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2012年09月19日

天然にない官能基の話

天然には無数の有機化合物があり、様々な官能基を持っています。
一方で化学の進歩により人工的に作り出された官能基もあります。
有機化学の基本の授業では色々な官能基を習うわけですが、天然物にある官能基はいくらでも人工化合物には組み込める一方、工業的な化学製品、医薬品でよく見かける官能基なのに天然物ではそんなに見た覚えのない官能基も中にはあります。

今回は窒素官能基でそれを見ていくことにします。
窒素官能基と言えば一番の基本はアミノ基-NH2。ですがこんなものは天然にごまんと存在します。大体アミノ酸って言うくらいだし。

ではそれの酸化された版、ニトロ基-NO2はどうでしょう。ニトログリセリンやニトロベンゼンなど工業的な化合物ではよく目にする官能基ではありますが、ふと考えてみるとアミノ基を持ったものは大量にあってもニトロ基を持った天然物と言われると「?」となります。

ですがニトロ基も結局アミノ基が酸化された化合物、複数の化合物が知られています。ニトロベンゼン系だけでなくアミノシュガーならぬニトロシュガーを有する天然物もあります。中にはアゾベンゼン化合物も。

nitro天然物.jpg

ではその酸化段階を一つ落としたニトロソ基-NOはどうでしょう。ニトロソ基は極めて不安定、高活性な官能基で、速やかに2量化を起こしたり異性化してしまうなどしてN=Oという形ではなかなか存在できません。合成反応としてはその反応性を利用して、ヘテロDiels-Alder反応のジエノフィル、アルデヒドの不斉アミノ化、ヒドロキシ化に用いられています(主にニトロソベンゼン)。

とそんな不安定化学種にも関わらず、ニトロソ基を持った天然物は少数ながら存在します。生体内でもこれらは一酸化窒素NOを放出するキャリアーとして使われているようです。

nitroso天然物.jpg

では窒素Nをもう一つ増やしたジアゾ基-N2はどうでしょう。ジアゾメタンに代表されるように非常に良い脱離基となるN2はやはり不安定な官能基の一種。ラジカル的にも切断されてどっかに行ってしまいます。
ですが、既にニトロ基のところで挙げたようにN=Nをもった天然物は複数知られています。特にlomaiviticinのようなkinamycin系ジアゾフルオレン化合物はその生理活性発現の機構も含めて比較的ホットなターゲットとして研究がすすめられてきました。中には酸化されたもの(ニトロソが異性化したともいうけど)もありますが、そんな化合物でも全合成は報告されています(Jietacin A)。

diazo天然物.jpg

内部ならいざ知らず、末端のジアゾ基ともなると大分反応性が高くなり、生合成の過程でもA80915→azameronのような変な骨格変換反応を起こす場合もあります。いずれにしてもジアゾ官能基を持ったものはその還元体を含めると意外にかなりの数が知られています。

diazo azamerone.jpg

では窒素三つがつながった場合はどうでしょう。窒素三つと言えばアジド基-N3が思い浮かびます。昔から爆薬やアミノ基の導入に用いられてきましたが、21世紀に入ってからはchemical biologyにおけるclick chemistryの代表として非常に利用が増加しています。


が、このアジド基-N3を持った天然物、実は存在しません。稀有なのではなくゼロ。未だ発見されていない、と言った方が正確ですがとにかくこのアジド基はこんなに単純なのに完全人工官能基として未だに君臨(?)しているのです。

窒素が三つつながったと言うだけなら、これも非常にレアな物ですが、Triactin類が知られています(文献によってニトロソで書いていたりオキシムで書いていたりまちまち)。こんな物でも買えちゃうからすごい。

triazo天然物.jpg

というわけで、是非未だ報告のないアジド基を持った
天然物の報告をお待ちしております(・∀・)ノシ

posted by 樹 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 化合物・反応お名前 | 更新情報をチェックする
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