(´・ω・`)
というわけで簡単というか基本的なネタをBirch還元から。
Birch還元はアルカリ金属と液体アンモニア、もしくはアレーニド供給ソース(ナフタレン等)存在下、アルカリ金属から1電子を放出させ、この電子を使って主に芳香環を還元する方法で、芳香環は1,4-シクロヘキサジエンへと還元されます。反応系はLithium/liq. NH3の場合にはきれいな青色になるので体験してみるといいかもしれません。まあアンモニアは猛毒だし、セッティングがめんどくさいんですが。
実験操作の話は置いといて、還元の反応機構は1電子移動によるもので、アルカリ金属から放出された1電子が芳香環に入り、ラジカルアニオンが発生、プロトン化して単純ラジカルになった後更に1電子を受け取ってプロトン化するルートと、ラジカルアニオンに1電子入ってジアニオン経由で進行する場合とがあります。大体の説明は前者でされています。ラジカルアニオンになった段階でラジカル部位とアニオン部位が、対面にいく形へと移動するので(静電反発とダブルアリル位に電荷があった方が安定なため)、生成物は共役ジエンではなく非共役の1,4-ジエンになります。

置換基がある場合には、その官能基の性質によってオレフィンの位置が変わり、供与性置換基の場合にはその置換基のついた炭素(イプソ位)はsp2に、吸引性の場合にはsp3になります。

と書いてしまうのは簡単ですが、じゃあBirch還元の反応機構書いてみようかとするとどっちがどっちだったっけとかなっちゃうのもしばしば(僕だけ?)。で解答見ても、アルカリ金属からの1電子は答えのモノが出来るような部位にいきなり入ってきちゃうのでいまいち分かりにくいというか説明になってないしヽ(#`Д´)ノ。
とお困りの方用に分かりやすい覚え方。解法は至極簡単、1電子をくれてやる前に置換基のついているC=Cを強制的に分極させてやればいいのです。勿論分極させる方向は生じさせた電荷が安定するように。つまり電子供与性置換基の場合にはイプソ位がカチオンになるようにしてやればいいのです。
あとは生じたカチオンに1電子をくれてやり、反発しないように反対側に動かし、更に1電子を与え、プロトン化してやればちゃんと電子供与性に対応した目的物が出来ます。

電子求引性基の場合も同様、今度はイプソ位をアニオンにして同様にしてやることで目的物へと持っていくことが出来ます。

なお、上の式では単純化するためにカルボン酸のまま書いていますが、実際には塩基性条件なので、カルボキシラートイオンのジアニオンラジカル、もしくはトリアニオンの状態で反応が進行します。
ちなみにこの吸引性置換基の場合、嵩高いプロトン源(t-BuOHなど)を用いると、端っこのアニオン部位のみが先にプロトン化され、残ったカルボキシラートに対してアルキル化剤を作用させることでα置換をさせることが出来ますし、プロトン源が無い場合には2箇所を置換することも出来ます。

この、「還元電子を与える前に芳香環を分極させてチャージをはっきりさせておく」ことをやっておくと、下のような色々な置換基の場合でも簡単に目的の化合物へと導くことが出来ますので試してみてください(pyridineの場合にはイミンとみなしてやるとok)。

さて、電子求引性基の場合のプロトン化の順序は書きましたが、では供与性の場合はどうでしょうか。置換基のオルト位とメタ位と比べてもそんなに差があるような感じはしませんが、実際に含重水素のt-BuOH(D)を用いたBirch還元をアニソールに対して行うと、オルト位とメタ位の重水素化比率には明らかな差が出てきます。

これはアニオンと比べてラジカルアニオンの塩基性度が低い(=重元素を取り込みにくい)ということが原因であり、すなわち重水素化率の少ないオルト位のプロトン化はラジカルアニオンの状態で起こっている=先にプロトン化されているということが分かります。つまりBirch還元の律速段階はオルト位のプロトン化ということになります。後に載せたZimmermanのアカウント論文に反応機構に関する研究がまとめられていますが、この反応機構がちゃんと分かってきたのは意外と最近のことなんですね。結構びっくり。
References
1) Birch Reduction from handout by Myers group (PDF注意)
2) A Mechanistic Analysis of the Birch Reduction
Zimmerman, H.E. Acc. Chem. Res.
DOI: 10.1021/ar2000698