残念!OL (Organic Letters)の話でしたー!
どうも、最近「Chemistryネット界隈では有名な人」と言われた私です。
実世界ではいつまでたっても有名にならないけどな!!!
(その前にお前はコミュ障をどうにか(ry
それはさておき、論文誌も一応雑誌なので、論文や総説だけでなくエッセイやら他誌の最近のネタを取り上げたような記事もあります。また編集長もちゃんといるのでEditorial(社説)というものも、毎号ではないですがちゃんとあります。まあそんな社説なんて通常読みゃあしないのですが、最近のOrganic Letters誌(OL)で、論文不正に関してEditor in Chiefであるペンシルバニア大のAmos B Smith III教授激おこ案件な話が出てたので紹介してみます。
大体論文誌のEditorialなんて年初第一号に載せてお終いで、他の号ではやらないような気がするんですが、2013年中ほどになってEditor-in-chiefであるAmos B Smith III教授が「データの誠実さ」と題した社説を挙げ、その冒頭で「最近スタッフにデータアナリストを追加して、提出されたSupporting Informationをチェックしたら不純物ピークを削除したようなデータ改ざんが発見された」と述べデータ改ざんに対する姿勢を打ち出しています。
Data Integrity
Org Lett 2013, 15, 2893-2894
そのなかではこんな警告もだしています。
"In some of the cases that we have investigated further, the Corresponding Author asserted that a student had edited the spectra without the Corresponding Author's knowledge. This is not an acceptable excuse! The Corresponding Author (who is typically also the research supervisor of the work performed) is ultimately responsible for warranting the integrity of the content of the submitted manuscript. As Noyori and Richmond stated recently, "Senior scienctists have an obligation to instill strong ethical and moral values in their progeny"(Adv. Synth. Catal. 2013, 355, 3-9)"
要は『責任著者・代表名乗んなら部下のせいにしてんじゃねえ!!』というAmos激おこ案件。最近もどっかのエンブレムマンが「部下が―スタッフがー」と言って責任回避してたらしいですが、自分が代表名乗ってる以上はねえ。
そしてこの社説にて「実験編、Supporting Informationをより徹底しており、その中でスペクトルの不純物の証拠を消し去る編集がされたことを既に発見している」と述べております。どう考えても今後の投稿だけでなく、過去の論文に対する警告です。で、その結果が2014年で起こったOL誌の某Correction祭り。何も知らないとこの論文大量訂正祭りもR研のobkt事件の流れで発覚したような印象を受ける時期でしたが、このように前年にはフラグが立っていたわけですのでアレとは関係ありません。まあ公開のタイミングがこれ以上にないバッチシなアレだったわけですが。ちなみに2014年のOLは、この前年のAB Smithブチキレ案件と2014年のデータ改ざんに対する規定の強化もあり、ほぼ毎号のように大量のCorrectionが挙げられるという大炎上イヤーとなっています。
そして2015年の年頭社説、冒頭から「いい知らせと悪い知らせがある」というもう映画だったら死亡フラグな書き出しをしてたりします。ちなみにいい知らせとはImpact Factorが上がったとかエディターに新しい人を迎えたとかそんなのです。
2015 Editorial
Amos B. Smith, III
Org Lett 2015, 17, 1–2
悪い知らせとは「架空の人間をレフェリーに挙げる」だの「再現性のないもので論文にする」だの昨今の論文問題に関するブチキレ案件で、社説全体の三分の二を占めています。再現性に関しては本文にもありますが、論文誌自体が相互信頼のもと、性善説で成り立っていることや、いちいちそんなの確認してられないしで色々難しい問題でもあります。OLとしては「もし論文と違った結果が出たら、著者にそれを伝えて解決するようにさせたい」ということを言ってますが、違ったことが出たら出たでその別グループの成果として今度は出されるようになるのでうーん。
そんな2015年初頭社説は締めとして
・すべてのスペクトルをアクセプト前にチェックする。オリジナルデータも要求する。
・データを操作、改ざんした証拠が確認できれば、その時点でリジェクトにする。その上で、原稿に挙げられたすべての著者をブラックリストに放り込む。
・繰り返された場合には出入り禁止。
というすさまじい警告をぶち上げております。出禁てすごいなおい。
