2011年07月22日

DIBAL-Hと1,4還元の話

ちょっとカテゴリ分けとか「続きを読む」っていうスタイルに変更したりと改造したんですが、どうもこのseesaaブログ、その反映が全然上手く行ってないらしく、開くページによってカテゴリー毎の記事数が変わって表示されるというダメっぷりを発揮。せっかく細分化した(つもり)なのに!

話は変わってこのサイト、自分の勉強も兼ねてっていうのもありますが基本的には学部、院生時代から気になってたネタ、反応を掘り下げまくってエントリーしたり、過去にまとめたことのあるものとか自分の合成で使ってたことでなんかニッチな感じのするものなんかを中心に書いてます。あとは全合成論文中でむむっ、と来た反応を掘り下げてみたりとか。

新しいネタやマニアックなヤツも拾ってきますが、基本的なネタも交えてポストするつもりなので有機化学勉強したての学部生の方等も参考にしていただければと思います。
あとブログタイトルですが、有機合成やってる身として沈まないで生き残ってやる的な意味合いで付けたのですが、正直失敗したと思ってますw今更変えるのもなんなのでそのまんまにしときますけど(全く化学と関係ない私的な話の雑記も書こうかと思ってたってのもあるかも、もっともorgchemicalなんてURL取得してる時点でもうそんなの書けないじゃん、と気付いたのは開設後しばらく経ってからだったりする)。

都合上本年度に入ってから更新頻度が激落ち(というか前の更新頻度が異常か)してますがまあ月に1回は最低ポストしたいなーと。更新が止まった場合には更新するネタが無くなったか、飽きたか、「ああ、沈まずって言ってたけど遂に沈んだのかw」とか思っていただいてよろしいかと思います(ぇ

というわけで前振りおしまい!今回はDIBALの話。

DIBAL 構造.jpg


今までに酸化反応を多く取り上げてきたような気がしますが(Swern酸化とかオゾン酸化とかマンガン酸化とか)、当然還元反応も重要な官能基変換の一つ。数多くの還元剤があり、有機化学の教科書として習う代表的なものがLAH(LiAlH4)とNaBH4。研究室に配属されれば更に多数の還元剤に触れることになりますが、禁水のセプタムボトルに入ってる試薬として使う機会が多いのがボランやDIBAL(diisobutylalumunum hydride、DIBAL-HとかDIBAHとか表記したりもする)、禁水試薬をシリンジで取って反応系に加えるといった手順の練習にはちょうどいい試薬かと思います。

ご存じの通りというか名前のまんまですが構造はジアルキル化されたアルミニウムヒドリドで、空の軌道が残っているのでLewis酸としての能力を持っています。従ってカルボニルの還元は、DIBALのルイス酸性によってカルボニルが活性化されることで進行することになります。DIBALを使って炭素−炭素3重結合(アルキン)を還元することも出来ますが、それは今回は無視。またDIBALなどでアセタールを選択的に切断することも出来ますが、それは前に載せてるのでそちらをどうぞ。

アセタール保護基を選択的に切る

さて還元反応、特にα,β不飽和カルボニル、エノンの還元を行う際は還元の立体選択性だけでなく、1,2還元になるか1,4還元になるかというのは非常に重要な問題です。
教科書的には先に挙げたNaBH4は1,4還元が選択的に進行するとされています。DIBALはというと1,2還元選択的に反応が進行し、同じく良く使われる還元剤であるL-Selectride [NaBH(sec-Bu)3]では1,4還元選択的に反応が進行します。

アート錯体であるLAHと違い、DIBALはLewis酸性を持っているのでLAHとは異なる立体選択性で還元が進行することがあります。このルイス酸性によって望みの立体化学での還元が得られることもあれば、却って望みの立体化学での還元を起こさなくなってしまう原因となることも。そこでDIBALのLewis酸性を消してDIBALそのものとは異なる様式での還元を行う手法も開発されています。方法はいたって簡単、DIBALにBuLi (n, sec, tertのどれも利用可)を加えるだけ。これによってDIBALがブチル化されてアート錯体となり還元様式が変わります。この還元方法は結構全合成の中でも用いられており、特につい最近報告されたRomoらによるOmphadiolの全合成ではほぼ最終工程での1,2還元選択的、かつ立体選択的なエノンの還元に利用されています。

・オリジナル論文
A New, stereoselective reducing agent
Kovacs, G. et al. Synthesis 1977, 171-172.


DuBois TTX合成.jpg

Romo omphadiol合成.jpg

さて、この様に1,2還元選択的なDIBALですが、1,4還元選択的にさせる手法も開発されています。というのも、先に例として出したNaBH4は、教科書的には1,4還元選択的とはいうものの、実際の反応では結構な割合で1,2還元が進行する上、仮に1,4還元が先に起こったとしてもヒドリドが4つもあることや反応条件の問題から1,2還元まで進行してしまうなど、案外1,4還元だけで止めることは難しいのです(先のL-Selectrideやシランなどを使うのもその解決法の一つ)。

その手法の一つとして知られているのが津田―三枝法と呼ばれる1,4還元法。

1) Methylcopper(I)-catalyzed selective conjugate reduction of α,β-unsaturated carbonyl compounds by diisobutylaluminum hydride in the presence of hexamethylphosphoric triamide
Tsuda, T. et al. JOC 1986, 51, 537-540.


