よくアクセスがあるものをまとめておきました。右バーのカテゴリ別も参照ください。

レポート・実験データ等のまとめ
・研究室に貼っておくと便利な表などをあつめてみた(現在も随時更新追加中)
・検索・計算に使える化学サイトをあつめてみた
・特殊記号の出し方・ショートカットキーまとめ
・MS WORDショートカットや特殊アルファベットの入力法まとめ
・Powerpointのショートカットキー
・出版社ごとのオープンアクセス化費用をまとめてみた(有機合成化学向け)
・ネットコンテンツを参考文献に挙げる話
・情報ソースはウィキペディア、な論文の話
・タダで読めるけど・・・-オープンジャーナルのあやしい世界
・最近のOLのはなし

材料化学・自然化学・疑似化学
・ボーイング787の窓の秘密とクロミック材料の話
・アメフラシの紫汁の謎
・タコが光ってもいいじゃなイカ!-青い毒タコ・ヒョウモンダコ科の秘密-
・やけど虫の毒と抗がん活性
・世界一大きい花の臭いの話
・竜の血の赤、虫の赤
・撤回された天然竜血分子が全合成で確かめられた話
・はじけるキャンディ・ドンパッチの話
・危険なDHMO? SDS(MSDS)の話
・水を脱水した話
・高校生が高価な薬分子を格安で作った、という話
・人工分子は天然に存在しないのか―抗がん剤分解物は妖精さんだった話―
・創薬分子が天然から採れた!!と思ったら・・・な話

有機合成化学実験
・Swern酸化の利点
・光延"反転"の話
・実験、爆発:やってはいけない組み合わせ
・モレキュラーシーブスは塩基か酸性か
・TBAFにモレシな話
・モレキュラーシーブスの乾燥法で収率が変わった話
・原料の不純物で反応が行ったり行かなかったりした話

大学講義の初級有機化学
・フィッシャー投影式をジグザグ式に変換する方法
・ニューマン投影式の理解の仕方
・R/S表記やE/Z表記など

2011年10月26日

Birch還元を分かりやすくするには

書くネタはいくつかあるんだけどちょっと書いてる時間がないので滞ってます
(´・ω・`)
というわけで簡単というか基本的なネタをBirch還元から。


birch反応.jpg

Birch還元はアルカリ金属と液体アンモニア、もしくはアレーニド供給ソース(ナフタレン等)存在下、アルカリ金属から1電子を放出させ、この電子を使って主に芳香環を還元する方法で、芳香環は1,4-シクロヘキサジエンへと還元されます。反応系はLithium/liq. NH3の場合にはきれいな青色になるので体験してみるといいかもしれません。まあアンモニアは猛毒だし、セッティングがめんどくさいんですが。
 実験操作の話は置いといて、還元の反応機構は1電子移動によるもので、アルカリ金属から放出された1電子が芳香環に入り、ラジカルアニオンが発生、プロトン化して単純ラジカルになった後更に1電子を受け取ってプロトン化するルートと、ラジカルアニオンに1電子入ってジアニオン経由で進行する場合とがあります。大体の説明は前者でされています。ラジカルアニオンになった段階でラジカル部位とアニオン部位が、対面にいく形へと移動するので(静電反発とダブルアリル位に電荷があった方が安定なため)、生成物は共役ジエンではなく非共役の1,4-ジエンになります。

birch機構.jpg

置換基がある場合には、その官能基の性質によってオレフィンの位置が変わり、供与性置換基の場合にはその置換基のついた炭素(イプソ位)はsp2に、吸引性の場合にはsp3になります。

birch置換基.jpg

と書いてしまうのは簡単ですが、じゃあBirch還元の反応機構書いてみようかとするとどっちがどっちだったっけとかなっちゃうのもしばしば(僕だけ?)。で解答見ても、アルカリ金属からの1電子は答えのモノが出来るような部位にいきなり入ってきちゃうのでいまいち分かりにくいというか説明になってないしヽ(#`Д´)ノ。

とお困りの方用に分かりやすい覚え方。解法は至極簡単、1電子をくれてやる前に置換基のついているC=Cを強制的に分極させてやればいいのです。勿論分極させる方向は生じさせた電荷が安定するように。つまり電子供与性置換基の場合にはイプソ位がカチオンになるようにしてやればいいのです。
 あとは生じたカチオンに1電子をくれてやり、反発しないように反対側に動かし、更に1電子を与え、プロトン化してやればちゃんと電子供与性に対応した目的物が出来ます。

EDG birch.jpg

電子求引性基の場合も同様、今度はイプソ位をアニオンにして同様にしてやることで目的物へと持っていくことが出来ます。

EWG birch.jpg

なお、上の式では単純化するためにカルボン酸のまま書いていますが、実際には塩基性条件なので、カルボキシラートイオンのジアニオンラジカル、もしくはトリアニオンの状態で反応が進行します。
 ちなみにこの吸引性置換基の場合、嵩高いプロトン源(t-BuOHなど)を用いると、端っこのアニオン部位のみが先にプロトン化され、残ったカルボキシラートに対してアルキル化剤を作用させることでα置換をさせることが出来ますし、プロトン源が無い場合には2箇所を置換することも出来ます。

carboxylate anion.jpg

この、「還元電子を与える前に芳香環を分極させてチャージをはっきりさせておく」ことをやっておくと、下のような色々な置換基の場合でも簡単に目的の化合物へと導くことが出来ますので試してみてください(pyridineの場合にはイミンとみなしてやるとok)。

いろんなの.jpg

さて、電子求引性基の場合のプロトン化の順序は書きましたが、では供与性の場合はどうでしょうか。置換基のオルト位とメタ位と比べてもそんなに差があるような感じはしませんが、実際に含重水素のt-BuOH(D)を用いたBirch還元をアニソールに対して行うと、オルト位とメタ位の重水素化比率には明らかな差が出てきます。

重水素トラップ.jpg

これはアニオンと比べてラジカルアニオンの塩基性度が低い(=重元素を取り込みにくい)ということが原因であり、すなわち重水素化率の少ないオルト位のプロトン化はラジカルアニオンの状態で起こっている=先にプロトン化されているということが分かります。つまりBirch還元の律速段階はオルト位のプロトン化ということになります。後に載せたZimmermanのアカウント論文に反応機構に関する研究がまとめられていますが、この反応機構がちゃんと分かってきたのは意外と最近のことなんですね。結構びっくり。

References
1) Birch Reduction from handout by Myers group (PDF注意)

2) A Mechanistic Analysis of the Birch Reduction
Zimmerman, H.E. Acc. Chem. Res.
DOI: 10.1021/ar2000698


posted by 樹 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 基礎有機化学 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック