冒頭からいったい何に怒ってるんだかわかりませんが、別に「○○は○○らしく」とか正直どうでもいいですね。どこぞのなんちゃらパートナーシップなんちゃらとかで家庭が滅びるとか自然に反するとかなんだとか、はたまた女装やら男装やらはなんやかんやと言ってる人いますけど、別に毒ガスを吐いて回ってるわけじゃあるまいし、別にそうしたいんだからそうすりゃええじゃないですかね。推奨するのもなんか違うとは思いますけど、それを認めないとか否定に走るとか異端扱いするとか嘲笑目的で取り上げるとか、ずいぶん偏狭やなあと思う次第。
でそれはそれとして。高等生物の人間でなくもっとシンプルな系、有機分子だってその極性に起因する「普段はこう」という通常の反応性とは全く反対の性質を持つこともできます。分子だってたまには「○○らしく」ないこともしたくなるもんです。
このように分子の性質、極性を逆転させることを極性転換(umpolung)と呼び、通常の有機化学ではできない結合生成を可能にするなど、分子変換をより柔軟かつ幅広く行えるようにする優れた合成戦略として知られています。今回はその中で、重要な反応性官能基であるカルボニル類の極性転換についてまとめてみました。
なおこのumpolungという用語、元は当然ドイツ語(反転)からきてるんですが、ドイツ語だと名詞の最初は必ず大文字にする決まり。でもこの場合完全に化学英語化してて小文字にしないといけないのでなんか気分的にもやっとする私。
ちなみに女性名詞(die Umpolung)。

普段カルボニル類の炭素部分は求電子部位(+)、酸素原子部分(δ-)はとなることから、カルボニル類の反応は求核剤との反応、すなわちカルボニル類の炭素が

その手段としてよく知られ利用されているのが、シアノヒドリンやジチオアセタールを用いた手法です。どちらもアルデヒドから1工程で変換することができ、こうすることによってカルボニル根元に相当する炭素上に、塩基存在下アニオンを発生させることができます。これはアシルアニオンの等価体であり、どちらの手法も天然物合成などによく用いられ、ジチオアセタールの合成はAmos Smithらがカスケード反応等への利用による合成戦略を発展させています。最近ではNHC(N-ヘテロサイクリックカルベン)を用いた触媒的な手法も増えましたね。

本来電気的に陽性であるはずの炭素部位ですが、シアノヒドリンの場合はシアノ基の電子求引性を利用することでカルバニオンを発生させやすくしています。ジチオアセタールの場合には硫黄原子の空3d軌道の寄与による共鳴が隣接するカルバニオンの安定化に関与・・・・と昔から言われていましたが、最近の研究ではそれほど重要ではないとのこと。アルキルスルホンのアニオンにしてもエノラートみたいな非局在化の関与は少ないらしく、現在は「分極の寄与が大きい」ということになっているそうです(現代有機硫黄化学: 基礎から応用まで (DOJIN ACADEMIC SERIES)参照)。
ちなみに、ジチアンなどに見られるアルカンチオールのアセタールよりもベンゼンチオールのアセタールの方が圧倒的に酸性度が高くなります。合成的な有用性がだいぶ上がりそうですが実際の合成とかで使われてるのをみたことないのを考えると、ベンゼンジチオアセタールの場合脱保護がうまく行かないからなんでしょうかね。

一方、電子求引性のニトロ基はニトロアルドールでも使われるように、カルバニオン発生に使えます。またNef転位などを利用することで根元の炭素をカルボニルへと変換できることから、これもカルボニル等価体と言えます。
Jeff Johnstonらはブロモ化されたニトロメチル基とハロアミンを用いることで、極性転換的なアミド化によるペプチドカップリングを達成しています。アミド化はカルボン酸とアミンとの縮合がほとんどであり、この手法は電子受容体であるアシル基、求核種であるアミノ基双方の極性を逆転させた戦略になります。

J. N. Johnston, et al.
Nature 2010, 465, 1027-1033
最近では塩基を使ったカルバニオンでの極性転換的置換の他に、ヒドロキシマロン酸やホルムアルデヒドヒドラゾンをアシルアニオン等価体とした遷移金属触媒を用いたものも発展しています。

S. Breitler, E. M. Carreira
JACS ASAP DOI:10.1021/jacs.5b01951
ところで、これまで見てきた手法はあくまでカルボニル"等価体"を利用したアシルアニオンの発生であり、アシルアニオンそのものではありません。では等価体なんてまどろっこしいことをせず、直接アシルアニオンを出すことはできないでしょうか。実はアシル基から塩基で直接アシルアニオン自体を発生させることは出来ますが、極めて不安定なため合成への一般的な利用はかなり限られます。しかし、ホルムアミドから強塩基によって発生させることのできるカルバモイルアニオンは比較的安定で、低温化でNMRの測定を行うこともできます(η2型を取っていると考えられるとのこと)。Reevesらはそのカルバモイルアニオンを利用したキラルスルフィニルイミンとの反応によって、光学活性アミノ酸誘導体の合成を達成しています。ジペプチドもエピらずに合成できる様子。

J. T. Reeves, et al.
・JACS 2013, 135, 5565-568
・JOC 2014, 79, 5895-5902
というわけで、今回はカルボニルの炭素原子の極性を転換した話でした。次回に続きます。