2015年10月02日

またどっちやねん!な話−抗マラリア薬合成再び

2年前にこんな話を投稿しました。

どっちやねん!な話ー創薬分子絶対構造決定の顛末

メフロキンは、キニーネの構造を模倣した創薬分子で、抗マラリア活性を持っています。薬としては古くから知られており、神経系の副作用も同時に知られていました。元々ラセミ体として使われていたようですが、比較的最近になって、旋光度が(+)を示す光学活性体にはその副作用が見られないという報告や、(+)体の方が1.5倍(−)体よりも強力で、半減期も長いということから、メフロキンのキラル合成の需要が急速に高まったのです。

mefloquine2 0 構造と活性.jpg

目的とする(+)体を確実に合成するためには、まずその絶対立体化学(S, R)を決めないといけません。ところがこの分子の絶対立体化学の決定は実にややこしい経緯をたどることとなり、こんな小さな分子にもかかわらず、その決着に40年も費やすこととなりました。

この辺は前回も書いたのですが話がややこしいので補強した年表を載せます。サイズがデカくなりすぎたので、下の画像をクリックし拡大してご覧ください。

mefloquine2 1 年表.jpg

話はすべて(11R, 12S)体についてまとめてあります。
一番最初はCDスペクトルの経験則から(+)体を(11S, 12R)と帰属したことから始まります。以後、長いことこれが支持され(スルーされ?)ていたようですが、2000年代になって、その塩酸塩のX線結晶構造解析から、『(11R, 12S)体は(−)である』という報告がされました。が、これもスルー。この間、いくつかの全合成が報告されていますが、それらはすべて『(11R, 12S)体は(+)である』という最初の決定報を支持するものとなっていました。

2012年にReinsheidらは、自らの開発したNMR解析法を含めた各種測定から『(11R, 12S)体は(−)である』という結論を導き出しました。そして2013年にはメフロキンのMosherアミド体を用いたX線結晶構造解析を行い、その根拠をほぼ確実なものとしました。

注目すべきは2012年以前の全合成(すべて『(11R, 12S)体は(+)論)。5報もあるにもかかわらず、どれもこれも最終体であるメフロキンの化合物データについて全く記載がない、もしくはその構造決定法が疑わしいというというものでした。元来全合成は確実な合成手法をもとに、化合物の絶対構造を決定することがその存在目的の一つであるわけでが・・・?このあまりにアレな全合成群を指して、Griesinger, Reincheidらは、2013年のX線結晶構造解析の論文で『全合成的手法はメフロキンのような分子の構造決定には使えない』と断じています。

そして2012年、2013年にメフロキンの絶対構造決定に関するすったもんだがReinscheidらによって提示されて以降、出てきた3つの全合成は今度は手のひらを返したかのように一斉に『(11R, 12S)体は(−)である』という結論を出しています(Rheinscheidらのグループもいるけど)。今までの合成はなんだったのかと言いたくもなります。

というわけで『(11R, 12S)体は(−)である』というのが正しそうである、というのが2年前に挙げた話です。ここら辺までの話は下のにまとめてあるので興味のある方はこちらもご覧ください。

どっちやねん!な話ー創薬分子絶対構造決定の顛末

またこのあたりのバックグラウンドについては2013年にRheinscheid,Griesingerらと全異性体を合成したLeonovの論文にも書かれています。もうタイトルがすべてを表しているような気も。

Trapped in Misbelief for Almost 40 Years: Selective Synthesis of the Four Stereoisomers of Mefloquine
A. Leonov et al.
Chem. Eur. J. 2013, 19, 17584–17588



そんな中、以前『(11R, 12S)体は(+)である』と、逆の結論を全合成で出していたColtartが、Angewandte Chemieに新たにメフロキン塩酸塩の全合成を出してきました。

A Concise and Highly Enantioselective Total Synthesis of (+)-anti- and (-)-syn-Mefloquine Hydrochloride: Definitive Absolute Stereochemical Assignment of the Mefloquines
E. J. Rastelli, D. M. Coltart
ACIE DOI: 10.1002/anie.201507304



Coltartらはこの論文の冒頭で
『我々は以前、(−)-anti体(つまり11R, 12S体)の合成を達成しており、この方法論を使えば他のメフロキン(エナンチオマーやthreo, syn体)もキラル合成でできる』と述べ、研究の本論に移っています。

さて、その『以前、(−)体(=11R, 12S体)を合成した』と主張しているColtartが2011年に出した前報の内容を、タイトルとともに見てみましょう。




Asymmetric Total Synthesis of the Antimalarial Drug (+)-Mefloquine Hydrochloride via Chiral N-Amino Cyclic Carbamate Hydrazones
D. M. Coltart et al.
OL 2011, 13, 3118.


mefloquine2 4 Coltart合成前回.jpg


作ったの「(+)体 = (11R, 12S)体」
って言うとるやないか!!!ヽ(#`Д´)ノ



なんと、4年前に「(+)体 = (11R, 12S)体を合成した」と言っておきながら、その訂正などもないにもかかわらず、今回の論文では最近のRheinsheidらの流れに乗っかったのか、間違ったことを隠すつもりなのか、全く同じ化合物を指して「昔(−)体 = (11R, 12S)体を合成した」と言っているわけです。おじいちゃん4年前の話もう忘れちゃったんですか?(※Coltartは比較的若手)
一応今回のAngewandte論文のRef2には「最近になってオリジナルの立体化学(+/-)は間違ってたという報告があったので、今回それに合わせて書いた」としてありますが(レフェリーに指摘されたから書いた感が・・・)、前の論文であんた合成的に(+)っていうたやん?その釈明ないの?
ちなみにこのOL、最終体であるメフロキン塩酸塩のデータは
「過去のものと一致した おしまい」
で片づけており、一切の自前データを載せていません。


で、今回ColtartらはSharpless不斉ジヒドロキシ化にてキラル化合物とした後、Sharpless法と通常のSN2反応によるエポキシ化を使い分けることで、(+)-(11R, 12S)-anti-mefloquine HCl(つまり、今問題にしている化合物のエナンチオマー)およびそのsyn体を合成し、それぞれをマンデル酸誘導体と縮合した後、X線結晶構造解析を行って構造を確認しました。(クリックで拡大)

mefloquine2 5 Coltart合成今回.jpg

てかもう本論どうでもいいわ、なんなのこれ?しかもRheinscheid, Griesingerらの2013年に出したX線結晶構造解析の論文を明らかに意図的に引用してないし(自分のX線構造解析のインパクト減るから?)(;´Д`)

まあこのアンゲ論文に問題はないとしても、こんな書き方するんならまずOLの方の論文どうにかせえよとすごく思うんですが・・・・(最終体データがない上にタイトルから逆符号にしないといけないようなことになってるんならcorrectionじゃすまない気がしますが)。


ま、まあ前回のOLの最終体メフロキン塩酸塩データは「過去のものと一致した おしまい」でやっつけてたようですが、さすがにアンゲともなれば今回はちゃんとデータそろってるでしょ。それで良しとしましょうかね。

というわけで、今回の論文のSupporting Informationのメフロキン塩酸塩の項を見てみましょう。




"Spectral data was identical to previously reported data."
(文献値と一致したよ。 おしまい)




(#゚Д゚)≡≡≡⊃);´Д`)・:’.”

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posted by 樹 at 09:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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