control the folding and unfolding of a single chain phosphorescent polymer
J. L. Sessler et al.
Chem. Commun. 2017,53, 8774


Correction: Using anion recognition to control the folding and unfolding of a single chain phosphorescent polymer
Chem. Commun., 2017,53, 9648


さて、我が国じゃぱんの論文誌はどうでしょうか。なんと本体論文や修正情報への相互リンクがないどころか、本体論文ページにも修正が挙がってること自体の情報が一切ありません(2017/10/15現在)。一番驚いたのが修正報告のページが購読権がないと読めないという対応。いやpreviewで見られるようになってるからいいっちゃあいいんだけどさ、上述の他誌は修正情報全てopenで読めるというのにこの対応はあまりにも。読めないとこだとこの修正情報のために他所から複写依頼かけないといかんのかね。

Chem. Lett., BCSJの例(論文本体はWeb, PDFとも修正通知に関する情報なし。修正情報のページも1ページ目はpreviewで読めるが、downloadは購読権がないと不可。元論文へのリンクもなし)
Recent Advances in the Fabrication of Superhydrophobic Surfaces
Z. Guo et al.
Chem. Lett. 2016, 45, 1134


[Addition/Correction]Recent Advances in the Fabrication of Superhydrophobic Surfaces
Chem. Lett. 2017, 46,152


[Errata]Dirac–Hartree–Fock Perturbation Calculation of Magnetic Shielding Using the External Field-Dependent Restricted Magnatic Balance Condition
Bull. Chem. Soc. Jpn. 2017, 90, 461


とまあいろいろ書きました。まとめると通知の徹底の仕方は各社いろいろありますけど、個人的には論文本体PDFファイルにその修正情報を連結させてなけりゃどこもおんなじだと思ってるんで、各社ぜひファイルにくっつけといて欲しいと思いますですよ。というのもNature系のやつで本体論文ファイルに修正情報が引っ付いてるおかげで始まった話とかがあったんで( ・᷄ὢ・᷅ )

こういうのも紙媒体時代とは違った対応を論文誌にもしていただけるとありがたいですね。
posted by 樹 at 10:00 | Comment(0) | 有機化学雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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