

Oxymaってなんか響きがいいよね、「おきしま!」って書くとなんか今にもアニメ化しそう(何
それはさておき、今でも進化を続ける縮合剤に見られるように、縮合反応の開拓は基礎合成化学にしていまだ重要な研究分野でもあります。そんな縮合反応の中から、カルボン酸・エステルとアミンによるアミド合成について、最近の論文をいくつか挙げてみたいと思います。
A. B. Charetteと言えばシクロプロパン化、シクロプロパン化と言えばA. B. Charetteというくらいシクロプロパン化で有名な人ですが(Flow合成も最近やってるみたいだけど)、なんといままでとは全然違うアミド化反応を報告してきました。それも、どうみても縮合剤に見えないジベンゾシロールという、構造有機化学や高分子でおなじみの分子を用いた反応です。

9-Silafluorenyl Dichlorides as Chemically Ligating Coupling Agents and Their Application in Peptide Synthesis
A. B. Charette et al.
ACIE 2016, 55, 13833
ジベンゾシロールのジハロゲン化物に対してカルボン酸とアミンを作用させると、二つがケイ素を介して結合した中間体が生成、N-Si結合の弱さと空間的な近接を利用した熱的ライゲーションによってアミド縮合が達成されます。抜け出たシロール類は重合してシロキサンになっちゃうので以降は反応に使われません。ジアリールケイ素だとでかくなりすぎてちょっと立体障害のある基質にすると反応性がガタ落ちしたため、環を固定化しているようです。
一方、ほぼ同時期のJACSにはイナミド(アセチレンからアミドが生えたもの、エノラートのさらに上の不飽和度を持ったイノラート等価体)を縮合剤としたアミド化が報告されました。イナミドとかイノラートって[2+2]とかアルドール反応的な使い方が真っ先に思い浮かびますが、カルボン酸存在下にイナミドを作用させてアシル化したアミノケテンアセタールとしたのち、アミンを加えて縮合反応を達成しています。手順も順々に混ぜるだけの大変シンプルなもの。しかも、ペプチド合成における最大の課題、縮合反応時のエピ化、ラセミ化が全く起こらないとのことです。

Ynamides as Racemization-Free Coupling Reagents for Amide and Peptide Synthesis
Zhao, J. et al.
JACS 2016, 138, 13135
求核力の高いアミンによるアミド化に限定されるようですが、シロールにしてもイナミドにしても、普段思っている縮合剤とはだいぶ違うデザインの反応だなあと思いました。Charetteの論文はジベンゾシロール類の合成法としてSupporting Infoをとっておいてもいいかと。
ところでアミン類はアルコール類と比べて圧倒的に求核力が高く、エステルに対してアミンを作用させることで直接トランスアミド化させることもできます。理研の田中らは室温におけるトランスアミド化を調査した結果、プロパルギルエステルが圧倒的に高い反応性を示すことを明らかにしました。反応はエステルとアミンを混ぜるだけなので縮合のための試薬が全く要らないどころか、含水中でも可能という優れもの。

Propargyl-assisted Selective Amidation Applied in C-terminal Glycine Peptide Conjugation
Tanaka, K. et al.
Chem. Eur J. DOI: 10.1002/chem.201604247
水中・室温・無触媒で起こるアミド化反応-ペプチドの合成や選択的修飾に新しい手法を提供-
(理研プレスリリース)
一方、アミド化はアミド化でも非アミンとのアミド形成反応も最近報告されました。

Condensation of Carboxylic Acids with Non-Nucleophilic N-Heterocycles and Anilides Using Boc2O
Umehara, A.; Ueda, H.; Tokuyama, H.
JOC DOI: 10.1021/acs.joc.6b02097
見た目上アミド化はアミド化で同じですが、インドールやピロールといった複素環のNH部位は塩基性がありません。塩基に通常使われるN上の非共有電子対が芳香族性のπ共役系に使われているためです。そのため、塩基でN-HからHを引っこ抜いてNアニオンを出してやる必要があるので、大概の場合はカルボン酸ではなくアシルハライドや酸無水物が用いられます。これらはいちいち調製しないといけないので、出来ればカルボン酸を使って直接反応させたいところ。その新しい手法としてBoc2Oを利用したカルボン酸との縮合法が報告されています。酸無水物を調製し、出てきた強塩基アルコキシドでN-Hを引っこ抜き、アシルDMAP活性種と反応させることで非求核性のNHとアミド化するという手法です。NがBoc化されちゃいそうな感じしますけどいい収率でとれるんですね。
以上、最近登場したアミド縮合法を紹介しました。アミド化に限定されるとはいえHATUとかPyBOPみたいなややこしい(しかも高い)試薬使わないといけない印象あったけど割とシンプルな方法でも行けるんですね。個人的にはジベンゾシロールの手法が衝撃的。