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2017年07月24日

お酒センサーの話

今年はジンがブームらしいっすよ?京都の季の美をはじめとして最近はジャパニーズ・ジンいっぱい出てるし、サ〇トリーもジン前面に売り出すらしいっすよヾ(*´∀`*)ノ
どうもウィスキーがブームで枯渇した上に、売れるようなレベルにまで熟成させるのに時間がかかりすぎるというのも一因にあるらしいですが、もともとジン好きだから無問題ヾ(*´∀`*)ノ

個人的なお勧めジャパニーズ・ジンは、ロックまたはストレートで楽しむならバレルドジンの『クラフトジン・岡山』、夏らしくトニックかソーダ割でガバガバ行くのなら鹿児島の『WA・BI・GIN(和美人)』ですね。京都の『季の美』?あれいつでも呑めるからいいやってんでまだ飲んでないので知らね(ぉ

そんなジンの話はさておき、お酒と言っても同じ種類、例えばウィスキー1つとってもトリスから響までピンキリですので熟成年だの素材だのでも味が違うわけですけど、苦みだの甘さだのといった味覚は人によっても感じ方が違うため絶対的な評価というものが非常に難しいものでもあります。ですが、そんなある意味あやふやなものを絶対的な指標で評価しようという試みも世の中にはあります。

HaenninenらはμTAS(micro-Total Analysis System)と命名したチップを用い、飲料類のセンシングによる分類に成功しています(と言っても特許がらみなのか詳細があんまりないのですが)。モジュレーターとして金属塩、塩基、色素やγ-グロブリン、アルブミン等々様々なものを用いることで液体、特に飲料の分類を可能にし、炭酸飲料やジュース、そしてウォッカ(著者が北国フィンランドなので)が、各種ブランドによって異なる蛍光分析でのパラメータを示すような評価系を確立しました。ジュースについてはこれで甘い・苦い・三酸味といった形での分類ができるようです。

Fuzzy Liquid Analysis by an Array of Nonspecifically Interacting
Reagents: The Taste of Fluorescence
P. E. Hänninen, H. J. Härmä et al. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 7422−7425



そして最近、それよりもさらに単純化した分析でウィスキーの評価をした論文が発表されました。

A Hypothesis-Free Sensor Array Discriminates Whiskies for Brand, Age, and Taste
A. Herrmann, U.H.F. Bunz et al. Chem 2017, 2, 817–824

解説:P. Keshri, V. M. Rotello, Chem 2017, 2, 751–759

著者であるドイツ・ハイデルベルク大学のBunz教授はもともとポリイン分子の合成と物性といった構造有機化学の人ですが、そのポリインをセンサーとしてウィスキーのブランド年代を蛍光発光によって分類できるようなシステムを構築しました。用いた分子は、スクリーニングの結果選びだされた電荷的に中性、陽性、陰性な3種類のポリイン。えらい単純ですねえ、こんなのでちゃんと分類できるくらいの数値が出せるのがすごい。

また論文中では「ポリイン以外でも評価系組めるんじゃね?」というわけで同様の電気的性質を持つペプチドをGFP(緑色蛍光たんぱく質)と連結させたセンサー分子でも評価系を組み、このどちらか(もしくは両方)を用いてその蛍光発光性を評価することで、ウィスキーの分類に成功しています。ただこの評価系をもって現時点でクォリティとかを判定するというわけではなく、単に「同じようなものでもちゃんとパラメータ位置が異なり、年代等々のパラメータに沿った感じで分布してる」というだけなので、これでちゃんとした判定や評価をするようになるのはまだだいぶ先の話でしょう。ちなみに評価対象にしているウィスキーはJim Beam、Johnnie Walker(赤)、Ballantine’s Finest、Jack Daniel's(黒No7)といったやっすいアレ一般になじみのあるブランドから、Kilbeggan、Tullamore DewのIrelishと、Glenfiddich 12年、Bowmore、Laphroaig Quarter Cask、Ardbeg、Glenmorangie Originalといった大量のスコッチを用いています。ちなみに一番の年代物はPoit Dhubh("ポッチ ゴー"って読むんだって、ゲール語)の21年。山崎とかカヴァランとかはないです残念、山崎とか和ウィスキー飲んだことないけど。Authorドイツなんだけどドイツのウィスキーってないんかな。

