2010年11月20日

とある漫画とフグ毒とタコの話

フグ.jpg

急激に寒くなってきた昨今、そろそろ鍋が欲しくなるころ。鍋と言えば色々ありますが高級鍋と言えばフグちり(てっちり)がありますね。フグと言えばテトロドトキシンと思ってしまう辺りがもうだめなんでしょうかね。とにかくフグの肝臓等には猛毒テトロドトキシンが含まれており、その強力な毒性のみならず、ジオキサアダマンタン骨格を有し、高度に酸素官能基化されたそのコンパクト且つ複雑な構造は長いこと合成化学者を魅了してきました。現在までに4例の全合成報告があり、うち3例は日本人と、食の面だけでなく合成化学でもフグは日本人と深いかかわりがあります。もっとも、12月に発売される「Classics in total synthesis III」に収録されるTetrodotoxinの合成例は残り1件のJustin Du Bois教授の例なのですが。

※追記※ 岸先生のFirst synthesisも載ってました。

TTX.jpgClassics in Total Synthesis III: Further Targets, Strategies, Methods [ハードカバー] / K. C. Nicolaou, Jason S. Chen (著); Wiley-VCH (刊)


ところで、疑似化学・エセ化学は置いといて、小説や漫画にも化学物質は登場します。大体は毒物で推理モノに使われるのですが、中には「それはない」という感じの間違いがあったりすることもありますし、知ってる側からみたら工エエェェ(´д`)ェェエエ工 となってしまうような内容もあります。そんな中で面白いのを見つけたのでご紹介します。それはスーパージャンプで連載されている「ゼロ The man of the creation」という漫画です。

ゼロ 76 THE MAN OF THE CREATION (ジャンプコミックスデラックス) [コミック] / 里見 桂 (著); 愛 英史 (原著); 集英社 (刊)


wikipediaより概要
ゼロ(ZERO)と名乗る超人的才能を持った贋作者を主人公とする一話完結の連作である。集英社の『スーパージャンプ』にて1990年から連載中。豊富な知識と優れた五感および記憶力を持ち、絵画・彫刻・陶器はもとより、刀剣・料理・工業製品などこの世に存在する(あるいはかつて存在した)ありとあらゆる物を完璧に複製・再現する。人間そのものを改造し(外科手術およびマインドコントロール)、見た目も中身も「その人」にしてしまったことすらある。超人的才能で世界を飛び回るというその作風
から「美術版のゴルゴ13」と呼ぶ人もいる。主人公を含めた登場人物が「そうだったのか――――っ」「汚い――――ッ」「再現してみた結果だが――――」等、文末に長いハイフンを入れた独特の台詞回しが使われている。


まあ最後の一行を見てもらえば分かりますが、ジョジョの奇妙な冒険(特に1,2部)同様、突っ込んだら負けな感のある作品です、絵画の話とかは普通に面白いんですけど。ここでお気づきかと思いますが、全然化学のにおいのしない漫画ですし、実際99%以上は美術品の話です。ところが56巻の一話だけ、唐突に美術品と全く関係のない話が掲載されていて、それに登場するのが前述のテトロドトキシン(TTX)なのです。

なお、当方スキャナを持ってないので文字だけでご勘弁下さい。

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話の舞台は山口県下関市、漁師が漁船上で変死する事件が発生。その漁船の壁にはマジックで書かれた死んだ漁師によるのダイイングメッセージが!!



『 お れ は 殺 さ れ た 』


(^ω^)・・・・

いやいや突っ込んだら負けです、他に書くことあるだろうとか。
で、その死んだ漁師は出港直前にフグ料理屋を訪れていたことが判明。同じく訪れていたゼロも取り調べを受けることになるが、その時科捜研の捜査結果が判明。以下、その台詞。


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科捜研の人「遺体の腸壁に針の頭ほどの結晶状物質があった。それを

有 機 化 学 分 析 機 

にかけたら、驚くなかれテトロドトキシンの結晶だったよ。」

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なんですか有機化学分析機って、化学の専門家なのに。
結晶だからX線結晶構造解析機のことですか?っていうか腸壁に結晶が残ってたらそれ代謝されてないってことじゃないですか、溶けてもないしw しかも体内で取れたヤツ単結晶かよ!!
と突っ込んだところで続き。


