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2012年12月20日

Sterically-hindered

有機合成は立体障害の化学と言ってもいいくらい、立体障害は様々な場面で考える必要が出てきます。たとえばSN2反応において、4置換炭素上で進行しないのは、三つの置換基による反応点の遮蔽ですし、それはネオペンチル位(4置換炭素の隣の炭素)になっても強く現れ、反応性を著しく落とします。
※但し、ごく一部の例では4置換炭素でもSN2が進行
(教科書を変える(かもしれない)SN2反応の話)


neopentyl.jpg



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また面の混み具合の違いから反応に選択性が出る場合もあり、ノルボルネン中のオレフィンの面ごとの反応性の違いがよく例に挙げられます。上の面は凸面になっているため空いている(convex面)一方で、凹面に相当する下側(concave面)は侵入がしにくくなっており、結果convex面での反応が進行するようになります。ちなみにconvex, concaveという単語は別に化学用語でもなんでもなくTOEICでもふつうに出てくるので覚えておきましょう。

convex concave.jpg

試薬にしてもこの立体障害は試薬の安定性などをコントロールする上で非常に重要です。たとえばTEMPOなんかも両脇の嵩高い官能基のおかげで異性化、2量化、ラジカルの消失が妨げられており、安定に取り扱うことができます。2,6-tert-butylpyridineなどはその両サイドのt-Bu基の巨大さゆえ、プロトンH+を捕まえることができるものの、BF3などのある程度大きさを持ったルイス酸類と反応することができません。もっと単純なものの話だと、MOM化の際にi-Pr2NEtが用いられるのは、Et3NだとこれがMOMClに刺さってしまうのに対しi-Pr2NEtだと嵩高いのでMOMClと反応せず普通に塩基として利用できる、と言ったこともあります。

hindered reagents.jpg

反応性を制御するだけでなく、生成物を安定化するのにもつかわれます。butylhydroxytoluene(BHT)はよくラジカル捕捉剤として使われていますが、これは系内で発生したラジカル種をトラップして生じたオキシラジカルが、両脇のt-Bu基によって守られる形になり長寿命化する、すなわちラジカル連鎖反応を止めることがその理由です。

BHT mechanism.jpg

これら立体障害は分子の合成に際し、反応を制御するための要素でもあり、また反応を阻害するものでもあります。最近の全合成例ですが、Liuらはエノンの塩基性条件下でのエポキシ化を行おうとしたものの、強烈な立体障害具合で断念しています。Liuらはこれを基質中の水酸基をアンカーに利用したエポキシ化へと変更することで見事に攻略し、Leucosceptoid Bの全合成を達成しています(clickで拡大)。鉄壁の守りを崩すには内通者が重要ということですね(何の話だ

Liu total synthesis.jpg

Asymmetric Total Synthesis of Leucosceptroid B
Liu, B. et al. ACIE Early View
DOI: 10.1002/anie.201208687


と、このように嵩高い置換基や官能基を避けるようにして反応が進行する、というのが有機合成を考えるうえで基本的な考え方であり、全合成の反応メカニズムや選択性も大体これでやっつけられます(暴論

しかし、本当にすべての反応が『嵩高いものに囲まれていないものが優先して進行する』ものでしょうか。

たとえばEvansらによって精力的に研究されたC2対称性を持ったオキサゾール不斉補助基を用いたヘテロDiels-Alder反応。この反応、実はリガンドの置換基をt-BuにしたものとPhにしたものとでは生成物の絶対立体化学が逆になります。t-Buの場合には「嵩高い置換基を避けるように」で説明出来ますが、Phではなぜか逆。これは今まで見てきた『混んでいない方から反応する』というのでは説明できません、だって置換基が出ている向きは両方とも同じですし。

Evans hetero DA.jpg

実はこのリガンド、t-Bu基の場合にはその嵩高さ故に基質とリガンドとの2面角がかなり大きくなり、反応点となるカルボニル基の片面が完全にt-Buによりふさがれてしまうために逆面からの反応が起こります。これはまあ見たままですよね。一方でPhの場合、実はこのPh基はお互い向き合った形に立っており、基質とリガンドとの2面角はさほどきつくありません。そしてPh基が近くにある、立体的には込み入っているはずの面では、Diels-Alder反応の遷移状態がPhのπ電子による安定化を受けるために反応がしやすくなると説明されています。なおこの傾向はcarbonyl-ene反応でも同じです。

Evans DA mechanism.jpg

Enantioselective Synthesis of Dihydropyrans. Catalysis of Hetero Diels-Alder Reactions by Bis(oxazoline) Copper(II) Complexes
Evans, D. A. et al.
J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 1635


最近ではこんな報告もありました。

sterically hindered azide.jpg

Enhanced clickability of doubly sterically-hindered aryl azides
Yoshida, S., Hosoya, T. et al.
Sci. Rep. 2012, 1, 82; DOI:10.1038/srep00082

※ちなみにScientific ReportsはNature Publishingより2011年に創刊されたオープンアクセスジャーナル。従ってこの論文は誰でも読むことが出来ます。

図のようなジアジド化合物、片方は普通のフェニルアジドですが、もう片方は両脇をi-Pr基で固められて非常に込み入ったアジドになっています。これをつかってアルキンとの[3+2]をやればその立体障害の程度差で、選択的に片側だけが進行するclick chemistryができるというのは想像に難くありません。

が、



sterically hindered azide reaction.jpg

なぜか混み入った方が高選択的に反応。

UV測定とDFT計算の結果、フェニルアジド基は芳香環と共鳴しているため、ベンゼン環との角度が0°。その一方で大混雑している方のアジドは両脇のデカイやつのせいで芳香環と同一平面にいられない=共役ができなくなっており、ベンゼン環に対して角度が付いていることが分かりました。従って求核性はアジドベンゼンよりも高くなっています。またHoukらのdistortion/interaction model(JACS 2009 131 8121-8133)によれば1,3-双極子と親双極子の環化時遷移状態の歪みと相互作用エネルギーの和が[3+2]環化の遷移状態エネルギーになるとのことで、この計算法を上記の分子を当てはめたところ、無置換フェニルアジド部位よりも最初からずれてる混んだアジドの方が歪みエネルギーが低く有利であるという結果が示されました。

distortion-interaction azide.jpg

というわけで立体障害でまとめてみましたが、ひとえに立体障害と言っても色々な使い方ができるもんだなあと思った次第です。

さて2012年ももうおしまいですが、年末年始でbulkyに成長してしまえばいいじゃないしまわないようお気を付け下さい。
by カエレバ

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posted by 樹 at 10:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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