そんな大根(青首大根)の中身は当然真っ白いものなのですが、これが青色に変色してしまうことがあります。青首大根の『青』は緑の意味としての青ですが、正真正銘のブルーです。なんか青い大根とかちょっといやですが、その大根の青色に関する研究の論文が出てきたので紹介します。
Structure of a Precursor to the Blue Components Produced in the Blue Discoloration in Japanese Radish (Raphanus sativus) Roots
Katsunori Teranishi and Nagata Masayasu
J. Nat. Prod.DOI: 10.1021/acs.jnatprod.6b00121
↑大根が青くなっている写真が見られます
この大根の中身が青くなる症状は「青あざ症」と呼ばれているものです。と言っても病原菌によるものでもなければカビで青くなったわけでもありません。生育の際にホウ素が足りてなかったからだとか、収穫前に25℃以上の高温が続いたとか、20℃くらいで数日保存してるとなるとか、ググったり論文本体にもいろいろ原因は書いてあるのですがいまいちこれというものがない印象。とりあえず論文では20℃で1週間ほっといた場合の色の変化が写真に載っています(Figure 1)。
また酸化条件でもこの現象は起こり、論文中でも過酸化水素水にさらすことで数時間でこの青色が現れることを示しています(Figure 2)。なおずっと青いわけではなくほっとくとさらに変色して茶色っぽくなってしまいます。特に味に変化はないそうですが、やっぱり見た目がよろしくないので農家・八百屋にとっては売上に響く死活問題です。そこでこういった症状の詳細を究明することは化学的な話以外の面でも重要となります。
で、この青色になる原因物質の特定が上の論文の中身なのですが、そもそもこの青あざ症、大根に含まれるアントシアニン類によるものとも言われていました。ただ、これ自体の研究があまり進められていないこと、加えて筆者らの研究で、アントシアニンにみられるpH依存的な色の変化や還元性が見られないことから、この説にはかなり懐疑的な部分があったようです。
なおアントシアニン、アントシアニジン類のpH依存色変化は色々な植物でも確認されていて、以前にも竜血樹の赤色色素を紹介しました。
・竜の血の赤、虫の赤
先に述べたようにこの青色色素自体は時間変化で退色してしまう不安定な物質であることから、青色色素そのものではなく、その青色になる原因物質を探ったところ、下のような化合物がその候補物質として挙げられました。右側にアントシアニン類の一般構造を載せましたがだいぶ違いますね。
チオ糖で配糖化された含ヒドロキシインドールのオキシム硫酸エステル。オキシム部位と言い4-ヒドロキシインドールといい、いろいろ不安定そうな要素がそろった化合物です。この化合物自体は新規化合物ではないのですが、この化合物そのものの分析データがなかったこと、および合成による構造決定がなかったことから全合成によってその構造の決定を行っています。
この化合物を実際に過酸化水素を使った酸化条件に付したところ、天然の大根の青色成分と同じUV吸収帯(620nm付近の極大吸収)、ならびに同じHPLC挙動をもったものへと変化していることから、この化合物が青色の前駆体であると推定されました。ただ、大根の方が青色の持ちがよかったことから、青色色素を安定化するような成分も大根に含まれていると示唆されています。
しかし、解明したこの成分はあくまで青色になる前段階の物質であって、青色色素そのものではありません。じゃあ結局この青色はなんなのよ、ってところですが、それは今のところまだわかっていません。ただ、どうやら単一の成分ではなさそうであることは示唆されています。また、過去の研究で4-ヒドロキシインドールは酸化条件で不安定で色のつくキノンへと変化することがわかっており、このインドールキノンへの酸化を経て青色成分になっているのではないかと推定されています。オキシム部分がどうなるんですかね、こっちもだいぶ不安定そうですけど。
これからは大根1本丸々を買った際には、この青色のことも頭において調理してみてはいかがでしょうか。
ちなみに京野菜に青味大根というのがありますがこの青色とは全然関係ありません。
・青味だいこん(京都市)