2015年06月12日

研究データの仮置き?の話

「カリオキ」っていうと、欧米人が『KARAOKE』を発音してる風に聞こえるよ!おすすめ!(何の話だ

それは置いといてタイトルの話。昨年2014年は最初から最後まで研究不正でにぎわった年でしたね。このブログでもデータおよび図を既存文献から丸コピペした論文の話を載せました。

データ図がコピペされる話

そんな2014年12月に行われたR研のびっくりな茶番処分会見のウラで、T大の某研究室の不正に対する調査と最終処分が公開されていました。人員的な被害はこっちのが広範囲なんですけどね、どさくさでコソーリやった感。こちらの方はちょっと前にやらせという不正でお馴染みのNHK「クローズアップ現代」でも取り上げられていました。

東京大学が分子細胞生物学研究所・加藤茂明研究室における 論文不正に関する最終調査報告を発表 (日本の科学と技術)
(上の伏字はなんだったのかというリンクの貼り方_(:3 」∠)_)

ほんでその手口はというともはや定番の写真の切り貼りの他、『仮置き』というものがあったそうで。『仮置き』とはなんぞや?というと、どうやらまだデータが出ていないうちから仮想的なデータを原稿上に置いておいて、データが集まったら本物と差し替える、ということのようで、発覚しても『本物に差し替え忘れた』という言い訳もできなくはないですね。そもそもそれをやる意味が一切わかりませんけど。

とまあ個人的には「仮置きってなんなん?やる意味あるの?」と思っていたんですが、それに関連しそうな話を。


実は前に、某生物活性物質(天然物ではない)を作ったことがあって、その構造を確認するためにその化合物データが載っている元論文のデータと照合したのですが、マススペクトルはともかくとして、1Hおよび13C NMRのスペクトルデータが全然合いませんでした。それで本当に構造合ってんのか?レジオとか違うんじゃないの?と色々と話になったのです。
なにせ相手は某有名ハイレベル研究室、論文は超高インパクトファクター誌、これは間違っているわけがない、こっちの解析や作ったモンが間違ってるんだ。そう思いました。





・有名ハイレベル研究室
・高インパクトファクター誌論文

ありまぁす




はい、どう考えてもフラグです、本当にありがとうございました。


でこっちでも色々構造再解析とかしたのですが、(結局disorderでデータとしては使えなかったものの)X線結晶構造解析で間違いないし、同じ合成方法を使ってその他類縁構造を持つ誘導体を色々と合成してみても(一部はいいR値での結晶構造解析も)構造は間違いなく、やはりNMRデータも我々の方が間違いないという結論に。

その相手のNMR、そもそも色々と合ってない箇所だらけのですが特に目立った違いとして、13C NMRの某4級炭素の位置が、文献だと重クロロホルム中でδ90ppmとなっているにも関わらず、こちらのサンプルではそんなところにピークはありません。それどころかそれっぽいピーク自体が見当たりません。理由は簡単、重クロロホルム溶媒ピークの3重線の中に埋もれていたからで、4級炭素なのでDEPTをとって溶媒を消してもも見つかるわけがありません。結局溶媒を重ジクロロメタンに変更することで無事すべてのピークを確認できました。発見された位置はδ77ppm。文献に載っていたδ90ppmと大幅に違います。濃度で変わるのかと思ってもそんなことなかったし・・・一体どういうことなのかと知りたくても、なんとこの化合物、データは表だけ(要は手打ちの数字だけ)でNMRチャートが載っていません。どちらかというとこれにはその高IF論文誌の雑さにあきれたのですけど。

というわけでこっちとしては証拠をそろえたので、ついに論文の責任著者に電凸じゃなくてe-mailでの問い合わせを行いました。もちろん『おいゴルァ!データ間違っとるやないか!この落とし前どうつけてくれるんじゃワレェ!』『こっちであなたの作った化合物を合成したんですがデータ合わせたいのでチャートいただけませんか?』という文章で。

するとさすが某有名PI、こういったメールの対応もずいぶん違いますね。
超速で
『ファーストオーサーに聞いてくれ』
と大リーグクラスの剛速球丸投げをかまされました。

その筆頭著者(当時ポスドク)、今はポジション見つけて別の大学にいるんですけど、なんでデータそいつが持ってるの?おたくの研究室持ってないの?

で、その筆頭著者とのやり取りで1Hと13CのNMRチャートをもらえることに。ええやつや!やっぱりデータが違うなんて何かがおかしいんや!



後日、送られてきたNMRチャートを見てこの評価は逆転しました。
だって論文には重クロロホルムで取ったデータ(というか数字)が載っているのに、送られてきたデータはなぜか全く違う別の重溶媒でのNMRチャートだったんですもの。なんなのこれ!?溶媒違うじゃん!重クロのデータどこ行ったの!?あともらったチャートにはちゃんとうちと同じようにδ77ppmにピークあって、あんたの出した論文に書いてるδ90ppmにはピーク全くないんですけどその辺なんかコメントあんだろ!!

で、しょうがないからこっちでもその重溶媒で取り直す羽目になったんですが、その化合物その溶媒に全然溶けねえでやんの!!!一応取れることは取れたけどさ!

