2016年11月15日

最近のアミド縮合法の話

有機合成のための反応は数あれど、最も基本的かつ古典的な合成反応のひとつはカルボン酸とアルコール・アミンからのエステル・アミド合成・脱水縮合反応と言えるかと思います。単純かつ古典的な反応ですが、身の回りにはペプチドやらなんやらとエステル、アミド分子がゴロゴロ転がっているため、創薬分子をはじめその合成の需要は極めて高いのは今も変わりません。カルボン酸とアルコールもしくはアミンを混ぜるだけでもエステルやアミドは出来ますが、加熱と過剰量の反応剤を使用しなければならないなど、効率は基本よろしくありません。そういった背景から、古くからあるアシルハライドに始まり、DCC、HATUなどなど、年を追うごとに高活性、安定、精製容易な新しい縮合剤が誕生しています。以前もボロン酸を利用した脱水縮合法を紹介しました(モレキュラーシーブスは脱水剤か貯水剤か)。他にも向山法、山口法、椎名法がありますが、これらはアミド化ではなくラクトン化、エステル化がメインに使われています。見た目複雑な反応剤ですが基本的にどれもやってることは同じで、カルボン酸から脱離能の高い部位をまず導入し、そこにアミンやアルコールをぶつけることで生成物を得ています。

縮合剤一般機構.jpg

縮合剤いろいろ.jpg

Oxymaってなんか響きがいいよね、「おきしま!」って書くとなんか今にもアニメ化しそう(何

それはさておき、今でも進化を続ける縮合剤に見られるように、縮合反応の開拓は基礎合成化学にしていまだ重要な研究分野でもあります。そんな縮合反応の中から、カルボン酸・エステルとアミンによるアミド合成について、最近の論文をいくつか挙げてみたいと思います。

A. B. Charetteと言えばシクロプロパン化、シクロプロパン化と言えばA. B. Charetteというくらいシクロプロパン化で有名な人ですが(Flow合成も最近やってるみたいだけど)、なんといままでとは全然違うアミド化反応を報告してきました。それも、どうみても縮合剤に見えないジベンゾシロールという、構造有機化学や高分子でおなじみの分子を用いた反応です。

縮合剤ジベンゾシロール.jpg

9-Silafluorenyl Dichlorides as Chemically Ligating Coupling Agents and Their Application in Peptide Synthesis
A. B. Charette et al.
ACIE 2016, 55, 13833


ジベンゾシロールのジハロゲン化物に対してカルボン酸とアミンを作用させると、二つがケイ素を介して結合した中間体が生成、N-Si結合の弱さと空間的な近接を利用した熱的ライゲーションによってアミド縮合が達成されます。抜け出たシロール類は重合してシロキサンになっちゃうので以降は反応に使われません。ジアリールケイ素だとでかくなりすぎてちょっと立体障害のある基質にすると反応性がガタ落ちしたため、環を固定化しているようです。

一方、ほぼ同時期のJACSにはイナミド(アセチレンからアミドが生えたもの、エノラートのさらに上の不飽和度を持ったイノラート等価体)を縮合剤としたアミド化が報告されました。イナミドとかイノラートって[2+2]とかアルドール反応的な使い方が真っ先に思い浮かびますが、カルボン酸存在下にイナミドを作用させてアシル化したアミノケテンアセタールとしたのち、アミンを加えて縮合反応を達成しています。手順も順々に混ぜるだけの大変シンプルなもの。しかも、ペプチド合成における最大の課題、縮合反応時のエピ化、ラセミ化が全く起こらないとのことです。

縮合剤イナミド.jpg
Ynamides as Racemization-Free Coupling Reagents for Amide and Peptide Synthesis
Zhao, J. et al.
JACS 2016, 138, 13135


求核力の高いアミンによるアミド化に限定されるようですが、シロールにしてもイナミドにしても、普段思っている縮合剤とはだいぶ違うデザインの反応だなあと思いました。Charetteの論文はジベンゾシロール類の合成法としてSupporting Infoをとっておいてもいいかと。

ところでアミン類はアルコール類と比べて圧倒的に求核力が高く、エステルに対してアミンを作用させることで直接トランスアミド化させることもできます。理研の田中らは室温におけるトランスアミド化を調査した結果、プロパルギルエステルが圧倒的に高い反応性を示すことを明らかにしました。反応はエステルとアミンを混ぜるだけなので縮合のための試薬が全く要らないどころか、含水中でも可能という優れもの。

縮合剤プロパルギルエステル.jpg

Propargyl-assisted Selective Amidation Applied in C-terminal Glycine Peptide Conjugation
Tanaka, K. et al.
Chem. Eur J. DOI: 10.1002/chem.201604247


水中・室温・無触媒で起こるアミド化反応−ペプチドの合成や選択的修飾に新しい手法を提供−
(理研プレスリリース)


一方、アミド化はアミド化でも非アミンとのアミド形成反応も最近報告されました。

縮合剤 tokuyama .jpg

Condensation of Carboxylic Acids with Non-Nucleophilic N-Heterocycles and Anilides Using Boc2O
Umehara, A.; Ueda, H.; Tokuyama, H.
JOC DOI: 10.1021/acs.joc.6b02097


見た目上アミド化はアミド化で同じですが、インドールやピロールといった複素環のNH部位は塩基性がありません。塩基に通常使われるN上の非共有電子対が芳香族性のπ共役系に使われているためです。そのため、塩基でN-HからHを引っこ抜いてNアニオンを出してやる必要があるので、大概の場合はカルボン酸ではなくアシルハライドや酸無水物が用いられます。これらはいちいち調製しないといけないので、出来ればカルボン酸を使って直接反応させたいところ。その新しい手法としてBoc2Oを利用したカルボン酸との縮合法が報告されています。酸無水物を調製し、出てきた強塩基アルコキシドでN-Hを引っこ抜き、アシルDMAP活性種と反応させることで非求核性のNHとアミド化するという手法です。NがBoc化されちゃいそうな感じしますけどいい収率でとれるんですね。


以上、最近登場したアミド縮合法を紹介しました。アミド化に限定されるとはいえHATUとかPyBOPみたいなややこしい(しかも高い)試薬使わないといけない印象あったけど割とシンプルな方法でも行けるんですね。個人的にはジベンゾシロールの手法が衝撃的。

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posted by 樹 at 09:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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