キノコと言えば某ホクトのCMが話題のようですが苦情で中止になったとか。
ホクトのきのこCM、苦情で打切り(livedoor news)
キノコ(意味深)。
ところでキノコと言えば食用と同時に毒としても有名なヤツですね。ベニテングダケやカエンタケみたいないかにも毒キノコってやつもいれば、非常に紛らわしくてプロでも間違うようなものもあります。
しかしこれらはほとんどが食して毒性が発現するものばかり(カエンタケは触るだけでも重症になる特殊タイプ)。胞子をガンガン飛ばしている割に毒ガスやら甘い息やらを吐くキノコは聞いたことがありません。ゲームやアニメにはよく出てきますけどね。まあガスをばらまいて遠く離れた獲物を仕留めたところでそもそも取りに行けないし、危険を回避する目的だとしてもそんな広域にまでばらまくのは労力に見合わないことを考えるとまあいなくて当然かなとは思います。
じゃあ、毒ガスを出すキノコがいないのかと言えばそうとも言えません。
シャグマアミガサダケ(赭熊網笠茸)という毒キノコ、Gyromitrin(およびその類縁体)という毒成分を持っているのですが、こいつを食おうとすると体内で加水分解を受け、最終的にはメチルヒドラジンという毒ガスへの変化するのです。笠の部分がしわしわで脳みそみたいになってるんで知らなければ食べようとは思わない恰好なんですけどとにかく毒を持っており、死亡例もあります。
じゃあ喰わなければガスが出ないのかというとそうでもなく、なんとこれをお湯でゆでても同じようなことになるので、換気の悪いところでこいつを茹でようものなら毒ガスが充満してバッタリと言ってしまう可能性があります。逆に言えば煮沸することでGyromitrinは分解するのでこれで毒抜きができるわけです。これを利用して、こんな猛毒キノコもフィンランドをはじめとした北欧では食用キノコの定番として市場に売られているらしいので、人間の食欲というのは恐ろしいものです。日本人のフグもそうですが、なんでややこしい解毒・除毒調理法を編み出してまでこういうのを食おうと思ったんですかね、よっぽど食い意地が張ってたとしか思えません。
(※ヒドラジン類は発がん性も強いので長期接種でがんを発症する可能性があります。また煮沸毒抜き不十分で中毒を起こした例もあるので、まあ素人で調理しない方がよろしいかと)
・フィンたんのシャグマアミガサタケ ツイート(togetter)
・シャグマアミガサタケ試食記
ヒドラジン類はロケット燃料としても使われているのですがなんでこんなもんを貯蔵しているのか、キノコ類はへんなやつが多いです。
ところでヒドラジン等の構造を持った天然化合物は意外と多く存在し、意外なモノからも発見されています。
Natural Products Containing a Nitrogen−Nitrogen Bond (Review)
Jonathan Sperry et al.
J. Nat. Prod. 2013, 76, 794-812.
アガリチンというヒドラジン化合物もその一つですが、コレがどこにあるかというと、食用として世界中で栽培されているマッシュルーム(Agaricus bisporus)にかなりの量含まれています(生で100-200 mg/kg、乾燥だと6520 mg/kgという報告も)。
これが酵素の加水分解を受けて猛毒のヒドラジン類へと変化→マウスに対する発がん性があるという報告が当初されていました。実際アガリチンは加水分解を非常に受けやすく、水道水に付けとくだけでもマッシュルーム中のアガリチンが48時間で全部分解してしまうという報告もされています(但し酸素存在下、酸化防止剤存在下だと分解は遅くなる)。これだけ世界中、とりわけ欧米で大量に食用として栽培・消費されているマッシュルームが毒性や発がん性を持っていたとなるととんでもないことです。
しかしかなり怪しい報告だったらしく、その後の対マウスや対ヒトでの多くの研究によって「マッシュルームに発がん性は認められない」という結論が多数挙がっています。こういう報告がちょっとあるだけでもその疑惑の払しょくって大変なんですけどねー。まああれだけ消費されてるのに発がん性がホントにあったら今頃大変なことになってるし(;´Д`)というわけで安心してマッシュルームをお召し上がりください。日本だと高いんだけどねーコレ。
Mushrooms and agaritine: A mini-review
Peter Roupas et al.
J. Funct. Foods 2010, 2, 91-98.
ちなみに日本で売られている缶詰のマッシュルームやマツタケにはこのアガリチンは見られていないそうですのでどのみち安心ですね。
って書いてたらキノコ食べたくなってきたので誰かマイタケの天ぷらください、抹茶塩で。

