2016年04月01日

ゲルマニウムin有機合成の話

さて、前回の話で、ゲルマニウムが覚醒してしまったようなのでこんなタイトルの話をまとめることにしました(そうなの?

ゲルマニウムは14族の典型元素で、周期表的にはケイ素(Si)の下、スズ(Sn)の上で炭素(C)と同系列の元素です。日本ではどうにも胡散臭い健康用品として使われる印象が圧倒的に強いゲルマニウムですが、すぐに交換反応を起こしてしまうスズよりも炭素との結合(特にアルキン)が頑丈、ケイ素よりも重原子、イオン化エネルギーがSiより小さいといった特性を持っております。

周期表14族.jpg

そのため、電子材料は発光材料などと言った分野ではゲルモール(フランのOの部分がGeになったもの。Siの場合にはシロール、Snの場合にはスタノール)などの形で、構造有機化学の分野では様々な高ひずみを持つ安定化合物の合成(もちろん物性も重要ですけど)などで結構利用される元素です。そしてなぜか高い日本人研究者率。

ゲルマニウム化合物.jpg

・Stable Germanone Nat. Chem. 2012, 4, 361
・Tetragermaplatinacyclopentane Organometallics 2011, 30, 3386
・1,2-Digermabenzene Organometallics 2015, 34, 2106
・Pentagermapyramidane Organometallics 2016, 35, 346
・Spirodithienogermoles Organometallics 2016, 35, 20
・Germa[N]pericyclynes Dalton Trans. 2015, 44, 11811
・2013年までの高周期14族メタラサイクルのまとめ
M. Tanabe, Tetrahedron Lett. 2014, 55, 3641.


ちなみに創薬分子としてもゲルマニウムを持ったものはプロパゲルマニウムというものが古くから知られており、ウィルスマーカーの改善剤として使われているほか、抗がん作用も知られています。
プロパゲルマニウム.jpg


またケイ素を含むこれら高周期14族は炭素と全く違う反応性も見せます。炭素と違って結合の手が5,6本生えた5配位、6配位状態をとることが可能ですし、以下のようにTfOHやHBrと言った酸で処理することによってフェニル基をOTfやBrなどへと変換することもできます。これを利用してフェニル基を保護基として使うことも可能です。

Ge置換1.jpg
・Hoge, B. et al. Chem. Eur. J. 2016, 22, 4758

こんな風に独特の特性や反応性を示す元素にもかかわらず、どういうわけかいわゆる有機合成化学、合成反応の中でのゲルマニウムはほぼ見たことないに等しいレベルで出てきません。周期表で上下にいる元素のケイ素とスズはしょっちゅう見るのに、です。

というわけでそんな有機ゲルマニウムの合成化学上での反応をまとめてみました。


11. Germanium in organic synthesis
Takahiko Akiyama
in Main Group Metals in Organic Synthesis, pp 593-619.


2.02 Allylsilanes, allylstannanes, and related compounds
P. V. Ramachandran, D. R. Nicponski, P. D. Gagare
in Comprehensive Organic Synthesis II, vol 2, pp72-147.


2 The Peterson and related reactions
Naokazu Kano, Takayuki Kawashima
in Modern Carbonyl Olefination, 2004,pp 18-103


ゲルマニウムに関して、構造有機の総説はいっぱいあるのに合成反応の総説は正直数がないくらいハブられてるので困るのですが、上の典型元素の本(の中の一章)が一番いいのではないかと思います(私費で買えるような値段じゃないですが)。まあどれくらいマニアックな分野なのかは下の論文が「アリルシラン(Si), アリルスタナン(Sn),と関連物質」になって、本来SiとSnの間にあるGeがその他扱いにされてるのでもわかるかと。

そして上の本では「なぜ有機ゲルマニウムが合成試薬・反応剤として一般化しないのか」、という理由が冒頭に挙げられています。



@圧倒的に高い

A最近まで有機Ge試薬自体が販売されておらず、大概はいまだに四塩化ゲルマニウム(GeCl4, 最も安いGe試薬)から調製しないといけない。

B物性としてもケイ素とスズの中間で、Siがイオン的に進行しSnがラジカル的に反応が進むのに対し、Geは両方の性質を示すので微妙。






もうやめて!とっくにゲルマニウムのライフはゼロよ!
とてもこれから紹介しようとするものの序論とは思えない(;´Д`)
ま、まあ気を取り直して・・・

先ほどの酸を使ったゲルマニウム種の変換スキームでゲルマニウムヒドリド(Ge-H)を合成していましたが、SiやSn同様これらも還元反応やラジカル的H種として使うことができます。そしてその反応におけるアルキルラジカルのヒドリド捕捉速度は

