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2012年05月25日

光延反応の話

光延(みつのぶ)反応はアルコールに対し、アゾジカルボキシレートとホスフィン、そこに主としてカルボン酸を作用させてエステル化させる反応で、2級アルコールの場合には立体反転を伴うことから、要らない立体化学で得られたアルコールを反転させる(光延反応後に加水分解)為の手法としてよく用いられています。余談ですが管理人はこれを最初「こうえん反応」とか読んだり、総説の著者名の"Oyo Mitsunobu"をみて「光延オヨ」さんだと思ったりと色々失礼なことを個人的にしてましたすいません。正解は青山学院大学の光延旺洋(おうよう)教授(故人)です。

光延基本.jpg
反応機構は、まずホスフィンがアゾジカルボン酸エステルにマイケル付加、生じたアニオンがカルボン酸のプロトンを引っこ抜く一方、活性化されたホスフィンが水酸基からの攻撃を受けることで水酸基が活性化されたアルコキシホスホニウムイオン種となり、これがカルボン酸などの求核剤からのSN2反応を受けることにより、立体化学が反転した求核置換反応が起こる、という仕組みです。求核種にカルボン酸を用いれば水酸基の立体反転に、その他の求核剤を用いた場合でも水酸基からの直接的置換反応として広く利用されています。

光延反応機構.jpg

用いられるアゾジカルボン酸類は一般にジエチルエステルであるDEAD、ジイソプロピルエステルのDIADの2つですが、爆発性が報告されていることから安全のためにDIADが使われることが多いです。爆発を体験したことはないですが、しばらく使ってないDEADのビンの蓋をあけると炭酸飲料並みにプシューって音を立てることもあるのでやっぱし潜在的な危険を孕んだ試薬なんだなと思っています。なお、光延反応の求核種のpKaによってはこれらでは進行しない(or余計な反応が進む)ので、その場合には伊藤-角田改良光延試薬(ADDPなど)を用いる必要があります。
(また余談ですが"DEAD"を「デッド」っていうと光延先生が怒る、って話を聞いたことあるんですが、本当でしょうか。みんなデッドデッド言ってるけど)

光延試薬.jpg

欠点としては途中で反応が進まなくなったりしたとしても、適当に足りない試薬を足したところで反応が進まないことが多いこと。この反応は試薬を入れる順序と滴下速度がかなり重要なので、もし途中で止まった場合にはホスフィンとジアゾ試薬をセットで追加していかないと上手くいきません(※個人の感想です。まあ後から追加してもダメなこと多いんだけど)。

それ以上に、最大の欠点は「処理がめんどくさい」こと。反応機構を見ても分かるようにホスフィン(普通はtriphenylphosphine)は中途半端な極性・無駄に良い結晶性で悪名高いホスフィンオキシドとなって出てきます。これだけでもうっとおしいのにジアゾ試薬の還元体であるヒドラジンもまたさらに中途半端な極性を持っているのでダブルで邪魔しにかかってきます。しかも光延反応は割と試薬を過剰に使うことが多いのでこれらが大量に生じることになります。ホスフィンオキシドはポリマー担持させたりといった改良法はありますがまあ基本は気合いで(ぉ。もうひとつのヒドラジンエステルの方の改良法としてはDMEADが知られています。この試薬は光延反応後の還元体が水溶性であるため分液処理で除けるというメリットがあります。また、一般の基質にどこまで使えるのかは分かりませんが、超原子価ヨウ素を再酸化剤として用いることでジアゾ試薬を触媒量に減らした手法も報告されています。

水溶性試薬.jpg
触媒光延.jpg

カルボン酸以外の例としては、分子内であればアルコールでもイケる場合があります(アリル位とか)。他では光延アジド化が有名どころでしょう。その際のアジドソースにはDPPAが用いられます。さらに電子密度を低下させることで強塩基だけで水酸基のアジド化を進行させる試薬もあります。もっともこれは光延反応とは言いませんが。

光延アジド化.jpg

光延反応を用いてヒドロキサム酸を導入し、オキシムに換える方法も報告されています。

fukuyama oxime.jpg

また、特定の基質で見ることが多いですが、光延反応によるハロゲン化も知られており、ヨウ素化の場合にはヨウ素そのものではなくMeIが求核剤として添加されています。

光延ヨウ素化.jpg

他にも、アリルアルコールに対して光延反応を用いてヒドラゾンを導入し、還元的なオレフィンの転位を起こすMyers-Movassaghiの手法も、便利な還元法として知られています。

光延Myers還元.jpg

この様に立体反転を伴っていろんな官能基を導入できる光延反応ですが、分子内反応にも用いられており、特に大環状マクロラクトン化の際にも効果を発揮します。山口法、椎名法、Keck法などがメジャーどころですが、カルボン酸側を活性化させるこれらとは異なり、水酸基を活性化させるのでマクロラクトン化した際の水酸基の立体化学は逆転するため、基質合成の段階で逆立体を合成しておく必要があります。この手法も色々な天然物の全合成に用いられています。

光延ラクトンMaier.jpg

とまあ、色々紹介していったらそれだけでえらい長くなったので、次回に続きます。↓
光延"反転"の話

光延反応の総説とか
Mitsunobu and Related Reactions: Advances and Applications (Review)
Swamy, K. C. K, et al. Chem Rev. 2009, 109, 2551-2651.


②ジフェニルリン酸アジド(DPPA)-この35 年
塩入孝之 TCIメール 2007,134
(PDF注意)


③新光延試薬
角田鉄人, 加来裕人, 伊東しょう TCIメール 2004, 121
(PDF注意)

posted by 樹 at 11:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 基礎有機化学 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
平素よりお世話になっております。
東京化成工業の田中と申します。

以前より貴サイトにおきまして弊社サイトの記事を掲載いただき、
誠にありがとうございます。
この度弊社TCIメールのURLが変更になりました関係で貴サイトで掲載いただいております弊社リンク先がエラーとなっております。

ぜひとも新しいURLなどをご案内させていただきたいので、誠にお手数ですが上記メールアドレスまでご連絡いただけますと幸いです。

突然のご連絡で大変失礼致しました。
何かご不明な点などございましたらいつでもご連絡ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
Posted by 田中章子 at 2013年06月21日 15:59
東京化成工業 田中様

わざわざご連絡いただきまして恐縮です。
また本サイトをご愛顧いただきありがとうございます。

TCIメールへのリンク先ですが先日変更し、現在はアクセスできるようになっております。

メールアドレスの記載がございませんでしたのでこちらで修正をさせていただきましたが、ホームページに連絡用メールアドレスを記載しておりますので(hotmailですが・・・)、もし他に何かございましたらそちらまでご連絡いただければ幸いです。
Posted by 管理人 at 2013年06月23日 14:23
いつも貴サイトにはお世話になっております。こちらのページも何度か読ませていただいてきました。
その上で、今さらながら、冒頭の「ヒドラゾン」→「アゾジカルボン酸(ジ)エステル」ではないでしょうか。
Posted by Azurblau at 2018年02月21日 21:40
Azurblauさん

あ、ほんとだ。ありがとうございます。修正しました。
なんで今まで気づかなかったんだろ。
Posted by かんりにん at 2018年02月21日 22:06
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