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2017年10月01日

アリル位のC(sp3)-H酸化とC(sp2)の酸化の話

もうC-H activation(functionalization)が流行ってからだいぶ経ちますが、そもそもの大元のC-H官能基化はアリル位やベンジル位C-Hの酸化反応から始まっています。その理由は、お隣のオレフィンのπ軌道との相互作用によってたんなるC-Hであるはずが軌道相互作用のおかげで普通のアルキルC-Hよりも活性化を受けており、官能基化が容易であるためです。だからこそ何の活性化も受けていないC-H部位の官能基化が高難易度であり、現在も1研究分野として注目されており、界隈ではノーベル化学賞ワクテカってなっとるわけです。個人的にはまだまだ先だと思いますけどね、理由としてはここ2,30年の合成化学での受賞は大半工業化されてナンボな感じだからなので(だからこそ某アメリカにいるモジャってる人は工業的応用を推進していると予想)。←あ、完全にフラグなので発表後にプギャーしていいですよ

とまあそんなC-H官能基化の最新のものをまとめても面白くないので(何)、超古典であるアリル位sp3炭素のC-H酸化と、オレフィン側sp2炭素を参加してアリルアルコール類へと変換する反応について最近のものを含めておさらいしてみようかと思います。

ちなみにアリル位のC-H酸化反応の天然物合成への応用については総説があるのでそちらもご覧ください。

Allylic Oxidations in Natural Product Synthesis
A. Nakamura, M. Nakada
Synthesis 2013, 45, 1421-1451

allylicOxTop.jpg

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もっともよく知られたアリル位C-Hの酸化反応は二酸化セレンSeO2を用いたものでしょう。加熱条件は必要ですが、ene反応を経由して位置選択性高く酸化するのに非常に信頼性の高い超古典反応であり、そのセレンの高い毒性にもかかわらず現在でもよく用いられる手法です。当量反応として行うことが多いですが、過酸などを再酸化剤とすることで、SeO2を触媒量に抑えることもできます。

SeO2酸化mech.jpg
SeO2酸化の最近の総説

J. Młochowski, H. Wójtowicz-Młochowska
Molecules 2015, 20, 10205-10243


最近の有名な利用例ではReismanによるryanoid類の全合成があります。この場合はその非常に込み入った構造もありかなり特異的な反応ではありますが、シクロペンテノンC-Hの3か所、もしくは2か所を酸化しています。系内の水分が反応の酸化度に大きく影響しており、その環境を変えることで、対応する酸化度の天然物へ利用できる様な結果論からのねじ込み工夫がされています。

SeO2ox_ReismanRyanodine.jpg
S. Reisman et al.
Science 2016, 353, 912-915
ACS Cent. Sci. 2017, 3, 278-282

SeO2と並ぶもう一つのメジャーなアリル位酸化法が、6価クロムと3,5-dimethylpyrazoleを用いた酸化反応です。セレンの場合にはアルコールで止めることが出来ますが、酸化力の高いこのクロム酸化の場合はケトンまで酸化されます。高すぎてアリル位だけでなくベンジル位まで酸化されることが多いのがアレですが、強力な手法として現在も利用されます。反応機構としてはセレンの場合と同じくene反応型が提唱されており、位置選択性にやはり信頼性の高い反応です。

1 Cr-oxAllylic.jpg

W. G. Salinond, M. A. Rarta, J. L. Havens
J. Org. Chem.1978, 43, 2057-2059


chidaTaxol.jpg

N. Chida, et al.
Org. Lett. 2015, 17, 2570−2573


他にも遷移金属触媒的なアプローチはされており、応用含めていろいろ利用されている中ではCoreyによるパラジウム触媒を利用したアリル位酸化反応があります。もじゃJin-Quan Yuのポスドク時の仕事でもありますね。この場合、単なるアリル位というより、エノンに対するγ位酸化ですけど。

1 Pd-oxAllylicCoreyYu.jpg

J.-Q. Yu, E. J. Corey
J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 3232–3233


