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2014年01月23日

竜の血の赤、虫の赤

竜の血とか2014年冒頭からえらい中二病なこと書いてますが、もちろん本物の竜ではありません。竜血樹という、響きからしてなんかかっこいい木のことです。カナリア諸島の他エジプトやハワイなど自生しているようですが、最近ではインド洋に浮かぶイエメンのソトコラ島が、竜血樹を含めた独自の生態系と世界遺産への登録から注目を集めています。行きたい(かなわぬ夢

基本的には竜血樹とはDracaena属の植物のことを指すそうですが、この木の樹皮からは真っ赤な血の色をした樹脂が得られ、これを竜血、dragon's bloodと呼んだことから、竜血樹という名前(dragon's blood tree)が付けられています。また、成長が非常におそく、年輪がないことも特徴で、その樹齢は推定数百~数千年とも言われています。

真っ赤な樹液を出す不思議な木「竜血樹(リュウケツジュ)」(DairyNewsAgency)

これら竜血樹の赤色は各種アントシアニジン化合物によるものであることがわかっています(アントシアニンはこのアントシアニジン類に糖がくっついたもの)。このアントシアニジン類はpHによってその形態を変えるため、その酸性・塩基性度によって色が変化します。実際、赤色色素の一つであるdracofraviumという化合物は強酸性条件で黄色、弱酸性から中性で赤色、塩基性でピンクとなります。竜血自体の色はどうなるんでしょうか、気になるところです。これら赤色色素化合物は竜血樹の種類ごとで含有量が違うため、それを元に採取元の植物を推察することもできるようです。

1 dragon's blood flavylium.jpg

Identification of 7,4’-Dihydroxy-5-methoxyflavylium in “Dragon%s Blood”: To Be or Not To Be an Anthocyanin
Chem. Eur. J. 2007, 13, 1417-1422.
F. Pina et al.


Flavylium chromophores as species markers for dragon’s blood resins from Dracaena and Daemonorops trees
J. Chromatogr. A 2008, 1209, 153-161.
M. J. Melo et al.


またこれとは種類は別ですがchinese dragon's blood treeの赤色色素も単離構造決定されています。同じDracaena属なのに随分違う構造ですね。


Anti-Helicobacter pylori and Thrombin Inhibitory Components from Chinese Dragon’s Blood, Dracaena cochinchinensis
J. Nat. Prod. 2007, 70, 1570?1577
Ming-Wei Wang et al.


2 chinese dragon's blood red.jpg

ところで竜血樹より得られる樹脂である『竜血』は単なる染料としての利用だけでなく、鎮痛作用や止血などの薬として古来より伝統的に使われてきたようです。この辺が『竜の血』と呼ばれる理由の一つにもなっているような気もしますが、この赤色成分そのものに関しては特に生物活性の報告がないようです。しかしこの竜血に含まれる他の成分には(程度はわかりませんが)細胞毒性、抗腫瘍活性、抗アレルギー活性など様々な活性を持つ化合物が実際に見つかっています。その構造は色素同様にベンゼン環だらけのものからステロイド骨格を持つようなものまで様々。最近はこの手の伝承薬から新しい化合物が見つかることも多いのでまだまだ役に立つ化合物が見つかるかもしれません。

Dragon’s blood: Botany, chemistry and therapeutic uses
J. Ethnopharmacol. 2008, 115, 361-380.
R. K. Gupta et al.


Steroidal Saponins from the Bark of Dracaena draco and Their Cytotoxic Activities
J. Nat. Prod. 2003, 66, 793-798
J. Bermejo et al.


