最近読んだ本から-病の皇帝「がん」に挑む~人類4000年の苦闘-: たゆたえども沈まず-有機化学あれこれ-
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大学講義の初級有機化学
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・ニューマン投影式の理解の仕方
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2014年06月05日

最近読んだ本から-病の皇帝「がん」に挑む~人類4000年の苦闘-

どうも、久々の更新です。何とか生きてます、というか一応直ったようなのでぼちぼちと再開していきたいなと思っています。

と言っても論文が読める状況でもなかったので最近読んでた本をひとつ紹介したいと思います。

病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上
シッダールタ・ムカジー 早川書房 2013-08-23


著者自身ががん医であることもあり専門的かつ一般にもなるべくわかりやすく書かれた、長きにわたる「がん」と人間との戦いの本です。本書はこういった一般向けの本には珍しい気もしますが参考文献リストがついています。その量がすさまじく膨大。上下巻にわたる分厚い本ですがそれだけはある綿密な取材に基づいた極めて濃厚な内容であることが見て取れます。原書は2010年でピュリッツァー賞も受賞しており、4年越しでの翻訳版の出版となります。

邦題では「人類4000年の苦闘」とサブタイトルがついていますが実際には200年間での対がん運動の歴史が本書の主となっています。というのも古代には「がん」と思しき記述がある程度で、しかも「治療法はない」とまで明言されるレベル。4000年中3800年はなすすべなくやられっぱなしの時代が続いていたということになります。本の流れは大体以下の感じ。外科的な話よりも化学療法の話が多いので科学屋さんにとっても読みやすいかと思います。

外科的手術法の変遷
化学療法の発見と抗がん剤の徹底探索
放射線治療法の開発
がんの原因探索から始まるタバコ産業界との戦い
がんの仕組みに着目した抗がん剤の発見・開発(オールトランスレチノイン酸 (ATRA)、イマチニブ(imatinib, Glivec, Gleevec)、抗体抗がん剤ハーセプチン(Herseptin, Trastuzumab)など)

こう書くと「いかに人類ががんを征圧してきたか」みたいな本に見えてしまいますし、実際そんな本かなとも思っていました。ですが本書はほぼその逆、基本的にがんに対する『敗北の歴史』を治療法の進展とともに見ていっている本に近いと思います。もともとこれの原題が"Biography of Cancer(がん伝記)"であるように、主体は「がん」です。患部どころかその周辺をごっそり切除したり、抗がん剤で地獄のような副作用に苦しめられたりしてもなお立ち上がってくるがんという存在に対して、人間がいかに立ち向かってきたかが医者および患者の立場から赤裸々に記述されています。特に外科的、化学療法的な治療、および資金獲得面、認知活動それぞれについての政治的、派閥的な動向(トレンドともいうけど)やロビー活動など、研究成果ばかり注目される中でなかなか知ることのできない内面が記されていてとてもリアルです。一方で読みながらがん討伐に対する切迫感が伝わってくる本でもあるのですが、そんなさなかに出た成果捏造事件のことも載っていて、いかにこういう所業が業界・研究・治療といった広範囲の流れに大迷惑をかけるのかもよくわかります。

というようにこの本は単に治療法の歴史を追ったという単純なものではなく、「がんとは一体何者なのか」ということを追いながらがん治療・研究の歴史・変遷・進歩そして現在を見ていく壮大な歴史本でもあります。その過程には先ほども書きましたが大して効きもしない抗がん剤でとんでもない副作用に苦しめられたり、今からするとありえないような切除対策がなされてきた様子も存分に記されています。また現在でもがんは征圧できてはおらず、本書でも「俺たちの戦いはこれからだ!」的な終わり方になっています(ネタバレか?)。しかしそういった負の歴史を乗り越え、がんという未知の脅威への対抗策(予防という観点も含め)を進歩させてきた生への探求の道において、本文の言葉でいうところの「何一つ、無駄な努力はなかった」ということも理解できるのではないかと思います。抗ガン治療については色々疑似科学的な話とか反医療的なスタンスの話も多いですが、そういう人にもぜひ読んでもらいたい一大ノンフィクションだと思っています。

ちなみに有機合成化学的な話はほとんどありませんが、当初の化学療法は「がんの仕組みはよくわかんないけどそんなもん調べてる時間あったらとにかく効くヤツ見つけてどんどん打ってかないと死ぬだろ」という流れで抗がん剤が出てきたのに対し、近年では「やっぱりがんの仕組みが分からないと元を絶てないんだからがんを知ったうえで潰そう」という風になってきているという、「がんとは何者なのか」ということが明らかになってきたことで可能となった抗がん剤探索手法への変化などもみることができます。ハーセプチン誕生と親会社の開発渋りっぷりの話なんかは面白かったです。有機化学者の名前もほとんど出ていませんがルイス・フィーザーは登場します(名前だけだけど)。あと単離の話で「日本人のグループが~」という話が出てきますが、わかる人には「ああ、あの超大御所か」とにやりとするところもありますのでお楽しみに(ってもうこの文章でほぼわかっちゃうのがアレ)。

posted by 樹 at 11:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | 更新情報をチェックする
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