2015年初頭に今までを天然物・合成化学を振り返ってみる: たゆたえども沈まず-有機化学あれこれ-
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・創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話

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大学講義の初級有機化学
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・ニューマン投影式の理解の仕方
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2015年01月19日

2015年初頭に今までを天然物・合成化学を振り返ってみる

あけましておめでとうございました(ぉ
どれくらい更新できるかわかりませんが今年もよろしくお願いします(っ'ヮ'c)
先行き不安定な身分ゆえ心落ち着きませんが_(:3 」∠)_

で、最初から化学の特異ネタとかやるのもあれなんでまあ年頭っぽいことを言おうと思ったんですが特段わざわざ書くことないんですよ困ったことに。有機合成化学を軸としてどうにかその発展に寄与できるような新しいことを出していければなと思ってはいるのですが。あ、ブログの目標は「毎月1つは書く」です(低い目標)

さてそういう思いから始まって振り返ってみると自分が学生だったころからの有機化学ってどれだけ進歩してきてたっけな、と。授業や本で知識として歴史を学ぶ感じで見ていけばわかりやすいですけど、参画してからとなると当事者になってしまっていまいち進展が分かりにくいという実感。

で、なんとなくScripps研究所のRyan Shenvi研のセミナー資料見てたらこんなのがあるのを見つけました。


The most important organic chemistry of the 1980s (PDF注意, Ryan Shenvi's lab, Scripps Institute)



有機化学における1980年代のランドマーク的な発見、発展、開発をまとめた輪講資料なのですが、こうやってまとめると自分が生まれた年代で幼少をなんも考えずに(∩´∀`)∩ワーイと過ごしてきたときにもすごいことがたくさんあったんだなと思わされます。

何があったかというと、Shenvi研の資料を見ていただいた方が早いのですが、かいつまんだだけでも

・半経験的分子軌道法AM1の開発
・マイクロウェーブ利用反応が注目を集め始める
・リパーゼによる光学分割
・Luche還元、CBS還元、Dess-Martin酸化、IPC-ボラン還元、Super hydride
・Weinrebアミド
・BINAPリガンドによる不斉還元
・香月-Sharpless不斉エポキシ化
・Evans不斉補助基

と、そうそうたる面々。Luche還元なんてなかった時代は一体どうしてたんだと思いたくなるような定番反応ですがこれも80年代。ちなみにほぼ間違いなく毎日行われているフラッシュカラムクロマト、アレの登場はさらに前の1978年です。

2000年代、2010年代と研究に携わってきていて、(有機触媒、C-H官能基化の発展、結晶スポンジと言ったわかりやすいものは別として)そんなに進歩してないんじゃないかと思ってしまうんですけど、この1980年代まとめのようにこうやって後からまとめあげるととんでもない偉業だらけだった、みたいな感じで実は色々出てきているのかもしれませんね。発表当時から絶大なインパクトを集めてその後も重要テクとしてあり続けるものだけでなく、当時のインパクトとしてはさほどでなくてもその機能性、重要性、有用性が明らかにされることでエッセンシャルなものとなって行くものもあるわけで、そういうもののありがたみは時を経ないと実感できないのかもしれません。こう見ると高インパクト誌で一発ぶち上げただけの革新技術を謳う再現性ゼロのモノの意味など、長い科学技術の歴史から見たら全くむなしいものにしか見えません。個人的には死んだ後に一杯引用されるような研究を目指してやっていきたいとは思っています。せっかく出した論文が埋もれて発掘されないのは不愉快ですし。

一方、1980年代の天然物全合成はというと挙げるとキリがないのでちょっとだけにしとくと

・Woodward最後の全合成(erythromycin)
・Gingkolide B (EJ Corey)
・Brevetoxin (Nicolaou)

というのがあります。巨大分子の合成が多くなってますね。90年代-2000年代前半もデカめのターゲットが多かったような気がします。これはたぶん山口・椎名ラクトン化の開発やGrubbs触媒によるオレフィンメタセシスの利用が格段に増えたためと思われます。余談ですが僕が研究室に配属される前~配属直後だと『メタセシスなんて使って全合成とかつまんねーし邪道!!』みたいな意見が日本では大御所を中心に大勢を占めていた印象ですが2000年半ばくらいになって「そ、そろそろメタセシスも合成経路として認めてもいいかな・・・」とかいう風にに手のひらかえされてて、なんというか吉本の「今日はこの辺にしといたるわ」感がすごいしました。

2000年代になると打って変わって生合成模倣型を含む小分子の超効率的全合成へと一気にシフトした感があります。マンパワー不足、論文数の出ない大分子が嫌われ始めたのと天然物合成に対する資金供与の減少が大きいような気がしますが、2010年以降はもはや天然物合成自体が新反応開発の際の応用例でちょいと出される程度の扱いがだいぶ増えてきました。有機化学美術館でもNicolaouのマイトトキシンの件が取り上げられていましたが、最近のPhil Baranの研究動向をみてももはや天然物合成だけだと生きていくのも厳しい時代のようです(中国からの天然物合成も多く見られるようになりましたがあちらも状況は同じようで、特に高インパクト誌論文を大量に出すことを要求されるため、コスパや報数の面で好まれない様子)。個人的には生物活性を謳っておきながらそのほとんどが合成してお終いというのを繰り返してきてたんだから因果応報感も強いんですが、天然物合成自体もどうあるべきかを本気で考え直さないと絶滅するんじゃないですかねと、天然物化学をだいぶ離れてしまった私としても思うわけです。日本だと振り分けられる資金減るわ人材ないわ短期の任期制が当たり前になるわ○○省に研究環境悪化されるわとかでもっとやりづらいんじゃないですかね、一応日本のお家芸であった分野ですが。

マイトトキシン全合成は成るのか(有機化学美術館分館)

そんな暗ーいお話から始まる2015年でしたが、いいんですよ死んでからでも歴史に残れりゃ。あと「3月のライオン」でもあったけど途中で何があろうと生きて終えられれば勝ち。ぶっ倒れてからというものこういうスタンスになってきた、いいのか悪いのか知りませんけど。

posted by 樹 at 09:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | 更新情報をチェックする
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