エステルだけに求核反応させる: たゆたえども沈まず-有機化学あれこれ-
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2010年12月16日

エステルだけに求核反応させる

このseesaaブログ、アクセスログ解析がついてて、一体どうやってこのブログにたどりついているのかが分かるんですが、案外「アセタール」とか「フィッシャー投影図」とかでの検索でうっかりこんなところに来てしまった人がいらっしゃるようです。有機化学の初心者向けのpostもしようかとは思ってるんですがついつい難しいほうをやってしまうんですよね。ちなみに今回も初心者おいてけぼりですw 基礎的なpostはしばらくお待ちくださいな。

 カルボニル基に対する求核付加反応(還元もヒドリド付加という意味では求核付加反応)は実験でも授業でも基本的なことで、その反応性はエステル(アミド)、ケトン、アルデヒドの順で上がっていきます。求核付加反応の受けやすさはカルボニル基の電子の非局在化、電子供与性官能基の影響、立体障害などがその要因として効いてきます。
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 しかし実際に実験をするにあたっては、このほぼ絶対的な序列がうっとおしくなることは良くあることです。特に一分子内に複数のカルボニル基を持つ場合にはかなりめんどくさいことになり、手っ取り早い解決法としてはアルデヒド、ケトンにアセタールをかけて(エステル、アミドにはかからない)その隙にエステル・アミドをどうにかしてしまうことでしょうが、これはこれで保護脱保護の工程が増えてしまうほか、余計な反応条件に基質をさらすことになるのでなるべく避けたいところ。そこでこれら官能基が同時に存在する条件下でいかに選択的に、且つ「反応性の高い官能基をそのままにして、それよりも反応性の悪いケトン、エステルだけを選択的に変換」するという、文だけ見たら何を都合のいいことばっかり並べてんだと思うようなことですが、そんな研究も進められてきました。


アルデヒドとケトンが同時に存在するような基質の場合、含水条件下にてCeCl3を作用させて還元条件に付すことにより、一番反応性の高いアルデヒド基をそのままにケトンのみを還元するという手法が知られています。これはCeCl3の性質により、反応性のよいアルデヒドだけが水和してgeminal diolへと変化することにより、還元を受けなくなることを利用したもので、pot内だけでの保護・脱保護を行っているともいえます。これによりアルデヒド基は保護され、残ったケトンだけが還元、反応を処理した後は元のアルデヒドに戻るため、結果的にアルデヒド基は無事、ケトンだけが反応した化合物が得られます。もっとも殆ど見ない手法なのでどの程度使えるかどうかはわかりませんが。
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ではケトン vs エステルでエステルだけを反応させるにはどうすればよいでしょうか。その手法がこれです。↓

Colby, D. A. et al.
Org. Lett.2010, 12 , 5588–5591
Dialkylaluminum N,O-Dimethylhydroxylamine Complex as a Reagent to Mask Reactive Carbonyl Groups in Situ from Nucleophiles
http://dx.doi.org/10.1021/ol102495v



 エステルorアミドを直接ケトンorアルデヒドへと変換する、つまりエステル・アミドに対して一当量だけ求核剤を反応させることは一般に制御が困難です。なぜなら、エステルやアミドに対して求核攻撃が起こり、生じたケトン・アルデヒドというのは、原料であるエステル・アミドよりもずっと求核攻撃を受けやすいことから2度目の反応を起こしてしまい、その結果、目的のケトン・アルデヒドはうまく得られず、2個付加したものが得られたり、試薬も余計なことに使われてしまうために原料が回収されてしまうと言ったことが起こります。Weinreb amideはそれを解消できる手法の一つで、一つ目の求核剤との反応後に生じた中間体が金属とのキレーションによって強力に安定化しているため二度目の求核付加を防ぐことが出来ます。

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 またこのWeinreb amideはカルボン酸からの縮合反応での合成の他に、エステルから直接Weinreb amideへと変換することも可能であり、ルイス酸や求核力の低いGrignard試薬(i-Prやcyclohexyl Grignard試薬など)とN,O-dimethylhydroxylamine塩酸塩のコンビネーションを利用することによって達成されます(このとき過剰にGrignard試薬を用いればエステル→ケトンへとone stepで直接且つ確実に変換することも可能です)。

 ではこの操作をエステルではなくケトンに対しておこなうとどうなるか、答えは「見た目上」何も起こらない、です。なぜ「見た目上」なのか。それは実際にはケトンカルボニル基に対してもアミンの求核付加は起こっており、Weinreb amide同様安定中間体として存在しているのですが、エステルの時とは異なり、脱離していくものが存在しないため、Workup後はアミンが離れ、元のケトンが再生するからです。つまり安定中間体はin situでケトンカルボニル基を保護しているのと同じ状態になります。
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Colbyらはこれに目をつけ、ケトンとエステルが共存する基質に対してDIBAL-H/MeONHMe・HCl (更に出来ればiPrMgX)を一当量だけ作用させて、エステルよりも反応性の高いケトンをまず系内にてヘミアミナールへと変換し、ケトンでなくしてしまった後に求核剤を作用させ、quenchするという手法によって、エステルのみを選択的に反応させることに成功しました。
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 過去には金属アミドを用いた同様の反応も報告されていますが、単純な基質にしか適用できないという致命的な欠点がありました。今回のColbyらの手法の最大の利点は天然物などの不安定化合物・多官能基を持つ化合物においても適用可能という点であり、α-Santoninを用いて実際にラクトンだけ反応させることが出来ることを彼らは示しています。
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こういった手法によって合成化学的なルートの幅がぐっと広がってくるのでこういう反応大好きなんですが、みなさんはどうでしょうか。
posted by 樹 at 03:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 酸化還元反応 | 更新情報をチェックする
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