2013年07月13日

やけど虫の毒と抗がん活性

なんだか急激にアクセスが伸びてるのでなにかと思ったらアオバアリガタハネカクシが大発生しているらしいです。

・昆虫の毒-タダでは死なない話-
・【やけど虫に注意】皮膚にとまったアオバアリガタハネカクシを潰さないこと(Naverまとめ)

アオバアリガタハネカクシはやけど虫とも呼ばれる1cm程度の小さな虫で頭、尻と羽以外が全身オレンジ色という実にド派手な虫でいかにも危険な香りがプンプンします。農業害虫を食べてくれる益虫ではあるんですが。
羽隠し.jpg


実際毒を持っており、刺されると水ぶくれのような症状が出るのですが、この虫の恐ろしいところは知らずに潰したり、払いのけたりしたときの体液でも十分にこの症状が出るところ。虫嫌いな人ほどひどい目にあいそうです。その強力な毒成分の正体はペデリン(pederin)、二つのピラン環ユニットがアミノアセタールでつながった(点線の部分)非常にユニークな構造をしています。ちなみによく比較に出されるツチハンミョウの毒はカンタリジンであり、全くの別成分です。
1 ぺデリン.jpg


さて毒だ毒だと話題になるこのハネカクシのペデリンですが、別の生理活性を研究の結果、非常に低濃度でも抗がん活性を示したり、タンパク質合成阻害活性を有するなど、様々な役に立つ側面があることがわかっています。ペデリンファミリーと呼ばれるこの化合物群はその強力な抗腫瘍活性などから標的分子(タンパク)やさらに強力な合成誘導体の探索など、研究が進められているのです。
とすると、上のペデリン構造中点線で囲ったアミナール部位なんかはなかなか珍しい構造なので、この活性になんか関与してそうなにおいがします。

実は2年前にペデリン全合成を行った論文の速報版は見ていたのですが、その後すっかり忘れてて「そういや、『誘導体作って調べる』って書いてあった気がするけどどうだったっけ」と今回思い出して探したのがこちら。

Total synthesis and biological evaluation of Pederin, Psymberin, and Highly potent analogs
Floreancig, P. E. et al.
JACS 2011, 133, 16668-16679.


ペデリンそのものはハネカクシから採ってこれても、そのどこが効いているのかを調べるにはやはり人工的に一から合成しないといけません。というわけでこのグループは全合成を通してペデリンそのものをはじめとし、天然にない誘導体を何種類も合成、それらのがん細胞に対する活性試験を行っています。


ぺデリン活性比較.jpg

GI50値が小さいほど高活性


ペデリン中のメトキシ基を色々なものに変えても大して活性は変わらない(というかむしろちょっと強くなってる?)のに対し、このメトキシ基を飛ばして単なるアミドに変えてしまうと活性がガタ落ちになるということがわかりました。ほかにも13位水酸基をメチル化すると活性が大幅に上昇すること、左側のメトキシ基が無くなるとやっぱり活性が激減することもわかりました。結合モデルのでの検討の結果、この、特にアミナール水酸基による水素結合の存在が活性に重要だという考察がされています。

さて、最初の方で『ペデリンファミリー』と言いました。ファミリーというからにはペデリン以外にも似たような化合物がいるわけです。その一つがイルシニアスタチンAで、その成長阻害活性はペデリンのそれより圧倒的に強力です。

イルシニアスタチン活性.jpg


さてその構造を比較すると・・・・

ペデリンイルシニアスタチン比較.jpg


あらそっくり、赤色の部分は左側は環巻いてるかどうか位の差でほとんど同じ。にも関わらず活性の強さが全然違います。ちなみにそっくりな構造ですが、ペデリンは虫から採れているのに対しイルシニアスタチンは海綿から見つかっています。ずいぶん違うとこから見つかってますね。

さて、この構造を見ればペデリンの構造に、イルシニアスタチンの構造を移植してやるとなんか強そうなやつができそうな気がします。これを実現できるのが合成の強みでもあります。で、女神転生でいうところの悪魔合体みたいな感じでくっつけた結果、

ぺデリンキメラ.jpg


キメラ化合物Pedestatinの増殖阻害活性はイルシニアスタチンよりもさらに一桁強力なものとなりました。ちなみにこれ、くっつける方を逆にすると活性が全然でないそうです。合体失敗!

但しこれは抗がん活性のみに注目している結果であって、炎症だの水ぶくれだのの症状は考慮に入っていません。従ってアオバアリガタハネカクシの汁を塗ったくったところでがんが減るわけではなく、より悲惨なことになるだけですのでセロテープかなんかでくっつけてつまみ出しましょう(素手やティッシュでつまむと体液が染みる可能性)。

こういった天然物の活性(と思われる)部分同士をくっつけるキメラ分子、ハイブリッド分子の創成は現在色々なグループによって行われていますので、より強力なキメラがこれからも出てくると思われますし、そんな創薬化合物が後々市場に出てくるかもしれません。
ところでキメラを化学者が合成、っていうとなんか一般人からはFF7の宝条みたいなマッドサイエンティストを想像されちゃうんですかね。そうでなくても天然物教の人なんかは色々言って来そうな気が(自然の摂理ガー、神の領域ガーとか)。
by カエレバ

一撃殺虫!!ホイホイさん (Dengeki comics EX)

田中 久仁彦 メディアワークス 2004-10-09
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posted by 樹 at 09:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 生き物の化学物質 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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