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2013年05月31日

タコが光ってもいいじゃなイカ!-青い毒タコ・ヒョウモンダコ科の秘密-

イカ・タコと言えば軟体動物の代表格二大巨頭としてお馴染みです。どちらもスミを吐き、体の色を変えることができ、触手を持っているという共通点があります。とはいうものの、知能的にはタコは圧倒的に優秀で、ビンの蓋をひねってあけることができるなど、極めて発達した知能を持っている生き物です。

ところが最近ときたらやけにイカの勢いが止まりません。タコの値段高騰でタコ焼きがどんどん庶民の食べ物でなくなっていく一方で、イカの方はイカ娘イカセンター(タコセンターはないっぽい)。更には生きた状態での撮影に成功して世界的に話題になったダイオウイカは、七月の国立科学博物館「深海」展に合わせて遂にNHKがグッズ販売に乗り出す事態。そして「男子ごはん」でも国分太一が『イカの方が、タコより(料理の)バラエティある感じしますもんね~』などとタコをdisる始末。終いには童貞イカすら(学術的に)話題になる有様。と書いてる本人も「(イカ)塩辛、干しちゃった」なるおつまみを手にいれて「酒!飲まずにいられないッ!」状態になるなど、タコが全方位でフルボッコ。

国立科学博物館「深海―挑戦の歩みと驚異の生き物たち―」(2013/7月6日~10月6日)
↑ダイオウイカストラップ付前売り券は既に完売という人気っぷり(;´Д`)
Sexできないイカの精子は特殊な進化を遂げた(アレ待チろまん)
いかの塩辛をフリーズドライにした「塩辛、干しちゃった」を食べてみました
(GIGAZINE)


そんな受難続き(?)のタコですが、ある種のタコの面白い機能が明らかになったという報告が最近あったので紹介しようと思います。


ヒョウモンダコの仲間は10cm程度と非常に小さく、ペットとしての人気も高いタコです。別に小さいだけならイイダコなど色々あるんですが、人気の最大の秘密はその模様。このヒョウモンダコの仲間は体に光沢のある青色を持っており、なかでも20cm程度にまでなる大型の種類であるオオマルモンダコ(大丸紋蛸、blue-ringed octopus)はその名の通り全身に綺麗な青色のリング(直径5mm程度)を持っています。これが非常に鮮やかなのでそのミニミニさと合わせて人気の種類です。ちなみにヒョウモンダコ(豹紋蛸)の方は英語でblue-lined octopusとなります。



かといってこの青に惹かれて
まあキレイ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
などとうっとりしてこのタコを触ろうもんなら人生終了の危機。
実はこのタコ、フグ毒としてもお馴染みテトロドトキシンを持っており、オーストラリアではこれに咬まれて死者が出ています。同じフグ毒でもこちらは咬んでくるので直に血中に回る分より性質が悪いです。

TTX.jpg


この蛍光青リングはそのための警告のための警戒色でもあり、危険が迫ると普段地味な色の体表から瞬時に鮮やかな青色のリングを出して威嚇するのです。普段からチラっと青く見えるときもありますが、警戒色を出すときはよりはっきりとした青色を見せます。ちなみにヒョウモンダコの場合はこの蛍光色に加えて食腕を
(「・ω・)「がおー
と構えて威嚇するのでかわいいです。元々南日本で見られるヒョウモンダコではありますが、年々生息域が北上し、各地で発見されるようになってきているので注意が必要です。

青酸カリの850倍?日本で発見されまくってる猛毒ヒョウモンダコ(NAVERまとめ)

さて、海の青色と言えば最初に挙げたホタルイカも食碗から蛍光青色を発することが知られています。これがホタルイカという名前の由来にもなっており、夜間の漁でのきれいな光景は名物にもなっています。
このホタルイカの蛍光青色はルシフェリンとその酸化酵素ルシフェラーゼによる化学反応によるもので、酵素反応により二酸化炭素と青色波長の光を放出します。他にもウミホタルも同じような構造のルシフェリンを持っています。ルシフェリンとは蛍光を発する物質の総称であり、蛍の蛍光物質もルシフェリンですが、構造は海のものと全く違います。名大・平田義正研でのウミホタルルシフェリンの研究に始まり、オワンクラゲの発光現象を追いかけてGFP(緑色蛍光蛋白)を発見した下村脩先生がノーベル賞を受賞されたのは有名な話ですね。

