2014年09月11日

構造改訂と論文引用の話

日々次々と新しい有機化合物から天然から発見され
天然資源から採ってきたものだと全合成と違って原資が限られるので壊さないように、かつ構造がわかるように誘導をしたり、いろんな不純物を取り除いてたらなくなっちゃったみたいなことを繰り返してやっとこさ構造決定をするので大変しんどい分野ですが、それだけ苦労して提案した構造も合成によって再改定されることもしばしば。最近では

フッ素を持った天然物が取れた!

実はFじゃなくてOH(水酸基)でしたー!
なんて話が話題になりました。

1 フッ素天然物.jpg

他にも最近全合成で構造決定されたモノがあります。シクロイヌマキオールという天然物の提出構造を合成してみたら全然合わなくて、どうもこれは19-hydroxytotarolという既知化合物ではないかという話になったようです。水酸基の分分子量合わないけど、まあX線で直接見れるわけでもないし、間違え方としてはまああるかな、という気はします。

2 シクロイヌマキオール.jpg

中にはちょっと違ってる、とか立体化学が違うとかいうレベルじゃない構造改訂も。
究極例はこちら。軸不斉を持ったビナフチル天然物として報告された化合物。
ところが・・・・

3 ビナフチルがジフェニルエーテルだった.jpg

何 一 つ 合 っ て な い じ ゃ な い す か こ れ。

提出構造を作ったらあまりに違いすぎて単離元からサンプル取り寄せたらこうなった、とのことなのでまあこれで正しいんでしょうね、単離元の人も見てるし。ブロモとかすごいわかりやすそうなのに、ってか分子量の全然違うやんけ。いや、そもそも軸不斉とはなんだったのか。

まあこんな風に単離文献とあとあと構造違ってたなんてことはよくあることですが(最後のやつはさすがにどうかと思うけど)、今回問題にしたいのはそこではなくその引用の話。


最後の件、Nagleらの単離文献は発表後に24件とそれなりの引用がされています。そしてどれも別に「構造間違ってた」例として挙げているわけではありません。ナフタレン骨格、ビフェニル骨格を持つ天然物の例として各論文のイントロ中にて引用がされているのです。

ですが先ほど見たように実際の構造はビフェニルでもナフタレンでもないわけです。しかも天然サンプルの再解析でこうなってるので間違ってる可能性は極めて高いという。百歩譲って「その構造改訂が間違ってるかもしれない」となったとしても、ここまで怪しいことになってるようなモノを「ナフタレン・ビフェニル天然物」の例として挙げるのはreference文献としては不適切かと思います。この論文を引用した例はどれもイントロの中でのバックグラウンドの例(ナフタレン骨格の合成法などの論文なので重要性をアピールするための引用)に使われてるだけなので引用した各論文の根幹にかかわるような引用でもありません。おそらくぱっと検索して引っかかったのを引用しただけ、といった感じでしょうか。

でもよくよく考えてみたら我々もイントロに使っているような論文が、その後どんな議論になっているかまではなかなか見ていないような気もしませんか。結局論文のストーリーを書くために、それに合った論文を探してくるだけになってて、その文献がその後の議論の結果、実はそのイントロの引用例として適さないらしい、ということがわかるまで追うことはなかなかないような気がします(俺だけ?

もちろん本論に大きくかかわるようなモノなら追ってないとまずいわけですが、たとえば「○○骨格構築法」という論文を書いたとして、大体イントロにはその重要性を示すために○○という骨格を持った生物活性天然物や創薬化合物が図と参考文献とともに示されることになります。まあ悪く言えばダシでしかないので、こういう例はあくまで「こんなんありますよー」という1例を挙げる程度の軽いモノとして扱いがちかもしれませんが、その構造の改訂が、単離構造決定の後で報告されてたりしませんか?●●反応の例として挙げたものが、その後機構が違ってるという報告が出てたりしませんか?

例を挙げるだけだからと適当に参照挙げせずにちゃんと後まで追って引用しましょうね、とNagleらの被引用数を見て思いました、まる。ちなみに構造改訂を行ったKozlowskiの論文の被引用回数はACSでカウントされてる分だとself citation含めてたったの4件。たったの、というのも変ですがNagleらの24件と比較するとなんだかなあと思ってしまいます。

参考:どうしてこうなった!?(肩凝り大学院生の非日常)

by カエレバ

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posted by 樹 at 10:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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