遷移金属触媒的なC-H酸化反応として有名なのはChristina Whiteの仕事で独自のスルホキシドリガンドを利用し、アリル位C-Hの酸化を達成しています。分子内であれば不斉酸化も可能です。

white Pd C-H ox.jpg
M. C. White et al.
J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 6970-6971
Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 9571–9575

変わり種として最近出てきたのはBaranが最近推している電気化学的な反応。Electron-poorなヒドロキシフタルイミドを触媒として電気化学的なアリル位C-H酸化を2016年に達成しています(まさか翌年装置ごと売り出してくるとは思わなかったけど)。

1 電気oxAllylicNatureBaran.jpg

M. D. Eastgate, P. S. Baran et al.
Nature 2016, 533, 77-81


さて、アリル位の(sp3)C-Hを酸化する方法はここまで書いてきたようにいろいろと報告されています。しかしここまでくると人間は欲深い生き物ですので、「どうせ酸化するんだったらオレフィンの位置まで入れ替わったやつ作れませんかね?」ってなっちゃうわけです。
過去、アリルアルコールやエノンを出発原料として位置を逆転させた例を紹介しましたが、アリルアルコールからそういうことを実現できれば実に楽ちんちんちんなわけです。

アリルアルコール・エノンの位置を入れ替えるには?

allylicOx逆.jpg

J. Eames, M. Watkinson
Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 3567-3571 (Mini Review)


無論、そういったアプローチはこれまでにも↑あるわけですが、大概位置選択性が全然なかったりするので使い物には現実的にはならないものが大半でした。最近になってPdなどの遷移金属触媒を利用し、位置選択性に改善がみられるようになってきました。初期のChristina Whiteもこの研究をやっていましたが、最近ではBrian Stoltzが精力的に進めている印象です(たぶん自身の辻-Trost型不斉4級炭素構築戦略の一環なんだろうけど)。

Pd allylic ox linear.jpg

M. C. White et al.
Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 8217–8220

B. M. Stoltz et al.
Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 11186–11190



そんな中最近登場した手法がこちら。有機触媒的にアリル位sp2部位を酸化、オレフィンの位置が入れ替わったアリルアルコールへと変換する手法です。

1 笹野岩渕CEJAZADOアリルox.jpg

Catalytic Oxygenative Allylic Transposition of Alkenes into Enones with an Azaadamantane-Type Oxoammonium Salt Catalyst
S. Nagasawa, Y. Sasano, Y. Iwabuchi
Chem. Eur. J. 2017, 23, 10276–10279


元々TEMPOによるアリル位酸化は知られていましたがsp3C-Hの酸化であるうえ、触媒的には回っていないため、実用性には難がありました。

TEMPO型試薬によるアリル位C(sp3)-H酸化反応
P. P. Pradhan, J. M. Bobbitt, W. F. Bailey
Org. Lett. 2006, 8, 5485–5487


岩淵・笹野らはAZADOを用いることでこの問題を解決し、アリル部位からオレフィン位置の入れ替わったエノンへと酸化変換することに成功しています。この独自の酸化剤AZADOはカウンターイオンの種類によって大幅に反応性が変わるようで、今回の反応ではBF4塩とすることで目的の反応を達成しています。反応機構としては非常にシンプルで、ene反応を経てAZADOが付加、くっついたAZADO部位が酸化された後に脱離反応にて基質が酸化されることで位置選択性の高さを出しています。


というわけでノーベル賞発表も近くなってきたので、全然関係ないC-H官能基化ですが古典的な反応から最近の例までを酸化反応でまとめてみました。C-H官能基化の中でも実用的な合成に使いやすいので割と重宝するかと思いますので、セレン、クロム以外の手法も把握しておくといいかと思います。
ちなみに私は今年のノーベル化学賞はCRISPR-Cas9と予想(合成化学じゃねえじゃん

by カエレバ
posted by 樹 at 00:28 | Comment(0) | 基礎有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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