ホタルイカルシフェリン.jpg

さてこのヒョウモンダコもこのイカやクラゲと同じように化学物質による反応で光っているのでしょうか。同じ海にいる生き物だから同じような発光物質かと推測されますが、最近明らかになった発光の仕組みは・・・・・・


How does the blue-ringed octopus (Hapalochlaena lunulata、オオマルモンダコ) flash its blue rings?
Lydia M. Mäthger et al.
J. Exp. Biol. 2012, 215, 3752-3757



barbatos TOD2.jpg


なんと自力

とはいっても気合を入れると全身からオーラが出て光るわけではありません。その仕組みは至ってシンプル。青色をした色素胞をため込んだ袋状構造を体表近くに有していて、その袋の口の部分を筋肉を使って開閉させることで青色を見せたり見せなかったりしていることが分かったのです。なお、この青色を見せるときにはより色を際立たせるために、輪の周りに黒色色素を浮き上がらせてコントラストをはっきりさせるという細かい芸もしています。

タコ断面.jpg

この青色は虹色素胞(iridophore)というものに由来する色なのですが、これ自体は実は青色ではありません。これは無数の薄い薄膜が積み重なってできており、特定波長の光を反射させることによって青色を生み出している構造色というものです。タマムシやモルフォ蝶、身近なところだとCD等表面の虹色などもこれです。原理的には回折現象ですね。なので、反射する角度によって微妙に波長が変わるため点滅したり色が常に変わっているように見えるわけです。この構造色を人工的に操る研究も積極的にされており、最近でもシリカを利用した新しい構造色顔料が報告されています。

・構造色(wikipedia)
・<論文紹介> 白と黒の微粒子で多彩な色を生み出す「構造色」顔料|名大などの研究グループが開発、色素とは異なる発色原理で、色あせず環境にやさしい(ワイリー・サイエンスカフェ)

実はこの青色の虹色素胞自体は別に珍しいものではありません。Iridophore(虹色素胞, 青), Luecopore(白色素胞), Chromatophore(色素胞、黒色)と合わせ、イカやタコ、カエルなどがこれらを普通に持っています。変身する目的の色の色素胞の体表面に持って来たり、要らない色を体の内側に下げたり、また虹色素胞を変形させて回折角度を変え、光の反射波長を変えることで体表の色を変える、ということをしているのです。

変色するカエルっ!(とある獣医の豪州生活(オージーライフ))
↑わかりやすいカエルの変色の仕組みが載っています

ところがこのやり方、実は数秒~数分を要してしまい、タコの場合でも2秒程度はかかるそうな。どこかに潜む目的なら別に問題はないですが、生命の危機が目前に迫っている最中でのこの時間は致命的。数秒~数分の変身の間待ってくれる空気が読める敵は特撮とアニメの世界にしかいません。そこでこのオオマルモンダコは青色色素胞を一つの袋に集めて、その口を自力で開け閉めするというシンプルな仕組みにすることで1秒とかからずに鮮やかな青色の警戒色を出す技を体得したのです。なおこの操作には化学物質との反応を介在するものもありますが、検討の結果、このタコの場合は関係がないことがわかり、やっぱり自力で開け閉めしているようです。本当に「アイテム(化学物質)なぞ使ってんじゃねえ!」なわけです、漢ですねえ(そう?

と、こんな感じでタコだってすごいんですよ!まだまだ分かんないことだらけなんですよ、イカだけじゃないのです!今年の夏の科博や7月のダイオウイカ特番もいいですが、たまにはタコのことも思い出してあげてください(´;ω;`)
ちなみに前々から気になってた現象だったんだけどやっと論文発見した!と思ったら色素化合物関係なくてクソッ、って思ったのは内緒。おかげで全く門外漢な分野のネタになってるので間違いがありましたらご指摘いただけるとありがたいです。

おまけ
↓だいぶ前に書いたヒョウモンダコの出てくる突っ込みどころだらけの漫画の話はこちら
・とある漫画とフグ毒とタコの話

(All links accessed 2013/5/28)
posted by 樹 at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 生き物の化学物質 | 更新情報をチェックする
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