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2010年11月29日

アセタール保護基を選択的に切る-ちょっと追記あり-

 近年保護基(官能基を各種反応条件から守る)を用いない(「官能基保護の工程」を必要としない)合成が脚光を浴びています。保護・脱保護の工程を省き合成経路の短工程化、捨てるだけの保護基を用いないことで合成経路の効率化を行う意味で重要な考え方であり、合成化学手法の発展によって複雑な化合物に対しても無保護合成が行えるようになったのはすばらしいことです。

 とは言え天然物合成に限らず有機合成を行う際、保護基はやはり必要不可欠であります。しかし保護・脱保護の工程は化合物本体の骨格を変えるわけではない、単なる着せかえの工程であるわけですからこれをいかに減らすかというのはとても重要です。特に脱保護→別の保護基で再度保護となるとますますもったいない。さらにアセタール保護基など一つで複数の官能基を保護している場合、単純に脱保護してしますとまた脱保護された官能基を選択的に変換するという難題をかかえることになってしまいます。

そこで単純な脱保護ではなく、一度の工程で片方を保護した状態に変換して官能基を区別できるようにしたり、一工程で保護基の掛け替えを行えるような手法を今回は取り上げてみました。


有名どころではbenzylidene acetal(anisylidene acetal)で保護されたジオールに対してDIBAL-Hを作用させることで、片方を脱保護してアルコールとし、もう片方をO-Bn(やO-PMB)に変換し、結果としてジオールの選択的保護を行うことができるというものです。このアセタールの開裂反応は立体的に嵩高いDIBAL-Hが、立体障害の少ない方の酸素原子に配位することで起こるため、その結果立体的に空いている水酸基がフリー、奥の水酸基が保護された形になります。普通にジオールを保護しようとすると立体障害の少ない側から保護されてしまうため、奥だけを保護しようとすると「アセタールを普通に加水分解的に脱保護→両水酸基をを保護→空いている方だけを脱保護」という工程がかかってしまいます。

DIBAL.jpg

この方法は非常に有名ですが、意外にもDIBAL-Hによるこの手法が報告されたのは1983年と、比較的最近なのです(LAH/AlCl3による手法はそれ以前からあった)。

上記のようにアセタールの立体的に空いている方に活性化剤が配位して奥の水酸基を保護したまま、手前の水酸基を脱保護する、という手法はよく知られていますが、中には逆の選択性でアセタールが開裂する条件も存在します。4,6-O-anisylidene acetal保護された糖に対して、NaBH3CN、TFAを作用させると、DIBAL-Hの場合では4位がPMB保護され、6位水酸基がフリーとなっていたのが、この条件だと逆に立体的に空いている6位側がPMB保護された化合物が得られてきます。この反応機構の説明は「立体的に小さいH+により活性化されるため、熱力学的に安定な方のオキソニウムカチオン中間体での還元体が得られるため」とされています。ただ、これの引用例を探しても糖の4,6-anisylidene acetalに対しての適応例しかかかってこないので、ひょっとしたら糖限定の反応なのかもしれませんが実際どうなのかはわかりません。

cyanoboro.jpg

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Jun/17/2011追記

上記のSamuelssonの論文にはNaBH3CNを使ったアセタール開裂法がもう一つ方法が載っており、TMSClと併用することにより、DIBAL-Hでの開裂同様、立体的に空いている方から還元が起こります。この手法の利点はDIBALではエステルも同時にやられてしまうのに対し、NaBH3CNの場合ではそれがないということです。最近Porco Jr.らが報告した全合成の中でも用いられており、不飽和の共役エステルを持った基質でも問題なく使えるようです。(clickで拡大)

Porco jrの反応アセタール.jpg

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これら手法はアセタール保護基にて保護されていた水酸基のうち片方をはがすものですが、Rychnovskyらは、IP acetal(acetonide)に関してですが、片方をシリル保護、もう片方をビニルエーテル保護された形へ一工程で変換する手法を報告しています。この手法はルイス酸である[Si]OTfが立体的に空いている方の酸素原子に配位することで起こるもので、立体障害が少ない方がシリル化、奥側がビニルエーテルとなります。これを弱酸で処理すればビニルエーテルが除去されて、末端のシリル保護基のみが残り、Simmons-Smith反応にてビニルエーテルをシクロプロピルエーテルへと変換した後にフッ素源にてシリル保護基を落とせば、一級水酸基の保護基のみを除去できます(メチルシクロプロピルエーテル基はSmI2などの還元条件で除去可能)。この手法はどれだけ同じIP acetalが分子内に存在していても末端にあるIP acetalのみが反応するため、ポリケチド側鎖の炭素鎖伸長にも用いられています。

全合成利用例1(Rychnovsky, S. D. et al. JACS 1994,116, 1753-1765)

全合成利用例2(Overman, L. E. OL 2007, 9, 339-341)

rychnovsky.jpg

この[Si]OTf/塩基という組み合わせを利用することで、アセタールで保護されたカルボニル基の選択的脱保護も達成されています。通常ケタールの方がアルキル鎖によるカチオン安定化により末端アセタールよりも早く脱保護されますが、この条件を用いると選択性は逆転し、末端(つまりアルデヒド保護体)のみが脱保護されてアルデヒドが得られ、内部(つまりケトン保護体)は脱保護されません。

kita.jpg

こんな風に、わざわざ脱保護→保護という手順を経なくても別の保護基での再保護、もしくは位置選択的に脱保護させる手法も知られています。かなり地味かもしれませんが多段階を経る全合成ともなるとこの地味な短縮が効いてくるので参考にしてみてください。
posted by 樹 at 01:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 有機化学 | 更新情報をチェックする
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