2013年08月24日

タダで読めるけど・・・−オープンジャーナルのあやしい世界

論文誌の購読料が高すぎるよ。・゜・(/Д`)・゜・。うわぁぁぁぁん
ってな話を前回書いたのでついでにオープンアクセス論文誌の話もしちゃうことにします。

オープンアクセスジャーナルとは何ぞや、というと、
早い話が「ただで読める論文誌」です。
普通の論文誌はバカ高い購読料を払って冊子体を購入するかアクセス権を得ない限りりロックがかかってて読めませんが、オープンアクセスジャーナルに関してはどこからアクセスしようが論文が読めます。文字通り「オープンアクセス」なのです。科学誌ではPLoS ONEや最近創刊されたScientific Reportsあたりが有名ですね。ほかにも掲載時からオープンにするものや、ある程度古くなったものをオープンにするスタイルなど色々あり、それらを含めて昨今急速に増えてきているタイプの論文誌です。

・Half of All Papers Now Free in Some Form, Study Claims(Science, 8/23)

じゃあどこで儲けてんのよ?ボランティア?いえいえそんなわけありません。
既存の論文誌は『読む方が金を払う』のに対し、オープンアクセスジャーナルは『論文を投稿する方が金を払う』システムなのです。従って、「幅広い人に読んでもらいたい」という論文を著者自身が身銭を切ることで投稿し、誰もが読めるようにするシステムなわけです。限られた人しかdetailを知り得られなかったこれまでと違い、情報共有の面で圧倒的に有利かつ大きな影響力を持つ現代に即した論文形態とも言えます。

論文誌高騰でますます注目を集めるオープンアクセスジャーナルですが、確かに「図書館が払う費用」は軽減されます。しかし今まで図書費で出ていたものを今度は「研究者側が払わないといけなくなった」わけです。しかも(ピンキリですが)一報あたり10万円くらいはかかるので、ただでさえ研究費切られてひもじい思いをしている中で痛すぎる出費になります。複数報出したらなおのことなので、お財布に余裕のある研究室とかじゃないとなかなか出しづらいものはあります。なので図書費浮いた分で「論文投稿費」みたいな感じで別枠で経費を研究所ごと用意したり、それ用の助成とかを出してもらえるようにならないとちょっときついかしらという気がします。普通の論文誌でも最近はオープンアクセスにするかどうかを選べる(もちろん自腹)ので、自分の論文を広くみんなに知ってもらいたいという力作に絞ってオープン論文にする、という感じになるのでしょうかね。もっともそれで購読料が安くならなかったら出版社丸儲けにしかなってないからそれはそれで問題のような気もしますが。

と、ここまでは普通のことを書きました、まっとうなオープンジャーナルに関して
ここから先はダークサイドな話。


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オープンジャーナルのほとんどは経費節減の関係上オンラインのみの発刊で、冊子体がない場合が多いです。そしてオープンアクセスなので購読を売り込む必要がなく、論文を応募することで生計を立てることになるわけです。成果発表のために論文を発表したい人はごまんといるわけですから、クォリティにこだわらなければいくらでも顧客はやってきます。すなわち、論文誌創刊の敷居がすさまじく低く、極端なことを言えば貴方でも明日から論文誌を立ち上げて商売を始めることが可能なのです。結果、昔以上に有象無象の謎論文誌があふれかえる状態に。

いくらなんでもそれは極端だろとお思いかもしれませんが、事実、車の輸出入を本業とした企業が論文誌を出している例があります、しかも日本で

・Presenting “Leena and Luna,” a Questionable Publisher from Japan(Scholarly Open Access)

あやしげな日本語、事務所がどう考えてもアパートの一室、エディタートップが日本人じゃない、とか本業と合わせて数え役満じゃないのこれ(;´Д`)日本からの投稿者皆無だし。
ちなみにこれがどれくらい引用されているのかを示す指標としてリンクされているのが、これまた謎のグローバル・インパクトファクターなる謎指標でもはや突っ込む気も失せるレベル(有名なトムソンロイターのImpact Factorとは無関係)。しかもそれで評価をしてもらうのに登録料がいるそうで、なんだかすごい共食い感。

他にもジャーナル名や体裁をそっくりにして既存の論文誌を乗っ取るオープンジャーナル(論文投稿がオンラインになったからこそ可能な手段)、いきなり199ものオープン論文誌(!)を立ち上げる会社など、これまでではありえなかったような非常識なことが数多く報告されています。それもこれも論文誌立ち上げと運営に関して儲けこそすれ、損をすることがほぼゼロなことが理由と考えられます(論文フォーマット作ってしまえば丸々PDF化するだけだし、冊子体も印刷代を著者に請求するだけ)。なかには既存の論文誌と全く同じ名前の論文誌まであるというからもうルールもへったくれもない(;´Д`)


・New Open-Access Publisher Launches with 199 Journals

・Icelandic Journal Latest Victim of Journal Hijacking
・Publisher Scientific & Academic Publishing Duplicates another Publisher’s Journal Title
(Scholarly Open Access)

ところでここまでリンクで挙げてきたScholarly Open Accessというサイト、実はかなり有名なサイトで、コロラド大デンバーの図書館書士Jeffrey Beall氏が運営しているブログで、疑似科学ならぬ疑似アカデミアな胡散臭いオープンアクセスジャーナルを追いかけてまとめているところなのです。彼がまとめた怪しげなオープンジャーナルのブラックリストはBeall's listと呼ばれ、疑似論文誌の研究者としてNatureやその他メディアでも取り上げられています。

・Beall’s List:Potential, possible, or probable predatory scholarly open-access publishers (Scholarly Open Access)
・Scientific Articles Accepted (Personal Checks, Too) (New York Times)

