天然物の名前となると、「~トキシン(~toxin)」、「~オール(~ol)」、「~マイシン(~mycin)」といった感じである程度決まった形式の名前が付けられることが多く、何処の国の何から取れたとしてもある意味洋風な名前で統一されている感があります。ですが、そんな流れを無視するかのような現地語丸出しな名称のまま一般にとおっているものもいくつか知られてるのです。今回は中国語まんまやんけ!という天然物を紹介します。
その中でももっとも有名と思われる天然物がアルテミシニン。
天然では珍しい過酸構造を持った天然物で、抗マラリア薬として非常によく知られています。
アルテミシニンのどこが中国語?と思われるかもしれません。もちろんこれは中国語ではありません。
アルテミシニンとしての名前の方が有名ではありますが、これはヨモギ属のクソニンジン(いつも思うけどほんとひどい名前w)に含まれており、その中国名「青蒿」からアルテミシニンは青蒿素(チンハオス)とも呼ばれています。このチンハオス、中国人の間だけでの呼称ではなく、論文でもQinghaosuという呼び名で通っていますし、アルテミシニン関係の論文を見るとartemicininにqinghaosuという名前も併記されているものも少なくありません。
さてこの漢字をみてお気づきかと思いますが、この「~ス」とは漢字で『素』のこと。文字通り物質の基本成分を表す漢字で、チンハオスの場合には青蒿(チンハオ)の素(ス)というわけです。天然物の名前として「~su」で終わるのはなんか変な感じがしてしまいますが、この「~ス(~素)」とつく中国語由来の天然物名を持ったものが他にもあります。
Chuanliansuというもう中国語っぽさ全開のこの化合物は高度に酸化されたリモネン類で、センダン科の落葉高木トウセンダン(Melia toosendon)より単離されることからtoosendaninとも呼ばれています。漢字で書くと川楝素となります。このトウセンダンの果実を川楝子(日本的な読みだとセンレイシ)といい、漢方に利用されています。
Yingzhaosuは漢字で書くと鷹爪素。鷹の爪にでも入ってるのかと思ってしまいそうですが、これは鷹爪花(オウソウカ)というバンレイシ科の植物から見つかっているために付いた名前、やっぱり漢方薬に使われています。花が鷹の爪に似ていることからこの名前がついているようで、英名もEagle's claw。なんかかっこいい!
Wuweizisuを漢字で書くと五味子素、その名の通り漢方の生薬として用いられるチョウセンゴミシの果実である五味子(ゴミシ)から見つかっているものです。いくつかはSchizandrin類縁体としての名前も付けられています。
Danshensuも天然に存在するキラルなカルボン酸で、これのNa塩はAldrichでも購入できます、高いけど。漢字で書くと丹参素、その名の通り生薬『丹参』に由来します。
以上、中国語での名前がそのまま定着したものを見てきましたが、お分かりの通りこれらは古くから知られている漢方の成分がそのまま名前になっています。最近の場合では中国人グループの物取り屋さんでもちゃんと(?)「~マイシン」といった名称で命名していますので、いくら最近中国の影響が強くなってきたからと言って、これから「~ス」と言ったような中華風名称の天然物だらけになるかとそんなことはなさそうです。アルテミシニンよりもチンハオスの名前を推して主流にする流れはあるかもしれませんけど。