1)
Sanofi’s Solvent Selection Guide: A Step Toward More Sustainable Processes
Denis Plat et al.
Org. Process Res. Dev. ASAP
DOI:10.1021/op4002565
ラボスケールだとわりとお構いなしにドバドバ使ってる有機溶媒ですが、プロセススケールともなるとそうも言ってられません。大スケールで作ったものが実際製品として使われることもあり、環境面、爆発引火等の危険性、残留溶媒としての危険性などあらゆる面での評価を勘案し、決定する必要が出てきます。これはSanofi社での溶媒選択の評価の仕方をまとめたもので溶媒種別ごと(エーテル、ハロゲン化物、炭化水素類など)に、環境面や危険度を評価し、総合評価として「推奨」、「不可」、「できれば代わりを使う」、「代替の必要あり」といった分類をしたものが載っています。メタノールなんかは安いし生物分解性ですが揮発したり引火したり、水は水で有機物は溶けないし凝固点が他と比べて高いという問題があり、なかなかにグリーンで安全な反応を実現するのは難しいんだなあと思わされます。このなかの表では当然ベンゼンやジエチルエーテルはBANNED(不可)なわけですが、THFなどの安全面などを含めた改良溶媒として知られているシクロペンチルメチルエーテル(CPME)なんかが「自然発火温度が低い」という理由であまりよろしい評価がされてなくてかなり意外でした。
2)
Merck’s Reaction Review Policy: An Exercise in Process Safety
Ephraim Bassan, Rebecca T. Ruck et al.
Org. Process Res. Dev. ASAP
DOI:10.1021/op4002033
こちらはMerck社のReaction policyですが、スケールアップの際の危険性や大スケールならではの副反応、注意点など色々勉強になることが多いです。大スケールともなると前反応の複製生物にも気を使わないといけないし、暴走しないように反応させる工夫など色々ケーススタディもあります。
3)
Safety Notables: Information from the Literature
Stephan M. Shaw et al.
Org. Process Res. Dev. ASAP
DOI:10.1021/op4003246
一番気になった論文(?)で、いろんな論文に載っている爆発等の危険情報やそれを回避する方法をまとめたものの今年版(毎年出ているそうです)。トリフルオロメチル化剤として特に創薬分野で重宝されてきたTogni試薬 I, IIの爆発性の話や安全のための代替法(ポリマー化した過酸を使った手法)などが載っていて、そのなかにジアゾ転移試薬の代替合成法が挙げられています。
元々ジアゾ転移によく使われるTfN3は反応性が高いので、その代替試薬として2007年にGoddard-Borgerらによって開発されたアジドスルホニルイミダゾールの塩酸塩が見出されました。こういったようにSurrogateの利用を常に考えておくのも安全な実験に大事です。
しかしSurrogate、代替品と言って安心するのはまだ早い。忘れがちなのは『試薬そのものがSurrogate』なのであって『製法が安全』とは限らない点です。実際、先ほどのアジドイミダゾール塩酸塩はGoddard-Borgerらによって"An Efficient, Inexpensive, and Shelf-Stable Diazotransfer Reagent"として報告され、確かに試薬そのものはTfN3の代替として極めて有用なものでしたが、その合成過程において、爆発性の非常に高いスルフリルジアジドが副生する可能性がありました。これは原料を反応性の高いスルフリルジクロリドを使っていたがために、アジド化の際のover reactionが避けにくいことがおもな原因でした。
これを解消する方法としてこの論文でも取り上げられていたのがShenらによって今年報告されたスルフリルジアジドが生成しない安全な合成経路なのです。ジイミダゾール体を出発原料にすることで過剰反応によるジアジド体生成を抑えるという経路を取っています。ただここで使ってるメチルトリフレートもかなりヤバい試薬なので気を付けて合成しないといけないのは変わらないかと思います。
A Safe and Facile Route to Imidazole-1-sulfonyl Azide as a Diazotransfer Reagent
Jie Shen, Peng George Wang et al.
Org. Lett. 2013, 15, 18-21.
またOrg Process Res Devの論文とは関係ないですが、最近Organometallics誌で温和なアミド→アミンへの還元法が報告されました。通常アミド→アミンへの還元には水素化アルミニウムリチウムをはじめとしたアルミニウムヒドリド(LAH)やボロヒドリドを用いますが、特にLAHは火を出しやすく、暴走反応もおこすので実験室レベルでも結構気を遣う試薬です。この論文によるとそれらを使うことなく触媒量の炭酸セシウムとフェニルシランで加熱するだけでいいらしいのでこれはいい方法だと思います。
Cesium Carbonate-Catalyzed Reduction of Amides with Hydrosilanes
Chunming Cui et al.
Organometallics ASAP DOI:10.1021/om400951n
しかし、元をたどるとフェニルシランを調製する際にLAHを必要とするので、トータルで見ると実はLAHの危険性を回避してはいないような気もします(twitterでも指摘されていました)。フェニルシランを買ってしまえばまあ取り扱わずには済みますが、そんな安い試薬でもないので大スケールでやろうとしたらそうも言っていられないですし。逆に小スケールでの先端反応なら結構使えるのではと思います(小スケールで無溶媒条件ってのもやりづらいけど)。
結果だけを見るとついつい飛びついてしまいますが、『安全で簡便な試薬』の裏に『危険な合成法』が潜んでいる可能性も頭に置いておかないといけないなー、と思った次第です。Dess-Martin試薬も現在では後に報告された爆発性の少ない改良合成法がほとんどですし。そういう意味では「真の安全なSurrogateの合成」って難しいですねえ・・・。
ちょうど最近ジアゾ転位を考えています。
TCIのイミダゾリン系の試薬をなんかが良さそうですが、やはりスルホニル系の試薬のほうがメジャーですかねぇ。。
どうしても試薬を自分で調製しないとイケないので、スルホニル系に関しては二の足を踏んでいる状態です。
ジアゾ転移自体をやったことがないのでなんともですが、論文的には圧倒的にスルホニルアジドがメジャーですね。
おそらく北村先生の試薬のことかと思いますが、ジアゾ化の先をとりあえず少量で検討したいというのであれば調製のいらない市販試薬で試すのはありだと思います。
うまく行ったときにはスケールアップのために試薬の再検討をする必要は出てくるかもしれませんがそもそもジアゾ化の先で詰まったらしょうがないですし。
マジックメチルはフルオロスルホン酸メチルなので、別な物質だと思います。
確認したら確かにそう書いちゃってましたね。
ご指摘ありがとうございます。
先ほど修正("magic methyl"を削除)しました。