彼はこのような疑似論文誌の中でも悪質なものをPredatory Open Access Journalと呼んでいます。その定義には以下のようなものです。

・既存の論文誌に似せた名前を持つ。
・(「Peer Review誌」と名乗っていながら)査読は事実上ほとんど、もしくは全く行われない。
・論文投稿を進めるスパム同然の大量の営業メールを送りつける。
・論文受理後に請求金額を明らかにする(大体法外な金額)。
他人を勝手にEditorやアドバイザーボードとして掲載し、しかも離脱を認めない
架空の人間をEditorやスタッフ名に挙げる。
Predatory open access publishing(wikipedia)

なるほど、よくわからん論文なのによくeditorial boardなんかに名前載せられるなと思ったらそういうこともあるわけですね。下手をしたら我々も勝手に名前を使われているかもしれません。使われてても査読がなく素通りなら通知なんか一つも来ないから気づきようがありませんし。
なおBeall氏はこのリストのせいでいわゆる彼が認定したPredatory Journalに目を付けられて、10億ドル(!)もの賠償訴訟(名誉棄損?)を起こされていたりもします。


・Publisher Threatens to Sue Blogger for $1-Billion (The Chronicle of Higher Education)


さて、世の中の人に自由に論文を読んでもらって情報を発信したい、と思っているのはまっとうな学者だけではありません。疑似科学者やデマゴーグ発信者にとって「金を出せば論文になる」+「一般人(というかカモ)にも読ませられる」オープンジャーナルほど自説の拡散とProofを持たせられるシステムはありません。実際そういう報告も既にされています。

・OMICS Journal Publishes Pseudo-Science Vaccine Paper(Scholarly Open Access)
・More “proof” that vaccines cause autism? Seriously. This paper sucks.(
SkewedDistribution Where science meets common sense)

・Publishing Pseudo-Science(Scholarly Open Access)
↑「ワクチンで自閉症に」という上の例はともかく、下の論文に至っては「万物全ての定理」なる壮大な珍理論をたった数文+数式も参考文献もなしで語るなど、開いた口がふさがらないレベル。まあこういうのでも人集めには使えるんだろうなという気はします。

そんな知らん論文誌に載ったところで何の影響もないだろ、と思うのは学者のみであって、世の中「論文を発表」どころか「学会で発表」という発信ですら事実として認識してしまうのが大半の人間である以上、どこに載ろうがどうでもよくて、「論文になり」さえすれば既に目的は達せられるわけです(論文や学会発表は「根拠付きの自説」なので事実かどうかはまた別)。大体そういう集団は金はもってるし、10数万で信用が買えるなら広告費や工作費としては安いもんです。そしてオープンジャーナル側にしてみれば金は普通に入ってくるわけなので、完全に負のWin-Winが成り立ってしまっているわけです。しかもその載った論文の内容や論文誌などを平気でうそをつくので、たとえば「ネイチャー」を出している出版社の論文に載っただけなのに『Natureに採用された』と平気でうそをついている例は少なくありません(もっというと大手マスコミもこういう報道するのでほんと煽ることしか考えてないか勉強する気がないかでもうアレ)。こういうときも大手論文誌に似せた名前がついてると都合がいいですね(白目)。

そしてオープン論文誌は購読者が金を払わない以上、エルゼビアに対して起こったような購読停止や不買という手段が全く抵抗にならないので駆逐する術がないというのがかなり問題ではないでしょうか。普通の本もそうですが、エンドユーザーが金を払うタイプなら不満があれば払わないこと(=売り上げが落ちる)ことで声をある程度反映させることができますが、この手のスタイル(テレビもそうですが)はクリエイターとパブリッシャー間だけで既に商売が完結しているので、いくら不買だのデモだのをやったところで、スポンサーが生きている限りパブリッシャー側からしてみればタダで使ってるヤツのいうことを聞く筋合いはないし、別にデメリットもないわけです。こう考えると出版物をユーザーが金を出して買う、という行為は政治家−選挙のように権利者側の監視・改善の手段として大事だったんだなあと思う次第です。

もっともこの手の悪質なものはマイノリティーで、オープン誌側も協会を設立し「認定論文誌」といったBeall's listとは逆のホワイトリストを作ったりなどの対応は行っています。ですが、ニセ科学やニセ学術と言った領域が(ニセ)学術論文化され、信用(にみせかけたもの)を容易に得ることができる環境が、これまで以上に整っていることは認識しておいた方がよいかもしれません。(そのうちアレとかアレとかいっぱい論文化(笑)されるんじゃないのかね)

胡散臭い論文誌やオープン誌側の信頼に対する取り組みなどに関するNatureの特集記事はこちら
・Investigating journals: The dark side of publishing-The explosion in open-access publishing has fuelled the rise of questionable operators- (Nature 27 March 2013)
・急増する「偽学術誌」(Slashdot, Aug/25/2013追加)

(all links accessed Aug/24/2013)
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posted by 樹 at 10:04 | Comment(2) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
興味深い記事でした。
ありがとうございました。
リンク先の記事や論文も幾つかは読んでみようと思います。
オープンアクセス誌は増えてますが、せめてBeall's listに乗ってない雑誌に投稿したいと思います。
Posted by at 2014年03月18日 18:18
ありがとうございます。
Beall's listはブラックリストに載るジャーナルが多すぎてとんでもない量になってますw
かなり根が深い問題ではありますが、オープンアクセス誌は今後どんどんシェアを拡大していくのは間違いないので、これまで以上に投稿する論文誌をちゃんと選ばないといけない時代になってきたなという感じも持ってます。
Posted by かんりにん at 2014年03月21日 00:02
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