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2010年12月26日

昆虫の毒-タダでは死なない話-

色々真面目な化学ポスト用のネタはあるんですが、そういうのは結構書くのも時間がかかってしまうのでどうしても遅れてしまいます。というわけで軽ーいネタでごまかす(何

世の生物には毒を持っているものがたくさんいます。それは微生物から哺乳類まで色々で、今回はその中から昆虫毒についてポストします。しかも単に毒を持つだけでなく、排除しようとした結果余計ひどいことになるようなものを集めました。

一つ目は知っている人は知っている有毒虫(つまり知らない人はしらないw)、アオバアリガタハネカクシ(青羽蟻形羽隠)。写真を見てもわかるようにいかにも『俺にかかわると危ねえぞ!』的な警戒色で出来上がった虫ですが、体長は6-7mmと非常に小さいです。みると羽が無いように見えますが、「ハネカクシ」の名にあるように胴の部分に非常にコンパクトに折りたたまれており、飛ぶことが出来ます。

羽隠し.jpg




基本的には畑などの害虫(ウンカやヨコバイ)を食べる益虫なのですが、こいつを刺激して刺されるとかゆみ・痛みを伴ってミミズ腫れやじんましん状に赤くはれ上がります(写真を張るのもあれなのでリンクを参照)

じゃあ刺される前に潰してしまえ!!とお思いのあなた、ご愁傷様です。蜂を例にすると、別に刺される前に蜂を潰したところで何ともないのですが、こいつのいやらしいところは

分泌される毒液が潰されることによってばらまかれる

擦れて広がる

被害範囲拡大!!

という負のコンボが待ち受けているのです。素手で潰す、自分の体に乗ってきたものを潰す、等した場合にはこのせいで恐ろしい目に遭ってしまうので要注意。こいつが目に入った場合には失明する危険もあるそうです。単純に刺されるだけなら失明なんてありえないですが、こういうミンチ液の場合は目の周りについてしまうことも十分に考えられます。

その毒性成分の名はPederin(ペデリン)、分子内に二つのピラン環とアミド結合を有し、しかもそのアミド窒素がアミナール状の結合様式でもう一つのフラグメントと結合している面白い構造を持っています。最近全合成及び誘導体合成の報告(First synthesisではない)が出たので参照してみてください。こういうのを全合成する場合は本当に取り扱い気をつけないといけないですよね。

pederin.jpg

この様に強烈な炎症を引き起こすPederin、アオバアリガタハネカクシの場合には卵から幼虫、さなぎに至るまで全てに含まれる上、この強力な生理活性故の究極的な被害例として

飛んでいるハネカクシが体をかすめただけでミミズ腫れ

という話があるそうです、なにこの空飛ぶテロ。というわけで潰す際にはセロテープにつまむか、表に放り出すかした方がよいでしょう。

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2013/7/13追記
なんかアオバアリガタハネカクシが大量発生してるらしいので追加で書いてみました↓
ペデリンが抗がん活性をもっている、という話です。
やけど虫と抗がん活性
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二つ目はこれほどではありませんがカミキリモドキという虫で、カミキリムシに似ていますが、なんとなく見た目がカミキリムシに比べてマイルドな感じのする生き物です(思い切り主観じゃん)。↓写真はアオカミキリモドキ
アオカミキリモドキ.jpg

基本的に刺すことはないですが、刺激を受けると毒液を分泌します。症状としては痛みを伴ったやけどに似た水ぶくれが出来ます。またハネカクシ同様潰してしまうとその毒液が広がって被害拡大という目に遭います。虫嫌いな人ほど被害に遭いそうなパターンですね。

その毒成分はCantharidinというメソ化合物で、単体は昇華性のある結晶だそうです。Diels-alder反応でさっくり行けそうな気がむんむんする奴ですね、exo付加体だけど。

cantharidin.jpg

最後はサソリモドキという奴です、サソりじゃないですモドキです。

サソリモドキ.jpg

サソリは玉がつながったような尻尾と針を持っていますが、サソリモドキは針金のようなまっすぐな細い尻尾であるのが特徴、動きや反応も極めてどんくさいやつです。
コイツも尻尾から毒液を出すのですが、その成分は有機化学的にはそんなに面白くない極めて単純な成分、酢酸(acetic acid)です。しかも80%強という高濃度。酢酸というと食酢のイメージが強いので毒というイメージはないですが、純品の酢酸はかなり刺激性の強いものです。その上臭いと来た。これも目に入ると重篤な障害が考えられるので注意が必要です。

こいつが、前述の他の二つと違うのは、毒成分が酢酸であること、まあ動きがアレなのでよじ登ってきたり体にひっついてきたものを潰すというシチュエーションはありえないこと、そして何せ姿が姿なのであんなキモイもんを素手で潰す奴はいないということ、これがあって別に潰したところで余計被害が拡大するということはないということです。

が、

ここで問題なのが「毒成分が酢酸」であるということ。こいつを潰してしまうと

究極に不愉快な刺激臭が辺り一帯に充満することになるのです。

研究者や酢酸を取り扱った人は「まああれもきついけどそれほどでも」と思われる方もいるかもしれません。しかしサソリモドキの出す酢酸は80%の高濃度ではありますが、生物が生産する奴ですのでその他もろもろの成分も混ざっているのです。そのためこのにおいは純酢酸のようなすっきり(?)とした刺激臭ではなく、より不愉快な方向へと進化を遂げた最低な刺激臭なのです。

じゃあ殺虫剤でやればいいじゃん、と。前者2種はそれで大丈夫でしょう。ところがこのサソリモドキ、先に書いたように動きと反応がものすごく遅い!!!というか動かねえ!!!そのせいで殺虫剤をかけたところで効いてるんだかいないんだかがわからないので殺虫剤をかけてもなんかすごく不安なのです。まあそれくらい動きが鈍いんだからピンセットでつまんで放り出すのが一番いいのかもしれませんが、家にそんな虫つまんで良いようなピンセットが常備してあるかと言えば甚だ疑問です。

こんな風に毒を持っている→殺してしまえ!というスタンスでいると却って危ない目に遭うものもいるのです。虫嫌いは否定しませんがなんでも排除するのではなく友愛の精神を持って虫と接するのも大事なのではないのでしょうか(いいのかこんなオチで)。

いや、友愛と言ってもスラング的な意味合いでの友愛じゃなくてだね・・・
posted by 樹 at 16:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 生き物の化学物質 | 更新情報をチェックする
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