CO2、二酸化炭素も人間自身呼吸するたびに生産しているガスであり、大気中に山のように存在しています。最近では温暖化の話もあって何かと厄介者扱い。ですが炭素を1個単位で追加できるC1化合物であり、類似化合物であるものの毒性が高く取り扱いが大変な一酸化炭素と違って、引火性もなく窒息に気を付けるくらいのもんなので合成素子として魅力的なものの一つです。ただし、工業的にも幅広く使われている反応性の高い一酸化炭素と比べて反応性はかなり落ちます。とはいえ構造としてはO=C=Oというカルボニルが二つくっついたような形をしているので、求核剤が反応すればカルボン酸となり、C1ユニットを、もっとも酸化段階の高い形で導入することができるわけです。安価かつエコな合成材料となるわけですから何とかしてうまく利用する方法はないか、そういう取り組みはさらに強まっています。最近はさらに窒素分子の利用法の開発も実現され始めてきていますが、今回はCO2を材料にした合成を、最近の例を中心に簡単に紹介します。
意外に二酸化炭素を炭素資源として用いる反応の開発は古くからあり、昨今はCO2削減や温暖化などで注目を集め、「エコ」に印象的にも結びつきやすいもあってか、盛んにその利用法が開発されています(論文タイトルやgraphical abstractも「エコ」感を出してるものが多いような?)。日本でも色々なグループによって開発がすすめられています。特に京大村上研が開発した光反応との組み合わせによってCO2を有機分子に導入する例は話題になりました。
にしても適当にピックアップしたはずなのに4例全員向山先生の弟子ってどういうことなの(´Д`)
最近ではCO2ガスに加えて水素ガスとのコンビネーションによって二酸化炭素の導入と還元反応を同時に行う反応も開発されています。
無論こういった反応は既に有用な有機分子合成に応用されており、遷移金属を用いたものや、アニオン種を利用したカルボン酸部位の導入法など、様々な手法が生理活性天然物の全合成に利用されています。
なかでもBarrettらはCO2ガスを使ったカルボン酸部位の導入を含め、ベンザインなど様々な化学反応種を経由するone-potでの多成分連結反応を報告し、天然物の合成を行っています。
ところでCO2で生活の中で身近にあるのはガスのCO2よりも固体のCO2、すなわちドライアイスではないでしょうか。
このドライアイスを有機合成に使った例も多くあり、Nicolaouらはbaranolの全合成において芳香環部に対するカルボン酸ユニットの導入を、アリールリチウムにたいしてドライアイスを放り込むことで達成しています。
また古源らのbenzastatin Eの全合成でもこの手法は利用されています。やっぱり反応系内は白煙挙げてボコボコ泡立ってるんでしょうかね。どうでもいい話ですが、管理人はこの古源先生の英語表記Kogenを見てドイツ人だと勘違いしてしばらくの間「コーゲン」さんだと思っていた時代がありましたごめんなさい。(2015/6/16:漢字修正)
それはさておきこのドライアイス、合成そのものではないものの、無水の炭酸としての利用もされています。Gademannらはgelsemiolの全合成の際、SN2'反応によるメチル基の導入と加水分解にて生じた極めて不安定なマロン酸部位の脱炭酸を防ぐため、温和なpH無水調整剤としてドライアイスを利用して中和し、続けてヨードラクトン化を施すことにより、全合成を達成しています。よく見つけたもんだと思いますこんな方法。
最近ではこれら二酸化炭素を消費する反応に加え、天然に豊富に存在する不活性ガスの本丸である窒素分子の合成的利用法の開発がトップレベルの研究者によって盛んに行われています。現在はまだ基礎研究がほとんどですが、もう数年もしたらアルカロイドなどの分子合成へと応用できるような手法が出るくらいまで発展しているかもしれません。
ちなみに最初の写真のNuCO2、ネタ画像にしか見えませんが実はアメリカの業務用炭酸水の会社だったりするのであのトラックは実在します。自分で撮影したやつなので、もし二酸化炭素の研究をされてる方でこの画像使いたい!と思った方はどうぞご自由にネタとしてお使いください(`・ω・´)
「古閑」と書いて「こげん」と読む有機化学者の方の論文ということでしょうか?
検索すると古閑二郎さんという化学者は見つかりますが、この方は「こが」と読むようなので、別人かと思います。
検索しても引っかからないということは、あまり有名でない方なんでしょうか?
すいません、漢字間違ってました。
正しくは「古源」寛先生です。
本文も修正しました。