Chem Bunz.jpg
↑GFPの手ごろなリボンモデル絵がなかったんでこれで勘弁してくださいなんでもしますから

2017.7.26追記---------------------------
上述のウィスキーセンサー舌の続報として、飲料といった複雑なものではないですが同様のポリインセンサーを使ってアミノ酸を極性・疎水性・方向属性・陽性陰性で分別評価した報告も登場しました。

A Simple Optoelectronic Tongue Discriminates Amino Acids
U.H.W.Bunz et al. Chem. Eur. J. ASAP DOI:10.1002/chem.201702826

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さて、ここまで書いた例はお酒そのものをセンシングして評価するというものでしたが、お酒に関係したまた別の検出分子も。私はいい酒は一人で飲みたい友達いないぼっちマンタイプなのでアレですが、バーで酒というとなんかデートによく使われる印象がドラマ的にはあります。健全なやつならいいんですけど、中にはよからぬものを酒に混ぜてあんなことやこんなことをということも無きにしも非ず。そういうことに用いられる薬物の代表がγ-ヒドロキシ酪酸(γ-HydroxyButyric acid, GHB)、どえらい単純な構造ですね。どう効くのかはここでは書かないことにするので各自ググってください(ぉ

いらすとや.jpg
これだけで状況全部理解できちゃういらすとやパワーおそろしい

で、そういう事態にならないように事前にこっそり検出できればいいんですが、既存の方法だと数時間とか結構な時間を必要とする上分析装置もいるので、デート現場に巨大な機器を持ち込む勇者でないかぎり無茶な話です。

そんなわけで(?)、シンガポールNUS・A*STARのYoung-Tae ChangらはこのGHBを迅速に検出できる蛍光センサーを見出しました。

Development of a fluorescent sensor for illicit date drug GHB
Y.-T. Chang et al. Chem. Commun. 2014, 50, 2904


Changらは既存の蛍光分子からのスクリーニングにより、BODIPY誘導体である下のような分子を見出し、GHBの検出試験を行ったところ、30秒以下で元々の蛍光発光がGHBによって消光することを肉眼で観測できることが分かりました。NMR実験から、図のような色素とGHBの相互作用によるものだと想定しています。
GHB Orange.jpg

評価法も色素のDMSO溶液と対象の飲料(アルコール以外でも)とを1:1混合し、365nmのUVランプを当てるだけなので、ビジュアルでの確認なら分析機器は不要なのがいいですね。各種アルコール等飲料でのGHB検出能の評価を行っており、水、ウォッカは色素量1mg/mL以下でも検出が可能なレベルだそうです。一番よくないウィスキーでも10mg/mL。ちなみにChang Yong-Tae教授はシンガポールNUSおよびA*-STAR所属(当時)ですが韓国人だからですかね、韓国焼酎のチャミスルジュセヨも評価対象にしています(検出能はウォッカと同等の1mg/mL以下の優等生)。先ほどの2例といい、飲み物系は研究者のお国柄が出ますね。過去論文で伊右衛門使った日本人もいたし。

なお、別にこれじゃなきゃGHBが検出されないわけじゃないので、例えば最近だとイリジウム錯体を使ったリアルタイム検出法も報告されています。

A long-lived iridium(III) chemosensor for the real-time detection of GHB
Sheng Lin, S.; Ma, D.-L. et al. J. Mater. Chem. B 2017, 5, 2739


GHB検出錯体.jpg

というわけでお酒にまつわる論文をいくつか紹介しました。クソ暑い日が続きますが酒以外の水分も忘れないように。
冒頭に出たジンの話が全くなかったことに気づいてはいけない

posted by 樹 at 16:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 食べ物・料理化学 | 更新情報をチェックする
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