そんな多成分反応の中でも一度に4成分を連結してしまうものがあり、Ugi反応(Ugi-4成分連結反応、Ugi-4CC)として知られています。反応機構を段階的に書くと
①アミンとアルデヒドでイミンを形成
②イミンにイソシアニドが刺さる
③カルボン酸が付加
④アミノ基が巻き込んできてトランスアミド化

となりますが、厳密な反応機構では真ん中のカッコで描いたような3中心型の状態を経て一気に進行すると言われ、生成物はα-アシルアミノ化されたアミドとなります。生成物のどの部分が原料に由来するかは図で色分けしてあるのでよく見といてください。ちなみに1成分減ってアミンなしの3成分だけで行った場合にはPasserini反応と呼ばれ、得られるのはα-アシルオキシアミドです。
反応に関与する4成分を混ぜるだけで基本他の試薬を必要としないため、簡便に複雑なアミノ酸構造を構築できる高効率多成分連結反応として多くの利用例があります。天然物の全合成にも用いられており、有名どころでは福山-菅らによるエクテナサイジン743の第一世代合成の序盤に利用されています。

Total Synthesis of Ecteinascidin 743
Kan, T.; Fukuyama, T. et al.
JACS 2002, 124, 6552
さてそんなUgi反応、多成分を決まった位置に組み込めることと、出来上がる構造がα-アミノ酸であることから、ジペプチドの合成が可能なのですが、これをポリペプチド、つまり高分子の合成反応として使うことができれば面白い材料が出来上がりそうです。高分子重合というとなんとなくラジカル連鎖反応を思い浮かべますが、反応機構を見るとすでに4成分だけで反応が完結してしまっています。
果たしてUgi反応を使って高分子を合成するためにはどうしたらいいのでしょうか。
もちろん簡便な操作(基本混ぜるだけ)で多成分を組み込めるすばらしい反応を、高分子材料の研究者がほっとくわけがありません。実際、これらは高分子ユニットの連結に用いられており、高分子+高分子でさらに高分子量の機能性材料を合成する例がいくつか報告されています(Dendroneの合成はUgiでなくアミンなしでの反応・Passerini反応ですが)。

The Ugi reaction in polymer chemistry: syntheses, applications and perspectives
Tao, L. et al.
Polym. Chem. 2015, 6, 8233 (minireview)
Introducing the Ugi reaction into polymer chemistry as a green click reaction to prepare middle-functional block copolymers
Tao, L. et al.
Polym. Chem. 2014, 5, 2704
The power of one-pot: a hexa-component system containing π-π stacking, Ugi reaction and RAFT polymerization for simple polymer conjugation on carbon nanotubes
Tao, L. et al.
Polym. Chem. 2015, 6, 509
Enhanced reactivity of dendrons in the Passerini three-component reaction
Rudick, J. G. et al.
Chem. Commun. 2015, 51, 5456
ただし、これらは確かに高分子鎖は出来ていますが、すでにある高分子ユニット4種類をUgi反応で連結して1つにしているのであって、いわゆる"Polymerization"ではありません。
とはいってもこのままでは単分子で反応が完結する風にしかなりませんので、4成分の繰り返し高分子を作るには反応の設計段階でもう一工夫が必要となります。ではどうするか。
答えは「反応に関与する官能基を2つ以上もつ分子を用意する」ということになります。
Meierらはこのコンセプトの下、ジアルデヒドやジアミン、ジカルボン酸など、同一官能基を2つもった分子を2つ使い、その組み合わせを変更することで、多様なポリペプチドを合成しています。それぞれ似たような分子を使ってるはずなのですが、2官能基分子の組み合わせを変えるだけでもだいぶ出来上がり分子のデザインがだいぶ変わりますね、頭の体操にどうぞ。色変えてるから書く方としてはますますしんどい(;´Д`)
(小さくて見にくいかと思いますので見たい人はクリックするとでかい画像が出ます)



