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2012年11月22日

モレキュラーシーブスは脱水剤か貯水剤か

また何をわけわからんことを、なタイトルですがそんな話。まあ脱水剤も貯水剤も見方が変わってるだけで結局同じこと言ってるんですけどw
だいぶ前にモレキュラーシーブス(モレシ)の話を載せました。通常脱水剤として多用されているモレシも実は酸や塩基として働くなど色々悪さ(?)をするという話です。

モレキュラーシーブスは塩基か酸性か

またモレシを添加することによる、脱水+αを利用した新たな反応の開発も行われています。

MS4A存在下でのDMSOの特性に着目した無触媒反応の開発
歩仁内広平、折山剛 有合化 2012, 1041-1053


上に載せたような副次的な作用はあるものの、やはりモレシは強力な脱水剤としての利用が圧倒的で、特に反応系内で逐次発生する水や各種有機溶媒の除去に利用されています。ヘタに蒸留するよりも活性化モレシを放り込んだ方が水分が少ないという結果もあります。

Drying of Organic Solvents: Quantitative Evaluation of the Efficiency of Several Desiccants
D. Bradley G. Williams and Michelle Lawton
JOC 2010, 75, 8351–8354


しかしモレシがトラップした水等はゼオライト空孔内に閉じ込められただけなので分解されているわけではありません。ということは捕まえた分子がチョイと顔をのぞかせて逆反応を起こしてもよさそうなもんです。そんなことあっては困りますが、なぜかモレシを入れたことで無水中なのに基質が加水分解した例がありました。

Direct Amidation of Carboxylic Acids Catalyzed by ortho-Iodo Arylboronic Acids: Catalyst Optimization, Scope, and Preliminary Mechanistic Study Supporting a Peculiar Halogen Acceleration Effect
Hall, D. G. et al. JOC 2012, 77, 8386-8400.


最近Hallらはオルトヨードフェニルボロン酸類を触媒とした温和なアミド化反応を報告しました。縮合反応は両論量の縮合剤(HOAT, HATU, 酸無水物類)を使用するものが一般的ですが、試薬を大量に使う、残渣の処理に困る、高い、など問題点も多くあります。この手法では以下のボロン酸を触媒量用いるだけで室温下、最大でも2日程度でカルボン酸とアミンからのアミド合成を達成しています。

1 amidation reaction Hall.jpg

勿論本文中には触媒であるボロン酸の最適化をたくさん行っているのですがそれは割愛。反応条件を見ると活性化したモレシMS4Aが入っています。縮合が起これば水分子が一つ抜けますからこれを取り除くためだなということが想像出来ます。

しかし、ボロン酸は通常オリゴマーとの平衡混合物として存在しており、脱水が起これば三量体のボロキシン等になってしまいます。もし多量化した際に出てきた水がモレシに食われるのであればこのオリゴマーとして系内では存在してるはずです。とすると活性本体はボロン酸でなくボロキシンか、という話になってきます。実際に筆者らもそう想定していました

boroxine equibrium.jpg

そこで触媒であるボロン酸の形状別に反応を試したところ、モレシを加えない条件でボロキシンを用いた場合では全く反応が進行しないにもかかわらず、より脱水条件が強いはずのモレシありボロキシンだと良好に反応が進行するという予想外の結果が得られました。

boronic acid or boroxine.jpg

脱水剤の検討を行ってみると、3A, 4A, 5Aのモレシはどれを用いても進行(MS4Aが最適)する一報で、その他CaCl2や芒硝、MgSO4等と言った無機塩脱水剤やシリカではほぼ反応せず、という結果が得られており、モレシの役割は単なる脱水だけではなさそうです。なおモレシ無しでは全く反応が行きません(反応中間体であるるカルボン酸とボロン酸の縮合体アシルボロン酸が水で分解されるため)。

そこでボロン酸やボロキシンに対してモレシを添加した場合にボロン酸の割合がどうなるのかを観測した結果、なんとモレシ存在下、ボロキシンが全てボロン酸に変わってしまったとのこと。水どっからきたん?

MS4A boroxine experiment.jpg

この予想だにしなかった結果に対して著者らは
・モレシは過剰量用いた時には例え活性化してもボロン酸へ加水分解出来る程度に十分な水を含んでいる
・モレシは可逆的な脱水剤であり、①縮合により生じた水の除去(脱水剤) ②ボロン酸無水物の分解のための水分子の供与(貯水庫として水を供給する役割)を両方こなしている。
・無機塩類は水分子を離しにくいので不適。
・CaH2などの塩基性脱水剤はカルボン酸と反応するので不適

という説明をしています。んーなんだかわかったようなそうでないような。塩基性うんぬんいうならモレシも一応塩基性ということになってるし、過剰に入れたら水がやっぱりいる、というのなら脱水条件じゃないし、うーん。モレシ自体は無機酸化物で出来ているので(MS4Aは 1 Na2O: 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2 : x H2O)酸素原子はたんまりあるし、モレシ表面でのルイス酸的な活性化も考えられるので、ボロン酸への分解に使われる「水(酸素原子)」はモレシそのものから来てるんじゃないのかなあという気もします。多分著者も確証がないのでこういう書き方をしているのではと思います。思った以上にモレシは奥深い反応剤のようですね。

posted by 樹 at 10:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 有機化学 | 更新情報をチェックする
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モレシ最強伝説
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