シグマトロピー転位で水酸基やアミンを導入する: たゆたえども沈まず-有機化学あれこれ-
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2011年12月08日

シグマトロピー転位で水酸基やアミンを導入する

光学活性分子の合成において立体選択的な官能基導入は極めて重要な意味を持ちます。数々の立体選択的合成法がこれまでに開発されていますが、中でもシグマトロピー転位はペリ環状反応による確実な不斉転写が可能とあって重宝されています。Claisen転位やCope転位、Stille-Wittig転位がよく使われていますが、なんとなくシグマトロピー転位というと炭素鎖を伸ばすのに使われている印象が強い気がします。というわけで今回はシグマトロピー転位による酸素・窒素官能基の導入例を集めてみました。


まずは酸素官能基から。あまり知られていない気がしますが、人名反応にもペリ環状反応による酸素官能基導入法があります。Mislow-Evans転位がそれで、allylsulfoxideの[2,3]転位によって酸素官能基を導入することができます。あんまり利用例もないのですが、AB Smithらの例ではかなりトリッキーな使われ方がされています。彼らはまず最初に立体化学の単一でない水酸基にPh-Sを導入、逆Mislow-Evans転位にてsulfoxideとし、塩基によるepi化にて安定な異性体のみに変換後、再度Mislow-Evans転位を行うことで、mixtureだった水酸基の立体化学を単一のものへと導き、jatrophoneの全合成に利用しています。

mislow-evans.jpg

また以前にも載せましたが、allylselenoxideの[2,3]転位による水酸基の導入も有用です。但し、selenoxideはsyn脱離を起こすため、脱離できるようなβ位syn-Hがないことが利用する際の条件になります。

前に載せた分:アリルアルコール・エノンの位置を入れ替えるには?

selenoxide synthesis.jpg
セレノキシド転位.jpg

三級アミンのN-オキシドを用いた転位による水酸基の導入法もあり、[2,3]Meisenheimer転位が知られています。[2,3]とわざわざ書いたのはラジカルホモリシス経由での[1,2]転位版もあるからです。このせいか、[2,3]Meisenheimer転位の利用例は他二つと比べてかなり少ないです。

meisenheimer rearrangement.jpg

以上三つを見て気付いた方もいるかと思いますが、上記三つは通常、syn脱離の手法として利用されている官能基群です(Cope脱離など)。これらのβ水素をなくすことによって[2,3]転位を起こし、シグマトロピー転位的に酸素官能基を導入しているというわけです。


他にはニトロ基も水酸基の導入に利用されています。Zardらはアリルニトロ基をDABCO存在下の熱的転位にてアリルアルコールを合成しています。但し、ニトロ基のα位が4級でないと2重結合が異性化して共役してしまうので使えません。

allyl nitro.jpg

Zakarianらはアリルニトロソ化合物の転位によって立体選択的な2環性α-イミノエステルへと導いています。

zakarian rearrangement.jpg

冒頭に挙げたClaisen転位はallyl vinyl etherの[3,3]転位によってγ,δ-不飽和カルボニルへと変換するものですが、逆反応を利用した酸素官能基の導入も存在します。Boeckman Jr.らは高度にひずんだ構造であるシクロブチル型のγ,δ-不飽和アルデヒドを合成することで、通常はエネルギー的に不利であるアリルビニルエーテルへと逆転位させることで8員環を合成し、laurenyneを合成しています。彼らは同様の手法をアルジミンへと適用することでretro aza-Claisen転位にて窒素官能基を導入し、8員環アミンを合成しています。

retro claisen synthesis.jpg
retro aza claisen.jpg

さて、窒素官能基の方はどうかというと、アリルイソシアネートを利用した転位による導入法があります。転位後のイソシアネートは適当な求核剤によってアミド(カーボネート)へと変換することが出来、求核種を変更することで様々な保護基を導入することが出来ます。この手法はAgerastatin Aの合成の中でも使われています。

ichikawa agelastatin.jpg

人名反応で言うと、allyl trichloroacetimidateの[3,3]転位、Overman転位が知られています。これもやっぱりAgerastatin Aの合成に利用されています。

overman agelastatin.jpg

このOverman転位に加え、先ほど紹介したMislow-Evans転位を交えて窒素、酸素官能基をシグマトロピー的に導入した例もあり、Agerastatin Aの合成に応用・・・ってアゲラスタチンオオイヨ!!

overman evans agelastatin.jpg

最近出てきた反応では、容易に調製出来るアリルヒドラジドに対し超原子価ヨウ素試薬を作用させてnitreneとし、[2,3]転位によって三級アルキルジアゼンへと導く手法が報告されています。

thomson diimide rearrangement.jpg

An Oxidative [2,3]-Sigmatropic Rearrangement of Allylic Hydrazides
Thomson, R. J. et al.
JACS 2011, 133, 14252–14255


限定条件としては転位先が全て置換された炭素でないといけない、つまり4置換のsp3炭素になるような基質でないといけない点です。普通は4置換炭素を作る方が難しいので奇異な限定条件に見えますが、そうしないと、転位によって生じたジアゼンがtautomerizationを起こしてしまうためです。収率よくhydrazoneになるんであればそれはそれで官能基のinterconversionが出来て使えるような気もするのですが、それはともかく、合成によって出来た三級ジアゼンは各種条件によって様々なものに利用出来ます(還元条件:ヒドラジド、更に強い還元条件:アルキルアミン、求核剤:窒素原子の求電子的アルキル化、熱的条件:脱窒素によるホモリシスによるβ,γ-不飽和エステル)。新しい手法として記憶にとどめておくといいことがあるかもしれません。
ジアゼンの変換.jpg

おまけ
シグマトロピー転位とは関係ないですが、見た目なんとなく2,3転位してるっぽく見える水酸基導入法があったので載せておきます。実際の反応機構は立体選択的なエポキシ化に続く、エポキシドの開裂-シリル基のmigrationです。
angelmicin fragment.jpg

posted by 樹 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 基礎有機化学 | 更新情報をチェックする
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