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2011年03月15日

マンガン、DDQを使った選択的酸化法(ちょっと追記)

今回は酸化反応について。

アルデヒド→カルボン酸への酸化は全ての酸化法で可能というわけではなく、Dess-Martin酸化、Swern酸化などではカルボン酸に酸化することはできません。Jones酸化、Pinnick酸化、Fetizon酸化、PCC酸化などがカルボン酸への酸化が可能な手法であり、主には前者2法がよく使われています。また、同じアルデヒドでもα-β不飽和アルデヒドのみを選択的に酸化するする方法としてCorey-Gilman法が知られています。これはKCN(もしくはNaCN)と過剰量の活性二酸化マンガンを用い、AcOH酸性MeOH中で反応させる方法で、系内でシアノヒドリンを形成、それがMnO2によって酸化されてアシルシアニドとなり、これがメタノールで加溶媒分解を起こしてメチルエステルへと変換するものです。他の酸化と違うのはカルボン酸ではなく、いきなりエステルとして得られるというものです。

corey-gilman-ganem oxidation.jpg


この反応機構だけ見るとメタノール以外のものを溶媒にすればほかのエステルもできる、もしくは酸化と同時にマクロラクトン化とかできちゃいそうに思えますが、残念ながらメタノール以外では収率がガタ落ちしてしまいます故、汎用性の高い手法として広く用いられているのはこのメチルエステルへの酸化法です。同様の手法でのアミド化の場合では色々適応できるようです(下に挙げるref参照)。当たり前ですがケトンはこれ以上酸化されようがないのでほっといても大丈夫(やられることもあるので保護が必要な場合もあります)。余談ですが、Pinnick酸化では水酸基が酸化されることはありませんがセレン(-Se-)は酸化されます。その一方でMnO2の酸化ではセレンは酸化されません。

・Corey-Gilman-Ganem酸化(オリジナル)
New methods for the oxidation of aldehydes to carboxylic acids and esters
Corey, E. J.; Gilman, N. W.; Ganem, B. E.
JACS 1968, 90, 5616–5617.
DOI:10.1021/ja01022a059

・Corey-Gilman-Ganem酸化のアミド化版
The Preparation of Carboxylic Amides from Aldehydes by Oxidation
Gilman, N. W.
Chem Commun. 1971, 733-734.
DOI:10.1039/C29710000733

・フルペーパーで結構詳しく書かれているやつ
Esters and Amides from Activated Alcohols using Manganese(IV) Dioxide: Tandem Oxidation Processes
Taylor, R. J. K. et al.
Synthesis 2003, 1055-1064.
DOI:10.1055/s-2003-39163


さて、では水酸基を選択的に酸化する方法はどういうのがあるでしょうか。大概の場合には水酸基は根こそぎケトン・アルデヒド、またはカルボン酸へと酸化されてしまいます。特殊な例としては脱離基を導入した水酸基(OMsやOTs)のみをアルデヒドに酸化するKornblum酸化(DMSO酸化の一種)があり、フリーの水酸基は影響を受けません。もっともこの場合には酸化するために選択的に脱離基を導入しないといけないのですけど。

Kornbrum酸化.jpg


ストレートな水酸基の酸化法では前述の活性MnO2による酸化が有名どころといえるでしょう。これも飽和アルコールは影響がなく、アリルアルコールやベンジルアルコールのみが選択的に酸化されます。欠点としてはMnO2の使用量がほぼ間違いなく大過剰量(10等量とか)になるので環境には優しくない手法ではあります。ろ過するだけでいいので処理はすごく楽ですが。

また、DDQ(2,3-Dichloro-5,6-Dicyano-1,4-benzoQuinone)でもアリルアルコール、ベンジルアルコールのみの酸化が可能です。もっとも実際の実験ではPMB基やBn基の除去の際に「酸化されてしまった」というパターンが多いかと思います。それはおいといて、このDDQを酸化反応に用いる場合には欠点がいろいろあります。一つはシアン化物であるため、強酸性条件でHCNを発生すること。脱保護で普通に使っていますが結構こんな風に危ない試薬だったりするのです。もう一つは処理したときにものすごい色が出てきてうっとおしいこと。使ったことがある方ならお分かりでしょうが、分液処理の際、処理する水相の種類ごとでどんどん色が出てくるほか、カラム処理でも結構色が落ちてきてしまうので量を使いたくないというのがあります。そしてDDQ自体が高価であるというものがあります(なぜかTCIのやつだけは他と比べてやけに安い気がしますが基のせい?)。この問題を解決する手法が次の論文。酸化剤であるDDQを触媒量に減らし、再酸化剤として3価のMn(OAc)3を用いる手法です。
ddq酸化 1.jpg

Selective Oxidation of Benzylic and Allylic Alcohols Using Mn(OAc)3/Catalytic 2,3-Dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone
Helquist, P. et al.
OL ASAP DOI:10.1021/ol200441g


この手法の利点はDDQの使用量を減らすだけでなく、アリルアルコール、ベンジルアルコールの中でも電子リッチなオレフィンを有するアリルアルコール、ベンジルアルコールが選択的に酸化できること、さらにアリルアルコールとベンジルアルコールを比較した場合、アリルアルコールの方が選択的に酸化されるという特徴を持っていることが挙げられます。
ddq酸化 2.jpg
ddq酸化3.jpg
欠点としては過剰量に用いている3価のMn(OAc)3がDDQよりも高価という致命的な部分(´・ω・`) 。だめじゃん!!
まあシアン化物を使う量も減るし、選択的酸化を行う場合にはしょうがないですね(そうかな?)。ちなみに著者らは「Mn(OAc)3は高いから2価のMn(OAc)2からウン十グラムスケールで調製した」と述べています。原料合成段階で使うにはちょっとあれですけど、最先端の検討の際には試してみてもいい手法かもしれません。
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追記

DDQはCH2Cl2 / H2O (pH 7 bufferなど)の溶媒条件でPMBを脱保護するのに多く利用されていますが、均一系含水溶媒を使った場合にはシリル系保護基の選択的脱保護が行えるようになります(TBSはなかなか落ちないがTES, TMSはサックリ落ちる)。あくまで経験上の話ですが、この条件だとPMB基は例えアリル位にあっても脱保護されず、シリル系保護基のみが落ちます。参考までに。

DDQのシリル系保護基除去のreferences
1) Total synthesis of actinobolin from d-glucose by way of the stereoselective three-component coupling reaction
Chida, N. et al. Tetrahedron 2006, 62, 6926.
DOI: 10.1016/j.tet.2006.04.079


2) Deprotection of Acetals and Silyl Ethers by DDQ. Is DDQ a Neutral Catalyst?
Kamada, T. et al. Chem. Lett. 1993, 22, 165.
DOI: 10.1246/cl.1993.165


3) Synthesis of a Pladienolide B Analogue with the Fully Functionalized Core Structure
Maier, E. M. et al. Org. Lett. ASAP
DOI:10.1021/ol201464m

posted by 樹 at 01:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 酸化還元反応 | 更新情報をチェックする
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