(TMS)3GeH > Bu3SnH > (TMS)3SiH > Bu3GeH >> Et3SiH

と言った感じで結構絶妙な形でSiとSnの間を埋めてくれる反応性となっています。大嶌、忍久保、依光らはこのゲルマニウムヒドリド種を用いたラジカル反応を開発しており、その有用性を様々に示しております。

radical germanium1.jpg
・BCSJ 2001, 74, 747
・Synlett 2001, 1278
・OL 2000, 2, 1911


一方、イオン的な反応としてケイ素、スズで多く使われる反応のひとつに細見-櫻井(Si)、Keckアリル化(Sn)があります。

allylation.jpg

これらアリル化もSi Sn同様、対応するアリルゲルマンを合成でき、その反応性に関する研究もされています。
その高周期14族の中での求核性は

Sn>Ge>Si

置換基を入れると

SnBu3>SnPh3>SiMe3>GePh3>SiPh3

の順に強度を増します。ちなみにケイ素でおなじみのβ効果の強度は

Sn>>Ge>Si

となっており、アリル化の反応性もこれに従った形になっています。
ところが、脱離反応で知られるPetersonオレフィン化に関してはこの通りにはならず、その反応性は

Me3Si>Bu3Sn>Me3Ge

と、アルキル置換基の影響もあるのでしょうがGeが最も低い反応性となっています。これは競争反応からも確かめられており、その反応性を利用してビニルゲルマニウムに変換することも可能です。

Germane_peterson.jpg


この有機ゲルマニウムを天然物合成に組み込んだ極めてマニアックな例としてPiersらの研究があります。彼らは1,4付加やヒドロゲルミル化で調製したビニルゲルマニウムアルキル側鎖を、エノラートによるαアルキル化やCuprateによる1,4付加で組み込んだのち、Geをヨウ素へ変換しビニルヨージドとすることで、その後のラジカル環化反応へと利用しています。わざわざゲルマニウムでやる必要あるんかいなと思いますが、特にcuprateによる1,4付加をしようとした場合、ビニルスズではリチオ化時に金属交換が起こってしまいうまく調製できないといった問題があったようです。つまりGeは「金属交換は起こさないけど容易にヨウ素へと置換できる」いい塩梅の置換基として使われてます。

Ge全合成2.jpg
germanium total synthesis.jpg
E. Piers, et al.
J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1989, 1222
J. Org. Chem. 1993, 58, 11
Org. Lett. 2000, 2, 1407



また非常に似た物性をもつとよく言われるケイ素との反応性も若干異なり、その性質の差を利用してゲルマニウムを保護基として利用した例もあります。末端アルキンの保護基というとTMSなどのSi系がほとんどで他はあまり思い浮かばないレベルですが、ここにGe基を導入すると、Fイオンや塩基性条件と言ったSi脱保護条件では外れず、逆に1価銅と言ったSiが外れないような条件で落とすという選択性がきれいに出せるという報告があり。それを利用したシクロデキストリン様分子の合成も行われています。

Germanium protect.jpg
保護基
A. Vasella et al.
・Tetrahedron Lett. 1996, 37, 7959
・Helv. Chim. Acta 1996, 79, 1279
・Helv. Chim. Acta 1996, 79, 255
・Chem. Rev. 2014, 114, 7678


以上、胡散臭いネックレスやら何やらでばっかしみるゲルマニウムの合成反応における使い方と特徴を見てきました。どうです?結構使えるでしょう?これをきっかけに正当な合成化学としてのゲルマニウムを一度使ってみてはいかがでしょうか。

さて、なじみがない元素ですのでどれくらいの値段なのか知らない人も多いと思います。
それでは気になる市販試薬のお値段を見てみましょう。





・Me3GeCl (CAS: 1529-47-1)(TCI)
9,800円/1g

・GeCl4 (CAS:10038-98-9)(和光純薬)
19,000円/25g


[ドラえもん] 見なかったことにしよう.jpg

ほ、ほら・・・遷移金属触媒買うよりずっと安いし・・・(震え声

by カエレバ
posted by 樹 at 13:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/435342834

この記事へのトラックバック