今回紹介するのはスズを用いず、ホウ素を利用した1,2-diolの選択的アシル化法です。さようならスズアセタール!!
Borinic Acid-Catalyzed Regioselective Acylation of Carbohydrate Derivatives
Doris Lee and Mark S. Taylor*
JACS ASAP DOI:10.1021/ja110332r
今回使われているのはボリン酸(R2B-OH)で触媒的に使われています。元々ボロン酸エステルを用いた選択的アシル化というのは報告されていましたが、今回はその触媒化に成功しています。このボリン酸を使ったdiolのモノアシル化では環状エステルを経由するため、cis-diol選択的に反応が進行します。そして驚くべきことにスズアセタールを用いるよりも更に高い選択性が発現しています。トリフェニルボランが最も高い選択性となっていますが、これはprotonolysisによって系中でボリン酸エステルへと変化していると考えられています。本論文では手に入りやすさや安定性の都合から、ジフェニルボリン酸のエタノールアミンエステルを用いています。

また前の報告にもありますが、ボリン酸だけでなく、塩基としての三級アミンが重要だそうです。実際の活性種はボロン酸エステルそのものではなく、4配位錯体となります(ボロン酸エステルは反応しない)。

この反応は環状エステルを経由するため、6員環diolよりも環を組みやすい5,8員環の方が早く反応します。

応用例として各種環状ジオールや糖質への反応が示されています。いずれの場合も高い選択性と収率をマークしています。殆どがベンゾイル化ですが他のアシル基質での例もあり、無触媒の場合と比較してかなりの収率向上が見られています。ただ、反応基質は全て環状diolであるため鎖状diolの場合にどうなるかは未知数です。

位置選択性ですが、DFT計算上ではプロトン親和性がequatrial酸素原子の方が高いということと立体障害の影響が理由として挙げられています。一方で環状エステルが開裂したもののエネルギーは、どちらの場合でも差がない(or殆どない、実験編参照)という結果が得られています。

鎖状化合物はどうなるんだということに関しては未知数ですが、環境に優しい(というかスズをやらなくて済む)本手法、試してみてはいかがでしょうか。