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2011年12月19日

酸性雨検出傘の話

最近はめっきり聞かなくなりましたが、酸性雨と言えば公害の代表格として知られる現象でした。どれくらいからが酸性雨なのかというとpH5.6未満を酸性雨とする一応の基準があるようです。管理人はチャレンジの副読本で酸性雨の恐ろしさを刷り込まれ、「酸性雨に当たるとハゲる!!」としばらくは雨を必死で避けていた黒い過去(?)があります。お陰様で今のところは問題ありません(ぉ

そんな酸性雨ですが、過去にはなんとイギリスで1974年にpH2.4、アメリカ南カリフォルニアでは1982年にpH1.69というとんでもない強酸性雨が記録として残されているらしい(アメリカのは正確に言えば雨ではなく霧、ってもっとやばいか(;´Д`))ですが、もうそうなると公害というレベルではなく「それなんて必殺技?」レベル。
ジャンプの「封神演義」にそんなやつがいたような気がしますが(あのピアスだらけでガラの悪いアイツ)、もはやハゲるどころの話じゃなくて
(((((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブル

そんな酸性雨に関する研究からクリスマスっぽく赤色の話を一つ。


赤色色素の中にコンゴ・レッドというジアゾ色素化合物があります。この化合物、ただ赤いだけではなくpHに応じて色を変えることが知られています。pH5.2以上では名前の通り赤色ですが、pH3以下になると青色に変化するのです。

congo red2.jpg

もうお分かりかと思いますがこれを使えば酸性雨が降ってきたかどうかを視覚的に察知することが出来るというわけです。そんなコンゴ・レッドを傘に塗って『酸性雨検出傘』を作ってしまったという論文が出てきました。

CR@BaSO4: an acid rain-indicating material
Hong-Wen Gao and Xin-Hui Xu
Chem. Commun., 2011, 47, 12810-12812


Peanut Models, Stencil Cards, Acid-Indicating Umbrellas
C&EN Volume 89 Issue 47 | November 21, 2011 | p. 48


つまり、傘にコンゴレッドを塗布しておくことで普段は赤色である傘が、もし降ってきた雨が酸性であった場合には青へと変化するというわけです。まあ傘をさしてるわけだから既に雨は避けているわけですがいろんな対策はしやすくなるということですね。本当は傘の絵を描いて赤→青とか載せられればいいんですけど、絵心ないので断念。サンタさん僕に絵心を下さい。

しかしジアゾ色素であるコンゴレッドは紫外線にめっぽう弱い上、水溶性があるという特徴があるため、まともに検出装置として使うには色々難がある化合物です。そこで著者らは硫酸バリウム上にコンゴレッドを塗布することで流れでないように改良し、また傘という強い紫外線を浴びない道具に用いることで持続して使えるようにしたというわけです(論文中ではコンゴレッドと硫酸塩との構造などの分析もあり)。

その性能はというと酸性雨に当たって5分で色が変化し、当たらないところでは1時間で元の色に戻るなど再利用可能。空気中で変色することも少なく、室内に置いていれば1年弱位はもつとか。寿命がちょっとあれなので商品化に向けた今後の改良に期待と言ったところでしょうか。あとやっぱり日の当たるところに置いておくとすぐダメになるので日傘としての利用は厳禁、干す時も陰干し必須といったところが注意点。

ちなみに今回のコンゴレッドの場合では水に流れないようにと無機塩の硫酸バリウムに塗布(取りこませる)していますが、不安定な色素を無機物に取り込ませることで安定化させるということは別に今に始まった話ではありません。古くはマヤ文明のマヤブルーと呼ばれる青色もこの様な作用によって数千年の時を経ても未だに美しい色を保っていると言われています。マヤブルーの成分自体はジーンズでもおなじみのインディゴですが、数千年も野ざらしで平気なような安定な化合物ではありません。マヤ文明のものにみられるマヤブルーはこのインディゴがPalygoskiteという鉱物の中に奥深く取り込まれているために酸などの過激な条件にも経年劣化にも安定という、インディゴ単体では見られない安定性を見せているという風に言われています。なお、マヤブルー自体は未だ謎の多い色素で、どうやって作られたのかやその安定性等、現在でも研究論文が多く出されています。最近ではマヤブルーに含まれているオレンジ気味の色を持ったdehydroindigoの存在が注目を集めているようです。

indigo blue.jpg

・・・・
クリスマスにちなんで赤色の話をしたはずなのに、半分以上青い話になってるけど気にすんな!

References
1) マヤブルー:古代マヤ文明のロマンを現代に再現する
AMeeT京都から世界へ


2) マヤ顔料の神秘を解明 / accelrys(PDF注意)

3) From Maya Blue to “Maya Yellow”: A Connection between Ancient Nanostructured Materials from the Voltammetry of Microparticles
Domnech, A. et al.
ACIE 2011, 50, 5741–5744


4) Insights into the Maya Blue Technology: Greenish Pellets from the Ancient City of La Blanca
Domnech, A. et al.
ACIE ASAP DOI:10.1002/anie.201106562


5) Dehydroindigo, the Forgotten Indigo and Its Contribution to the Color of Maya Blue
Se´rgio Seixas de Melo, J. et al.
J. Phys. Chem. A 2010, 114, 1699–1708


有機化学と全く関係ない大脱線おまけ
Acid Rainと言われるとLiquid Tension ExperimentのAcid Rainを思い浮かべてしまってアレ。


posted by 樹 at 11:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 有機化学雑記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも楽しく拝読させていただいています。今回も興味深い話題ありがとうございます。ただ、congo redの構造式にジアゾ部分が抜けているように思われますので、ご確認ください。

あと、「たゆたえども沈まず」さんのRSSにエラーが生じておられます。そのため、ChemPortにも表示されない状態になっております。RSSやChemPortで購読されている読者も多数おられるかと思いますので、ご対応いただけると幸いです。
Posted by 気ままに有機化学 at 2011年12月19日 23:05
>気ままに有機化学様

なんとコメントをいただけるとは。
ご指摘ありがとうございます。
Congo Redに関しては公開直後に気付いたのですが、出先で修正するのが遅れております。申し訳ありませんがもう数時間お待ちください。

RSSに関してはこの手のモノにとんと疎いもので何とか頑張ってやってみます。
今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by かんりにん at 2011年12月19日 23:45
自分は Google リーダーで問題なくRSS受信できてますよ
Posted by at 2011年12月20日 02:14
私もgoogleリーダーで普通にみられてたので変になってるのに気付かなかったです。
一応RSSのエラーはで無くなったので大丈夫だと思います。Chemportにまだ出てこないので直ってるかどうか不安ですが・・・。
Posted by かんりにん at 2011年12月20日 02:50
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