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2016年08月06日

ボーイング787の窓の秘密とクロミック材料の話

飛行機で寝るのは余裕だけど、タダで映画(しかも今映画館でやってるやつとかやる前のやつとか)見れちゃうのでもったいないおばけと化して映画とか番組見まくっちゃうので結果寝不足になる人ですこんばんは。最近じゃあけいおん!とかラブライブもあるんだからすごい。あ、ズートピアめっちゃよかったですブルーレイ予約しちゃった(∩´∀`)∩


で最近乗った飛行機がたまたま最新のボーイング787-8ドリームライナーだったんですよ。液晶画面でっかいし機内wifi飛ばせるしすげえなこれ、って思ってたら飛行機の窓もちょっと今までと違うことに気づきました。

今までのというか普通の飛行機の窓には遮光用のブラインドがついています。電車と同じですね。飛行機の場合プラスチックの板を上げ下げする原始的な奴で、もうながーーーいこと変わっていません。当たり前ですが飛行機は雲の上を飛ぶので昼間のお外は猛烈にまぶしいのです。なのでこのブラインドは必要なのですが、なんせ板の上げ下げでしかないため半分おろしたところで下半分は相変わらずまぶしいとかそういうことになってしまい、調光としてはイケてません。

↓普通の飛行機の窓。上にちらっと出てるのがブラインド
窓ふつう.jpg


で、今回のB787ですが、なんとそんな物理ブラインドがありません!!いったいどこ行った!?とよく見ると窓の下に何やらスイッチが。

窓1.JPG

下のスイッチをぽちっとな、とすると・・・

窓2.JPG

おっ?

窓3.JPG

おおっ!?

窓4.JPG

おおおおおおおお!!!!!すげえええええ!!!未来じゃああああ!!!未来がやってきたんじゃあああああ!!!!

押してからの若干のタイムラグはあるものの、窓全体が段階的に青みを帯びていき遮光できるという優れもの。先ほどの物理ブラインドのような「上はブラインドさげてるから暗いけど下は超まぶしい」といったことがないため実に快適です。ちなみに完全に真っ暗にはならない模様、まあする必要もないし非常時的には困るし。動画版もあったのでそれもどうぞ。



で、こんなもん見せられたらいったいどうなってんのか知りたくなるのが人の性、というかダメ理系マン。そして探しまくった結果、これはGENTEX社の開発したジェル状のエレクトロクロミック材料を用いた航空機用電子カーテンシステムだということが分かりました。ちなみにB787の窓の構造は以下の図の通り。エレクトロクロミックジェルを透明電極付きの透明板で挟み込んだ内窓になっており、スイッチで電気を流すことで調光する、という仕組みです。下のスイッチをポチポチ押すごとに電気が流れて、中の物質の色が段階的に変わっていくという仕組みです。オフィシャルのちゃんとした図と詳しい解説は以下のGENTEX社サイトにあります。

エレクトロクロミック窓.jpg

・航空機用電子カーテン(GENTEX 日本語版, Aug/6/2016 accessed)


クロミズム(chromism)とは外部刺激によって物質の性質が可逆的に変化する現象のことで、今回の場合には電気応答性なのでエレクトロクロミズムを示す分子となります。物性変化のなかでも色彩変化や発光変化を伴ったものが多いです。

このB787の材料は企業のものなので組成などの詳細は分かりませんが、実験室レベルでできるエレクトロクロミック薄膜の実例のひとつとしてプルシアンブルーが知られています。



・Electrochromic Prussian Blue Thin Films (MRSEC education group, Univ of Wisconsin-Madison)

ガラス上に形成させたプルシアンブルー薄膜をKCl水溶液につけて電気を流すことで化学種を変化させ色を付けたり消したりとさせています。(薄膜の作り方等実験操作は上のサイトを参照のこと)

Fe(III)4[Fe(II)(CN)6]3 + 4 K+ + 4 e- → K4Fe(II)4[Fe(II)(CN)6]3

Fe(III)4[Fe(II)(CN)6]3 + 3 Cl- = Fe(III)4[Fe(III)(CN)6]3Cl3 + 3 e-

ここまで無機無機なものじゃなくて有機錯体高分子なども知られており、東大の西原研などが外部応答性金属錯体材料などで著名です。

・東京大学無機化学研究室(西原研)


ところで電気応答なものがエレクトロクロミック分子だったわけですが、他にも光応答性の分子としてフォトクロミック分子、物理的な刺激応答によるメカノクロミック分子などもあります。フォトクロミック分子としては古くはアゾベンゼンが有名で、最近のものではスピロピランや入江分子ことジアリールエテンがよく知られています。研究としてはいっぱいいるんですが青学の阿部研やターアリーレンを使ったNAISTの河合研なども有名どころです。

・青山学院大学機能物質化学研究室(阿部二朗研)
・NAIST光情報分子科学研究室(河合・中嶋研)

フォトクロ分子1.jpg
※2016.9.15図修正

このフォトクロミック分子はプラスチック調光レンズとしての応用が、すでにサングラスなどの市販品(紫外線量に応じてレンズが濃くなる)でされています。

・フォトクロミックレンズ材料(トクヤマ)
・色の変わるサングラスの仕組み (調光レンズの仕組み)(光と色と)


物理刺激応答性メカノクロミック分子についても日本のいたるところで行われていて、北大や千葉大もよく知られています。つい最近では岡山理科大でもV型π系分子によるメカノフルオロクロミズム(蛍光発光)の報告も上がっています。

・北海道大学有機元素化学研究室(伊藤肇・石山研)
・千葉大学エネルギー変換材料化学研究室(唐津・矢貝研)

・Dual Emission and Mechanofluorochromism of a V‑Shaped π‑System Composed of Disulfonyl-Substituted Dibenzocyclooctatetraenes
Orita, A. et al. Org Lett DOI: 10.1021/acs.orglett.6b01786


というわけでもしB787に乗る機会があればこんな部分もチェックして未来感を味わってください、って頻繁に飛行機乗ってないと感動は薄いかなあ。ちなみに機内wifiにつないでしまうと下手に仕事メールを見てしまうのでお勧めしません(白目
posted by 樹 at 18:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ジアリールエテンの紫外光照射後の構造に誤りが。チオフェン間の架橋形成にともなって二重結合の位置が変わります。
Posted by ぴーぴーぴー at 2016年09月15日 01:05
> ぴーぴーぴーさん

ご指摘ありがとうございます。6π環化の通り修正しました。
Posted by かんりにん at 2016年09月15日 13:13
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