しかしこの竜血樹、イエメンのソトコラ島の竜血樹の場合、家畜として連れてきたヤギが幼木を根こそぎ食っちゃった&観光資源として樹皮を傷つけて竜血たんまり採っちゃおうぜな輩のせいでほぼ絶滅の危機とのこと。のんびり暮らしてた竜が人間の急速な進出であっという間に追いやられてしまったという感があります。

一方竜血樹の場合と異なり、色素自体にも生物活性がみられるものもあります。テントウムシのエサとしてお馴染み(ひどい)のアブラムシ、これらから単離された色素類は抗菌活性や細胞毒性を持っていることが最近分かってきました。アブラムシの敵はテントウムシ以外にカビもあるそうなのでそういうのに対抗するようにできているのかもしれません。ちっこい虫だからと言って侮れませんね。ちなみにアブラムシというと緑色な印象がありますが、種類によっては赤色や黄色なんかもいたりします。

2 ユキヤナギアブラムシ.jpg

2 ユキヤナギアブラムシ.jpg

4 セイタカアワダチソウ.jpg

虫の色素として日常生活に関係しているものの中で有名なのがコチニール色素。赤色の色素で、古くはインカ帝国で、またルネサンス期にも高級染料として用いられてきた伝統ある色素なのです。コチニールカイガラムシという非常に小さい虫(いわゆるエンジ虫とよばれる)から採れるもので、pHによって色が若干変化します(酸性で赤橙色、中性で赤色、アルカリ性で赤紫色)。現在では色々な食品の着色や化粧品にも用いられています。

コチニール色素 (Cochineal extract)(キリヤ化学)

1 コチニール色素.jpg

という伝統あるモノのはずですが、というだけでどういうわけか昔からすごく嫌われている色素でもあります。人工化合物は毒だ!天然は安全!とかいうだけじゃなくて天然なのに今度は虫から取ってる!キモイ!になるのはどういう理屈なのかよくわかりません、天然は天然で差別があるのかしら。中には『虫を虐殺して取っている!ゆるせない!』的な意見もあるようで。虫はダメで植物はいいんかい、と突っ込みたくて仕方ありませんが。

ただ、この色素の場合には虫だ虫じゃないという話で片付くほど単純ではないようで、「コチニール色素でアレルギー」という症例が少数報告されています、しかしこれは色素分子そのものではなく色素精製時に混ざるタンパク質が原因であるという結果が出ています。ですがこのせいで最近はコチニール色素が別のモノに置き換わりつつある様です。少しでもアレルギー起こったら使えなくなるというのだといろんな食品使えなくなるんですが、こうなると避けられるんなら避けた方がいい気もしますし難しいもんです。この辺は「コチニール色素」というモノの純度(不純物タンパク質の含有量)が生産者によってまちまちなことにも問題があるようですが、この辺の説明は詳しい下のリンク先に譲ることにします。

・赤い着色料の原料、虫からイモに転換?(ナショナル・ジオグラフィック)
・わかりにくいコチニール色素問題を読み解く(FOODCOM.net)

ちなみにカクテルでお馴染みのカンパリ、アレの赤色はこのコチニール色素でした。ですが、やいのやいの言われたのかどうか理由は不明ですが2007年にこのコチニール色素による染色を止めています。これで安心して飲めるね☆(ゝω・)v

じゃあ代わりに何で赤色をつけるようになったかというと人工着色料だったりするんでうーん(;´Д‘)たぶん虫の色を使ってる!とかいう苦情とかよりもコスト面での切り替えなんじゃないかという気はしますが。
いっそのこと竜血の赤混ぜてみるってのはどうだろう(竜血樹絶滅速度加速

posted by 樹 at 10:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 生き物の化学物質 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>ドラセナ種
ドラセナ属のほうが表現として正確かと
Posted by あ at 2014年01月24日 10:40
>あさん

ご指摘ありがとうございます。
修正しました。
Posted by かんりにん at 2014年01月24日 23:55
今月カナリア諸島に仕事で行くので有名な竜血樹をあれこれ検索してて赤色の話を見つけました。面白かったです。ありがとうございました。
Posted by nishi at 2015年05月06日 15:05
>nishiさん

こんな小ネタでお役に立てれば幸いですw
カナリア諸島楽しんでください。うらやましいです。
Posted by かんりにん at 2015年05月16日 23:42
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