2014年09月14日

創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話

去年の末頃にこんな論文が発表されました。

Occurrence of the Synthetic Analgesic Tramadol in an African Medicinal Plant
De Waard, M. et al.
ACIE 2013, 52, 11780


トラマドールという鎮痛作用のある合成医薬(μアゴニストのオピオイド鎮痛剤)がアフリカ、カメルーンの薬用植物から単離、構造決定された、という論文です。

トラマドール(Wikipedia)
↑Wikipediaに載ってるくらいに有名なのねコレ

まあこれ出たときには「へー、アフリカまだまだいろんなのあるなー(ホジホジ」くらいにしか思ってなかったし、せいぜい『天然から採れたんだったらこれから権利とかなんだとかもめそう』だとか『合成品が天然から見つかったとかで自然派のみなさんどうすんですかね』だとかそういう性根の曲がったことを思う程度だったんですが、先日、この「『天然から見つかった』医薬品」についての疑義に触れた論文が、同じくAngewandte Chemieから出てきました。

トラマドール.jpg

Tramadol−A True Natural Product?
Spiteller, M. et al.
ACIE ASAP DOI:10.1002/anie.201406639 (selected Very Important Paper)


会社の作った農薬や医薬分子が天然から発見されない、と言ったことは全然なく、古くからそういう例も知られていますし、フッ素が入った5-フルオロウラシルなんていう1957年に合成報告があったものが、約50年後に天然からの報告例が出てきたなんてこともあります。ですから、医薬品が自然界から採れること自体は、珍しいことではありますが不思議ではありません。

5-Fluorouracil Derivatives from the Sponge Phakellia fusca
Xu, X.-H. et al.
J. Nat. Prod. 2003, 66, 285


人工分子は天然に存在しないのか―抗がん剤分解物は妖精さんだった話―

ではいったい今回のトラマドールの場合、どうだったのか。
そもそもはカメルーンのNauclea latifoliaという木の根からトラマドールを発見した!という報告だったのですが、今回の筆者らは

・生合成経路が不明すぎる
・NMRやMSなどの報告はトラマドールの「存在」を示すだけであり、その起源に触れられていない
・天然トラマドールの15N/14Nや13C/12Cなどの同位体比が、市販のトラマドールのそれらの範囲内に収まっている

ことから単離報告に疑問を持ち、独自にトラマドールが取れたというNauclea latifoliaの根の分析を行いました。その結果、



確かにトラマドールの含有が確認されました!!!!



お し ま い




なわけはありません。

確かにトラマドールはあったのですが、どういうわけか同じ種類の木から採っているのにトラマドールの含有量が報告より少なかったり、そもそもその量がサンプルごとでバラバラで、トラマドールが含まれていないモノも。しかも季節ごとどころか、どういうわけか地域によってトラマドール入りが多かったり、一方では全然トラマドールが見つからないという謎な結果になりました。さらに、なぜかトラマドールそのものだけではなく、哺乳動物がトラマドールを摂取した際に生じるトラマドール代謝物まで発見されるという事態に。

どういうこっちゃこれ????
というわけで、カメルーンの現地民を調査したところ、驚くべき事態が次々と発覚したのです。


@農家がトラマドールを過剰摂取していた
トラマドールは鎮痛剤です。一日中、アフリカの超絶な日差しと高温の中で労働せねばならない農家が地元の市場や路上の売人から購入し(12錠で1ユーロしないそうな、現地相場的に安いのか高いのかよくわかりませんが)、摂取するとのこと。しかも一日の用量的には圧倒的なオーバードーズで。
『一日中働いても疲れを感じない』とかで使ってるそうな。
やべえよやべえよ(((((( ;゚Д゚)))))てかそんな簡単に買えるのかこれ?

と、これだけでいうとアフリカの闇を見ただけになりますが、なんで植物からトラマドールが出てくるの?ということには答えていません。が、問題はここから。



A 家 畜 に も トラマドールを飲ませてた



  ( ゚д゚)    ....
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
   \/     /
      ̄ ̄ ̄

  ( ゚д゚ )    ....は?
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
   \/     /
      ̄ ̄ ̄

論文によると「石臼などの牽引用家畜(牛)が、疲れてへたらないように」投与してたんだそうで。えーと、トラマドールは人間用なんですが・・・・?もうブラックというかなんというか開いた口が・・・


B 競 馬 用 の 馬 にも投与してた

つっこみ.jpg

えーと、レースの前にエサに混ぜてあげてたんだってさ。ドーピングちゃうんかこれ。

で、結局どういうことか、というと、


家畜やらの動物にオーバーワークさせるために人間用のトラマドールを投与

暑いので木陰で涼みがてら、木のそばでジョボジョボ、ブリブリする

特に乾季で木にトラマドールとその牛代謝物がばっちり吸収される

化学者「天然の木から創薬化合物、とったどー!」←いまここ


というわけでトラマドールは2次汚染の産物でしたというオチのようで。
いやー、展開が斜め上すぎるでしょこれは(;´Д`)
そしてこんなんまで考えなきゃいけないから物取り大変だわほんと('A`)

しかし冷静に考えてみればこれ、薬による環境汚染に他ならないわけですし、また雨季になるとトラマドールの含有量が減ってることから水質の汚染の恐れも。一方、用法用量を無視した服用に関しても特にトラマドールなどは副作用もかなりあるので人的影響も相当にあるわけで。このような事例は過去にもdichlofenacでも知られているようです。

ジクロフェナク.jpg

劣悪な労働環境、貧困、教育など様々な要因が絡んだ問題な気がして、衝撃的な展開の後には色々と考えさせられるものが残った論文でした。

用法・用量を守って正しくお使いください!

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posted by 樹 at 09:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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