2012年08月01日

2量体天然物の話

複雑な構造を有していることの多い天然有機化合物ですが、繰り返し構造のないものばかりではありません。同じ基本骨格が2つ3つと繰り返しで出来ているものも多く知られています。一か所でつながったものから、大環状ラクトンを形成する形で2量化しているもの、2量化した後に片側だけ骨格変換して非対称化したものなど色々あります。あの有名なモルヒネにも2量化したbismorphineというものが知られていたりするのです。
また、ニガヨモギに含まれ、アブサンパスティスと言った香草系リキュールの苦味成分でもあるabsinthinという巨大なテルペンも[4+2]のDiels-Alder反応によって2量化して出来ています。
わぁい濃いお酒、管理人濃いお酒大好き(酒の話はもういい

というわけで今回は2量化した天然物について。
bismorphine A.jpg
absinthin.jpg

2量体天然物はそもそも同じユニット同士が合体して出来ている(と思われる)天然物群ですから、合成化学的にはそのモノマー部分を合成すれば生合成に乗ってなんか勝手に合体して全合成出来ちゃいそうな予感がぷんぷんします。

実際モノマー部分を合成し、それを2量化させることで全合成する手法が大半であり、epoxyquinol類はモノマー部分が出来た段階で2量化が進行し、全合成が達成されています。

epoxyquinol.jpg

インドールアルカロイドであるavrainvillamideも塩基存在下や、DMSOに溶かすだけ(!)で2量化し、Stephacidin Bへと変換されます。

stephacidin B.jpg


ってことはこの手の2量化化合物は半分のユニット作ったらもう出来たも同然じゃねwwwうはwww手間半分やんwww

とうまいことばかり行かないのが世の常。どう考えてもそういう風に出来てるとしか思えないのになぜか2量化しない場合もかなりあります。

例えばこのidesolideという化合物。アセタール化で2量化している天然物で、モノマー作って酸でアセタール化、もしくはneatでほっときゃ出来そうな化合物にも見えます。

idesolide.jpg

ところがどっこい、Sniderらは早い段階からこのモノマー部分(これも天然物)を合成していたにも関わらず、どんなことをしても2量化が起こすことができず、結局idesolideの合成を達成することができませんでした。というのもこのモノマーユニットが芳香族化を起こすなど意外に不安定であったことも一因にあります。

その後、岩渕らも同様にモノマーを合成、2量化の検討を行ったものの、やはりまるで上手くいきません。ところが、前の工程で使っていたニトロキシルラジカル酸化剤であるAZADOが不純物として微量混ざっていたモノマーのストックの中にidesolideがいることを発見!なんとAZADOを始めとしたアルキルアミン類がこの2量化を促進させることが明らかとなったのです(AZADOに関してはラジカルではなく塩基性が丁度いい、という解釈)。塩基でアセタール化とは。それにしても何と言う偶然。

idesolide synthesis.jpg

さらに、その後桑原ら、Hudlickyらによって無機塩の重曹という実に一般的な塩基でも2量化が進行することが分かりました。Snider涙目状態ですが、分かってしまったから楽に見えるだけで、こんな見た目簡単な反応にも特異な条件というのが必要になってくるというのがよくわかります。天然はよくこんなもん作ったもんだと思います。

他にもジアゾフルオレン骨格を持ったキナマイシン型2量体のlomaiviticin。ヘミアセタール化して閉環してはいますが、単純に考えればキナマイシン様ユニットを合成し、酸化的2量化でぽいっと、できそうなもんです。

lomaiviticin.jpg

が、そんなうまいこと行くわけがありません。そもそもこのモノマーユニットの合成からして問題なのですが、この全合成を初めて達成したのが若手のSeth Herzon。キナマイシン全合成から始まるモノマーユニットの超効率的短工程合成法を確立し、酸化的2量化の検討への弾を十二分に蓄えた上で挑むことなんと1500反応以上!2量化より早く進行する水酸基のβ脱離-芳香族化との戦いだったわけですが、よくめげなかったもんですいやほんと。

lomaiviticin synthesis.jpg

ということもあって、巨大2量体天然物の場合、収率よく2量化出来る段階で早いとこくっつけておいて、あとは両サイドを均等に伸ばしていく、という戦略もよく取られます。

さて、他にも無数に2量体天然物は存在しますが、最近ではKingianinという天然物が発見されています。Kingianin AはX線結晶構造解析により構造が分かっており、他にも異性体や環化位置違い、側鎖長さ、アミドでなくカルボン酸になっているものなど多数報告されています。

kingianin A.jpg

で、その構造ですが、どう考えてもビシクロオクタジエンのモノマーユニットとの[4+2]Diels-Alder反応でダイマー化しているとしか思えません。ちなみにモノマーユニットはendiandric acid同様に鎖状テトラエン前駆体からの8π-6πの連続電子環状反応で出来ることが容易に想像がつきます。

と、ほぼ合成の答えが出ているような構造にもかかわらず2011年のChem Commun、そしてこの間の某学会での別のグループのポスターでもありましたが、モノマーユニットの合成は想定通りの電子環状反応で合成出来るにも関わらず、現在のところ、似ても焼いても放置プレイでもマイクロウェーブでも何をしても2量化合体していただけないご様子、それどころかモノマーユニットの逆電子環状反応が進む始末。今のところ全合成の報告もありません。
Idesolideのようにコロンブスの卵的な魔法の条件が存在するのか、そもそもビシクロオクタジエンからの[4+2]というルートが生合成的に間違っているのか・・・。自然界は一体どうやってこれを達成しているんだろう、と合成経路が簡単に想像出来てしまう分、一層強く思ってしまいます。興味があれば合成にチャレンジしてみては?

・2量体天然物の総説
Naturally Occurring Dimers from Chemical Perspective
Biao, Y. et al. Chem. Biodivers. 2010, 7, 2660-2691

・Aug.7. 2012:absinthinの話を追記
・2013.1.26追記
ParkerらによってKingianin Aの全合成が報告されました。単量体からの二量化ではうまくいかなかったのですが、2分子をつないだ上でラジカルカチオン型のDiels-Alder反応に付すことで2量化を実現し、全合成を達成しています(clickで拡大)。
Total Synthesis of Kingianin A
Hee Nam Lim and Kathlyn A. Parker
Org. Lett., 2013, 15 (2), pp 398–401


dimeric compounds 4 Parker's synthesis.jpg
by カエレバ

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posted by 樹 at 18:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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