2) Alkylation and silylation of the aluminum enolates generated by hydroalumination of α, β-unsaturated carbonyl comounds
Tsuda, T. et al. JOC 1987, 52, 439-443.


MeLiとCuIより調製した触媒量のcuprateとHMPA、DIBAL存在下に低温で基質を加えることによりエノンの1,4還元を行うという手法で、うまくいかない場合にはcuprateを当量用いたりもします。

津田三枝法.jpg

この方法の利点は単なるエノンの1,4還元だけではなく、それに続く修飾反応が行えるという点にあります。上記の還元後はエノラートとして基質が残っているので、ハロゲン化アルキルを加えれば1,4還元に続くα-アルキル化、TMSClを加えればエノラートをTMSエノールエーテルとしてトラップして単離することが出来ます。

津田三枝置換.jpg

だったら最初からエノン使わないで飽和ケトンから塩基でエノラート出してやればいいじゃん、と思うかもしれませんが、エノンを出発物質として1,4還元してやれば、エノラートのでる方向が確実になること、飽和ケトンからではエノラートが出にくい基質の場合でも1,4還元のついでにエノラートを出すことが出来ると言ったメリットを考えれば、1,4還元に続くアルキル化もしくはエノラートのトラップは重要な手法であることが分かるかと思います。

14選択性.jpg

他にもCo(acac)2を用いたDIBALによる1,4還元が知られていますし、DIBALでないものでも、先のL-SelectrideやStryker試薬による1,4還元も有名な手法として知られています。またBuLiでアート錯体化したDIBALでも、嵩高いLewis酸を用いることで1,4還元選択的に進行させる手法も報告されています。

さて、DIBALはヒドリドが一つであり、溶液として市販されていることから当量コントロールによる厳密な還元が可能です。特に当量をきっちり管理し低温化徐々に滴下することにより、エステルからアルデヒドで還元を止めることが出来ます。Weinrebアミドを使えばそんなシビアにやらなくてもアルデヒドで確実に止められますが、毎回Weinrebアミドを用意出来るわけではないのでこういうことが必要になる場合もでてきます。厳密に反応を行わないと上手く還元を止めることが出来ないので腕の見せ所と言えるでしょう。モノによってはエステル1つと言わず2つでもDIBAL2当量を使ってジアルデヒドで止めることも可能ではあります。が、基質によってはというか基本的に2つどころかエステルが一つしかないものでもどうやってもダメなものはダメなのであきらめは肝心、アルコールまで還元してからアルデヒドに酸化するルートを取る方が無難だったりすることの方が多いです、step数増えるけど。

当量コントロールで頑張った例としてはIP保護した酒石酸ジエステルをDIBAL2当量を使ってヒドロキシエステルまで還元、その後1当量のDIBALを追加してヒドロキシアルデヒド(ラクトール)へと変換、更にそのままHorner-Wadsworth-Emmons反応でアルデヒド部分を増炭させるという反応を全部one-potで行ってしまう(しかも40 mmolという原料上げスケール!)というものが報告されています(低温下でジアルデヒドを経る経路だとさすがに収率が悪いようです)。普通に変換していったら4,5工程かかってしまうだけにこれはすごい。

DIBAL-Mediated Reductive Transformation of trans-Dimethyl Tartrate Acetonide into ε-Hydroxy r,β-Unsaturated Ester and Its Derivatives
Tomioka, T. et al. JOC 2011, 76, 4661-4674.


酒石酸DIBAL.jpg

と、DIBALだけで書いてみました、結構色々あるもんですね。

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おまけ
DIBALと全然関係ありませんが、3級アミンを還元剤とした面白い1,4還元法が報告されていましたので合わせてご覧ください。


A Tertiary Amine as A Hydride Donor: Trichlorosilyl Triflate-mediated Conjugate Reduction of Unsaturated Ketones
Kotani, S. et al. OL ASAP
DOI: 10.1021/ol2014895


by カエレバ

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posted by 樹 at 12:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 酸化還元反応 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、有機系M1のmです。

最近DIBALでメチルエステルを還元しようとしたらまさかのジイソブチルエステルが40%ほど取れてきてしまいました^^;

不思議です。。。
Posted by m at 2011年07月24日 09:21
>mさん
ブチルエステルになったことはないですねえ・・・。でもアルデヒド還元したら還元じゃなくてイソブチル基が求核付加したことはあります。NMRもMSも合ってたのに信用されませんでしたけどorz
Posted by かんりにん at 2011年07月24日 14:06
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