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2010年12月30日

モレキュラーシーブスは塩基か酸性か

冒頭から何を言っているんだという方もいるかと思いますが、今回はモレシの話。
Molecular sieves、通称モレシ(MS)はゼオライトの一種であり、その多孔質の空孔に分子を取り込むことで物質(主には溶媒)から特定成分を吸収除去する能力があります。ゼオライトのカチオン金属によってその空洞のサイズが異なり、吸収する分子を変えることが出来ます。有機合成ではモレキュラーシーブ(ス)の3A, 4A, 5Aが主に使われ、3Aは3Å、4Aは4Å、5Aは5Åサイズ以下の分子をそのモレシ内に取り込むことが出来ることから一般に溶媒の乾燥、脱水に用いられます。

ちなみにMS3Aの3「A」ですが、これはÅ(オングストローム)の略などではなくゼオライトの型を表すもので、乾燥に使うこれら3-5Aモレシの場合は全て「A typeのゼオライト」であることを示しています。他にも13Xのモレシも存在するほか、ゼオライト自体のタイプにも他にX型やY型もあります。

とまあこんな風にみるとなんだただの乾燥剤か、と思ってしまいますが、モレシの基本成分は

MS3Aが 0.6 K2O: 0.40 Na2O : 1 Al2O3 : 2.0 ± 0.1SiO2 : x H2O
MS4Aが 1 Na2O: 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2 : x H2O
MS5Aが 0.80 CaO : 0.20 Na2O : 1 Al2O3: 2.0 ± 0.1 SiO2: x H2O

と金属酸化物で構成されており、アルカリ金属が入っていること以外は、固体酸触媒として利用されているMontmorillonite(モンモリロナイト)K-10の構成(Al2O3•4SiO2•xH20)と極めて似ています。となれば何か脱水乾燥以外の悪さもしてそうな予感がしてきます。シリカゲルを単なる精製の道具だと思ってたらカラム中にシリカの酸性で壊れちゃったということもみなさん経験していると思いますが、同じようなことがモレシでも起こります。


実際モレシは中性ではなく、AldrichによればMS3A-5AのpHは5%slurryで全て10.5となっており、塩基性であることが示唆されます。事実、モレシ入りMeOHで加熱するだけで水酸基上のアセチル基を落としたり逆に水酸基をアセチル化したりと言った塩基性的性質を利用した反応例の報告があります。

モレシ アセチル化.jpg


というわけでモレシは塩基性ということに決定・・・



と簡単に行きません。実は同じMS4Aでも、さっきの例とは逆にルイス酸的性質による反応例が存在するのです。以下の例ではMS4Aを用いてポリエン環化を達成しています。

モレシ 環化.jpg

面白いことにこの反応ではモレシを乾燥させなくても反応は低収率でも進行する一方、500℃などでのやりすぎ乾燥をしたモレシではかえって収率が下がるという結果が出ています。なんだか余計ややこしくなってきましたが、これに加え、つい最近乾燥MS5Aが酸として働くという論文が発表されました。この中では更にややこしいことに前述の環化の場合に反し、MS4Aではこの酸性的挙動を示さないことも報告されています。

モレシ 脱水.jpg

更にMS5Aは水酸基の脱水だけでなく、酸性条件での水酸基の保護やオルトエステル化等も行えるそうです。論文中ではMS4A、MS5Aのそれぞれの特性を利用した糖保護体の合成例も報告されています。

モレシ 山田先生.jpg


で、結局モレシは塩基性なのか酸性なのかという話ですが、無機塩で単純な構造をしていない以上、一概には言えないような気がします。さらに言えば酸性・塩基性とは別に、モレシがアミドアセタールを分解するとか、Pd/CならぬPd on モレシを使った水素添加ではオレフィン、アジドの還元のみが起こり、ベンジル基、ニトロ基などの還元が起こらないと言った報告もあることから、モレシには乾燥剤としての役割以外にも様々な役立つ能力があるのかもしれません。それはつまり、脱水乾燥しようと思ってモレシをどっさり入れるとこういう副次的な効果でいらんことが起こる可能性があるということですから、反応の際には気をつけましょう。

     ∧_∧
     ( ゚ω゚ ) 溶媒の乾燥はまかせろー
 ドサドサC□ l丶l丶
     /  (    ) やめて!
     (ノ ̄と、   i
            しーJ
posted by 樹 at 02:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする
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