Diversely Substituted Polyamides: Macromolecular Design Using the Ugi Four-Component Reaction
Meier, M. A. R. et al.
Macromolecules 2014, 47, 2774
もちろん他にも方法はあります。Meierらの場合だと、同一官能基をもった対称性の高い分子を使っているため、高分子鎖の伸び方は図的には左右に伸びていく形となります。一般に想像するようなリビングラジカル重合のような1方向にズラーっとつながっていくのとは分子デザインがちょっと異なります。
ではそういった1方向に伸長していくような分子鎖にするにはどうすればよいでしょう。
それは「Ugi反応官能基を1分子に2つ(2種類)導入したものを使う」となります。Meierらの「2つだけど1種類」ではなく「1種類ずつ計2つ」です。

こうすると真っ先に利用が思いつくのはカルボン酸とアミノ基を1分子にもったアミノ酸、ということになります。特にα-アミノ酸は天然に山のようにあるので、これを使ってポリペプチドが合成できれば大変楽ちんなわけです。
が、世の中そう甘くはありません。α-アミノ酸を使ってUgiをやっても高分子量の目的物はまるで得られてきません。その理由は、α-アミノ酸構造のせいで分子内反応に有利な5-exo-dig環化が進行してしまい、重合が有効に進まないためと考えられています。そこでTao、Wangらはアミノ酸の中でも「分子内反応が進行しにくい位置、つまり遠隔位にカルボン酸とアミノ基がある」ものを利用することで、この課題を解決することに成功しました。下の図ではα位アミノ基を保護したリシンと、アミノ基に近い側のカルボン酸を保護して不活性化したグルタミン酸を用い、Ugi反応によるポリペプチド合成を達成しています。


Ugi Reaction of Natural Amino Acids: A General Route toward Facile
Synthesis of Polypeptoids for Bioapplications
Tao, Y.; Wang. X. et al.
ACS Macro Lett. 2016, 5, 1049
さて、ポリペプチド分子デザインを考えるともうちょっとやり方の幅があるとうれしいものです。ということで(?)最近登場したのがこちら。最近力を入れて若手研究者を大量に集めていることで一部で有名な富山県立大に所属する小山らによる新型Ugi高分子化反応です。
One-pot synthesis of alternating peptides exploiting a new polymerization technique based on Ugi's 4CC reaction
Koyama, Y.; Gudeangadi, P. G.
Chem. Commun. 2017, 53, 3846
小山らが着目したのは1分子にカルボン酸とイソシアニドを持ったイソシアノカルボン酸。これを用いればアミノ酸を用いる場合とは異なる主鎖デザインを採用することもできるようになるはずです。ただ困ったことに反応に必要なカルボン酸分子は不安定なので常用には向いていません。しかし幸運なことにカルボン酸塩(カリウム塩)は安定であることが知られているので(OL 2004, 6, 4771のref21参照)これを酸を用いて系内でカルボン酸としつつone-potでUgi反応による高分子化を行うという戦略を取りました。その結果、イミンユニットが環状であってもケチミンであってもしっかりと目的のポリペプチドを得ることに成功しています。
(アズラクトン経由での反応機構もいろんな文献で見るんで一応書きましたけど、先ほどのYaoらの件もあるし、トランスアミド化の状態や3中心遷移状態の反応機構を考えると個人的には下の方が妥当かなと思ってます)


なお、このイソシアノカルボン酸を用いたUgi反応自体は別に初というわけではありません。ただ、先行例は(Synthesis 1994, 672; OL 2004, 6, 4771)、「2級アミンを使用(トランスアミド化による高分子化が起こらない)」、「ケトン限定(反応性がわるくなる)」といった高分子化しない工夫がされています。特にSynthesisの方に関しては「アルデヒドを使ったら系が複雑になった」と記載しており、実際にはこの時点でポリマーは得られていたものと考えられます。研究の分野やバックグラウンドをどこに持っているかで、結果が見えるようになったり逆に見えなくなったりするんだなあと。ちなみに上述の小山先生は学位もポスドク先も天然物合成(平間研→鈴木啓介研)だけど高分子研究マンです。
といった感じで、ちょっと普段と違う高分子合成への応用を紹介しました。同じ合成化学でも出口の見ている方向が違うといろいろ見えてくるなあと最近特に思ってるので、そういう視点で見てくるとありきたりな反応でも意外と宝が転がってるものなのかもしれません。