そして2015年中ごろの社説、今度は「OLは2012年以来Supporting Informationに対するチェックについてスタッフを増員している」という話に始まり、「このチェックを始めてから、Supporting Informationにデータがない、間違ったデータ、本文と異なるモノ、そして改ざんなどが大量に見つかっている」というサイドの警告。そして今後論文投稿に際し、より詳細なデータや原稿のチェックリストを要求するようにしたということが書かれています。
Review of Supporting Information at Organic Letters
Angela M. Hunter, Amos B. Smith, III
Org Lett 2015, 17, 2867–2869
今でもすべての化合物のデータに関するチェックリストの提出を義務付けているOLですが、それに加え、「HRMSは10ppm以内にエラーがおさまっているか」だの「NMRの化学シフト領域が、1Hなら-1~9ppm、13Cなら-10~190ppmの範囲は最低でも入っているか」だの、すさまじくめんどくさいものとなっています。それ以外にも色々確認して回るようなすごいリスト。もう来るとこきた感。そこまでせなあかんのか・・・。(ウチ、表示-0.5ppmからにしてるんだけどどうしよ、まあオリジナルデータあればいいんだろうけど)
まあこんなのでも「まあこんなの言ってるだけで単なる脅しでしょ?(ホジホジ」とみることもできるわけですが、この号の恐ろしいところは、この社説と当時に、大御所Jack Baldwinの10年前の論文がデータ不正で撤回されているところ。これは脅しではない、という意思の表れでしょうか・・・、生贄?まあデータいじくってるわけですからなんにせよ言い訳はきかないのですけど。ちなみに本件の撤回容疑は「報告されている前駆体のデータが、再現したときと異なっている」こと、そして「その前駆体から誘導されたという化合物のデータが他人の論文からのパクリである」ということです。元論文見るとその化合物だけ以上に古い体裁のデータなんですよねえ。ちゃんとチェックしてたら気づきそうなもんですけど。
・Retraction of “Biomimetic Total Synthesis of Himbacine”
Org. Lett. 2015, 17, 3190.
・A Retraction, Ten Years Later (In the Pipeline)
ところでデータ改ざんと言えば、X線結晶構造解析のテキストデータであるcifファイルも捏造が横行していたらしく、結晶学会として、今後は、今までつける必要のなかった反射データもつけて投稿しろという指針が打ち出されたそうな。おかげでcifファイルの容量が激増してuploadが大変(;´Д`)
RSC(英国化学会)は捏造対策なのか低レベル結晶データ排除目的なのか、通常の本文査読者に加えて、結晶データの査読スタッフもつけた模様。一部の人間の所業でどえらくめんどくさくなってきましたなあ。もっとも今になって増えたというよりは昔からあることがわかりやすくなっただけな気もしますが(デジタル化でデータをよりいじりやすくなったということに関しては増加傾向にはあるのかも?)
日本でも色々めんどくさいことになっていますが、世界的にもこんな感じのようで。中でもOLがずいぶん強烈に文章でぶち上げていたので紹介してみました。ほんとデータはチェックしないとダメですよこれ。
そう考えると、STAP事件もそうだし、2014年は捏造の年だったのかもしれませんね。
しかし、元データをきちんと示すことは大切だと思いますが、もはや「速報誌」ではないですね・・・
まあ、今のご時世「速報誌」と「詳報誌」の区別なんてもはやないのかもしれませんが
でも結局、
大御所「学生が勝手にやった」
そこの准教授「学生が勝手にやった」
で、何にもおこがめなし、だったわけで、この業界も終わってますわ。
何がきっかけで「data integrity」なんてエントリーを書かせることになったのかはわかりませんが、そもそもは2013年からのSIチェック強化があり、2014年の大量correctionの中で一研究室からどっさり出たというので、この流れを知らない人からも注目を集めた、という感じであって、原因だとは思いません(ちなみにOLの日本人じゃない某Associate editorも軽く焦げてた)。
速報誌、詳報誌についてはdiscussionが薄いかどうか位ですかねえ、もはや。大概はデータ要求されますし。あとはページ制限内(速報誌)で内容がおさまるかどうかというのもあるかと。
ななしさん
Data correctionでおとがめないから業界が終わってる、というのも違うと思います。とりあえず(汚いにしても)モノは出来ているし、だからこそ他の例でもcorrectionで済んでいるわけで。もっと臆面もなくきったないNMR出して通ってる人もいますし、それはいいのかという話にもなってきます(それで通るのもどうよとは思うけど)。あとは本人らの以後の信用がどうなるかであって、研究機関として処罰してどうこうというのは、これらが問題にはなっても根本的なねつ造や剽窃、無再現性とは次元がちがうので違和感があります。
ねつ造や剽窃ではないが、明らかな「改ざん」ですよ。結果の再現性の有無とは関係なく、良い結果に見せようとデータを改変したものが「改ざん」で研究不正の1つです。
これを、「結果的に合成できているんだから問題ない」と言って、誰も批判しようとしない(国内の)業界を終わってる、と言っているのです。
なんにせよ何も罰がない、誰も表で何も言わないから「問題ない」と業界は認識している、と考えているのならずいぶんな思い違いをされているのではないでしょうか。