こんなのってないよ!
そんなことはさておき、一球入魂ならぬ一報入魂で投稿した論文が採択されるかどうか、その審査結果通知は非常に待ち遠しいものがあります。が、よく審査結果がなしのつぶてでまるで返ってこないとかそういった話も聞きますし、余りに長いと放置されてるんじゃないのかと思ったり。個別の話はボス等から聞こえては来ても全体の傾向等はなかなか見えてこないものです。その論文査読に関して面白い論文があったので紹介しようとおもいます。
How Long is the Peer Review Process for Journal Manuscripts?
A Case Study on Angewandte Chemie International Edition
CHIMIA International Journal for Chemistry, Volume 64, Number 1, February 2010 , pp. 72-77(6)
この論文は速報誌であるAngewandte Chemie International Edition (ACIE)にsubmitされた2000年の論文1899報を調査対象とし、ACIE事務所がreceiveしてから投稿可否のEditorial decisionを下すまでの期間とその割合、reviewerごとの査読期間や地域ごとでの違いなどの統計を取り、まとめた論文です。2010年の論文の割に2000年のデータとはずいぶん昔のデータを使っているような気もしますが、近すぎると今の査読に影響が出かねないためとも考えられるので「ちょっと前はこんなんでしたよー」的に見ておくのがよろしいかと思います。
その調査の結果、receiveからdecisionまでに掛かる期間で一番多いのが4週間(19%)、次いで3週間(17%)、5週間(15%)となっており、一般に約3週間と言われている期間よりちょっと長いかなくらいで収まっています。
これをaccept/reject別にみるとacceptされた論文の平均期間が7.51週、中央値でも5週間と、先に挙げた全体での分布よりも長期間かかっています。Rejectの場合、その平均は6.18週、中央値で5週間と一週ほどAcceptより平均で短くなっています。標準偏差もrejectされたものの方が小さい結果となっています。Acceptされそうな論文ほど査読期間にかなり時間をかけたりしている結果でしょうか(これは最終的なdecisionまでの期間なので、revisionのsubmitの査読期間も含んでいる)。
ちなみにこの年、acceptされた論文の中での最長審査期間は41週間!一年近いんすけど・・・。速報誌とはなんだったのかというレベル。まあ最終的に載っているからまだ救われていますが、同じ年にはなんと62週(一年以上!)もかけてrejectされたという、もはやいやがらせとしか思えないものも。下手したらこの間に誰かに類似論文出されて再投稿すらできなくなくなってるかもしらんのに・・・。
ちなみにaccept、rejectとも最短は0週です。0週でacceptってなんやねん、ホントにみてんのかい。BaranのPalau’amine全合成論文もそんな感じの超速度だったような気がしますが。
またReviewerごとの査読期間を調査したという面白い統計もあり、結果として人にはよるものの、査読が早い人は大体全体として査読が早い一方、長期間査読にかけているreviewerでも全体として遅筆というわけではない感じになっています。もっともreviewerを指定できない以上審査される側としてはどうしようもないのですけど。
Initial reviewまでの期間では一発accept, minor revision, major revision, 一発rejectそれぞれ2週間前後が平均になっているので査読のばらつきは論文修正やその後の査読期間の影響で大きく変わっていることが見て取れます(Reviewerの査読が終わるまで、なのでたぶん本部でのreceiveとdecisionの期間は含んでいないと思われる)。またrefereeを地域別に分類したところ、大半のrefereeは西ヨーロッパですが、欧州全体として平均2週でinitial reviewを終えております。日本人の査読もこれとほぼ同じです(ドヤッ。ちなみにアメリカと東アジア(日本以外)は1週遅れの平均3週間(;´Д`)。
で、気になるのがこれらrefereeがどれだけ締め切りを守ってるかということ。当然editorも無期限に査読していいよなんてことは言わないわけで、査読結果が早く帰ってくるかどうかに一番関わってくることでもあります。地域別にみると我が国日本が一番締め切りを守ってreviewを提出しているようです(`・ω・´) シャキーン
とは言っても守ってるのは59%で、北米、東西ヨーロッパrefereeもそれぞれ48%, 55%, 50%が締切守ってることを考えるとさして地域差はないようです。逆に言えば4~5割も締切守ってないのか・・・。
中国などの論文が当時と比較して圧倒的に増えていること、論文提出が完全にネット上でできるようになった (=ダメ元で気軽に投稿できるようになった)こと、それに伴う論文審査の迅速化、ACIEのimpact factorの上昇による採択率の低下から、現在は本論文とはだいぶ異なる(特に査読期間は短くなっているはず)と思われますが、普段は個人的なレベルでしか見えてこなかった査読の統計的全体像が出ていて面白かったので今回紹介しました。
なお統計なので、よく噂話であるようなreviewerやその他見えざる手による圧力や恣意的な遅延のような話は一切考慮に入っていません、たとえばあの論文みたいな話とうわなにをするやめ(ry
(ちなみにrejectionに対するclaimというかappealを行ったのは32/1673報。今はもっと増えてるんだろうなあ)