といったことがやいのやいのとあって、改めて別重溶媒でのデータを比較したところ、やっとデータが一致しました、13Cの一箇所を除いて。もらったチャートには謎のピークがあり、我々のチャートを見てもそんなところにピークはありません。実はその重溶媒で測定すると、化合物のピークのうちの一つが重溶媒ピークのすぐそばにでてくることをこっちで確認していました。だから「なんでこんなのを測定溶媒に・・・」と思っていたのですが、もらったチャートを見ると、全く同じ位置、重溶媒ピークのすぐ横に、拾っていないピークが見えているではないですか!要するに彼らが拾ったピーク(論文にあったテーブルにはここにピークはないことになってるんだけどなあ('A`))はゴミか残存の別溶媒であり、本来のピークをゴミかノイズだと思って無視していたのです。

という話を筆頭著者だった元ポスドクに投げつけたところ、これまでのお気楽なメールから一変、『どうか某誌には黙っててくれ』という大土下座メールが返ってきました。どれくらいの「どうかひらにご容赦を」感かというと、なんでもe-mailで済ますこの現代においてメール+地球の裏側から国際電話がかかってくるレベル。で、「論文直すのに新しいデータこっちで取り直すからさ、そっちでもダブルチェックしてくれよ」とか言われたりして。なんか責任の一端をこっちになすりつけようとしてる感がすごいするんですが、まあこっちの出すデータの整合性とかもあるんでまあOKしたわけです。その辺すりあわないとこっちも論文出せないんでね。もっとも数年たった今でも何の連絡もデータの話もないのでそのままほっとくつもりなんでしょうけど。

実はその高IF誌論文、このひと悶着が出る以前に既に実験データに対するcorrectionを出しているので、次にまた同じことやったら論文掲載として致命傷な気がするので、そういうことなんでしょう。まあこっちとしては論文本体に『最終的にデータは一致したが、相手の論文に載ってた方のデータは間違ってた。近いうち訂正されると信じている』的なことをフルデータ付けて書いといたのでこれ以上はどうでもいいです。つるし上げてヨドバシポイントよろしくなんか貯まるんなら垂れこんでもいいですけど得しないし。

で、おそらくこの論文については
・実験結果と論文内容については嘘は言っていない(たぶん
・論文の本筋(生物活性)ではない化合物そのものの化学的データがテキトーだった
というのが実際ではないかなというのが現状の解釈です。




じゃあいったい論文にあったデータはなんだったのかという疑問が残ります。ここは完全に推測ですが、元論文に載っていたNMRデータの化学シフト、ChemDrawで出せるシミュレーションの値にそっくりなんですよねえ、特に13C


ChemDrawではNMRの化学シフトをシミュレーションで出せるのですが、実際の値とは大きくかけ離れているので1H NMRはほんとに実装する意味が分からないレベル(そんなのいらないから安くしろよ)。13Cはある程度の加成性が成り立つのでシミュレーションのだいぶ信頼性は上がりますが、他のピークとの相対位置についての単なる傾向を見るレベルに過ぎず、一致することなどはありません。実際問題にしたピークはシミュレーションでも(元論文でも)δ90ちょっととなっていましたが、実際はδ77前後に表れています(他にももっと決定的なことがあるんだけど伏せときます)。なのでひょっとしたらシミュレーションでの値を仮置きしてそのまま差し替え忘れたんじゃないのか、という気がすごいしているのです。化合物自体はちゃんとNMRチャートくれたしそれであっていたから合成でウソついてるわけじゃないので(どのみちassign間違ってたけど)。

ただ、こっちが合成した類似化合物のデータ実測と比較するとその論文、今回問題にした基質以外にも何個か嘘くさい化合物データがまだあるんですが、まあしーらないっと。今だまってたところでほかにうちみたいなのが出てきてもめても知らんもんねー
♪〜(・ε・`)


自分の作った化合物、『他の誰も作んないからテキトーでいーや』とおもって死亡フラグ立てていませんか?
この広い世界で『誰もそれを作らない』保障はどこにあるのですか?
初めてのモノなら「おまえらワシのデータ引用しろやゴルァ!」ぐらいの姿勢でちゃんとやっとかないと、こういうことになりますよ?
(もっともこの論文、バイオロジーがメインだからそこさえちゃんとやってりゃ間はどうでも、っていう感じだからかもしれません。そもそもフルペーパーなのにNMRチャートなしで論文通るくらいだからその某誌側もそういう姿勢なんでしょう。逆に合成メイン論文誌だと生物活性試験の方が雑だけど)



と偉そうなことを言っている本人がその後当事者になるとは、この時夢にも思わなかったのです・・・
(フラグを立ててみたが笑えねえよそんなの・・・


・おまけ
エマ、NMRデータをここに(村井君のブログ)

Organometallics誌の論文Supporting Information内に
「Emma, please insert NMR data here! where are they? and for this compound, just make up an elemental analysis(元素分析データを作っておいて...」
という捏造を指示したのではないかと思わせる文章が見つかり、大炎上した事件がありました。その論文訂正(弁明?)は既に出ているのですが、こんな弁明というか釈明というか、某県議号泣会見を思わせるようなaddition&correction(なんと2ページにも及ぶ)は珍しいです。それ以前に修正訂正箇所多すぎてこれこの騒動なくても投稿レベルとしてどうなのと思うのですけど。
死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) (宝島社文庫 C な 5-1)

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by ヨメレバ
posted by 樹 at 10:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 研究・論文不正 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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