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科捜研の人
「純粋なテトロドトキシンをフグから抽出するなんてまず無理だ
まあ合成するという方法も無いではないが・・・最新の機材とノーベル賞クラスの技術があって初めて合成に成功する類のものだ。

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別に最新の機材はいらんような気もしますし、そもそもTTXはフグの単離物から構造解析してるんで「まず無理」はないでしょう。というか合成するくらいならその辺のフグ捕まえてTTX取った方が早いしw
まあとにかくTTXを合成した人はノーベル賞が取れるレベルだそうです。岸先生、磯部先生(西川先生)、Du Bois先生、佐藤先生おめでとうございます(岸先生は普通に取りそうですが)。

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科捜研の人
「もちろんそんな代物を偶然摂取するとは考えにくい。この事件は殺人だよ」

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いやいや「考えにくい」じゃなくて「ありえない」だろ。
とまあこんな話があった後、ゼロが刑事に「謎はすべて解けた!」ばりの推理を披露。

複雑な化学合成をしなくてもTTX結晶を作る方法が一つだけある!

「ヒョウモンダコ」は高濃度のTTXを含んだ唾液を作る。この唾液からTTX結晶が簡単に作れる。

つまりヒョウモンダコを飼育している人間が犯人だ!!!!!



・・・最後話飛躍しすぎじゃね?つーかTTX持ってる生物他にもいるから!

しかしそんなぶっ飛んだ推理(推理というかもう断定じゃん、証拠一切ないのに)、しかも素性等一切が不明なものすごーく怪しい人間であるゼロから言われたことを警察はまるまる信用。日本の警察は素晴らしいですね(ノ∀`)

そして警察は同じフグ料理店の客だった男の自宅に令状持って殴りこみ

水槽の中に「ヒョウモンダコ」発見!!

「殺人容疑で逮捕する!!!」


タコ飼ってるだけで殺人容疑で逮捕かよ!!他にも調べろよ!!
まあページの都合ですけど。

とまあこんな感じで有機化学分析機に始まる一連のあれがあまりにもツボだったのでご紹介してみました。ちなみに私はたまたま買ったスーパージャンプでこれを読んでリアルにお茶を吹き、後日単行本を買ってしまいましたw
気になる方はゼロ THE MAN OF THE CREATION (ジャンプコミックスデラックス) 56巻に掲載されていますのでチェックしてみてください。なお、最初にも言いましたが、結局何で美術品と全く関係のないこの話が載ったのかは全く不明です。なんか作者が「フグ毒ってタコももってるらしいぜ?」みたいなネタを仕入れて使ってみたくなっただけなんじゃないかと思ったりもします。

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ちなみに話に出たヒョウモンダコ(豹紋蛸)ですが、実際に唾液腺にテトロドトキシンを持っており、咬まれると死に至る危険なタコです。日本でも沖縄などにも生息していますし、オーストラリアではこの種でもっとも強力な毒性を有するタコ、ブルーリングオクトパスによる死亡例が多く報告されています。
ヒョウモンダコ1.jpg
オオマルモンダコ.jpeg
blue-ringed-octopus-1.jpg

上からヒョウモンダコ、オオマルモンダコ、blue-ringed octopusでどれもTTX持ち。もっとも毒性が強いのはblue-ringed octopus。日本での死亡例が報告されているのは真ん中のオオマルモンダコ。オーストラリアではblue-ringed octopusでの死亡例が報告されている。

大きさ自体は極めて小さく、全長10cm程度で、敵に襲われると体の青いわっかが蛍光色を発し、警戒色を示すのですが、これが非常にキレイ&タコも小さいのでよりかわいく見える(実際このルックスのため、ペットとしての人気が高い)ことに加え、まさかタコが猛毒を持っているとは普通思わないことからうっかり手を出してしまい、咬まれて被害に遭うことが多いのです。このヒョウモンダコも近年の海水温上昇に伴い生息域が徐々に北上し、本州でも見られるようになったそうですので十分注意してください。

次回はそろそろ真面目な有機の話をpost予定・・・。
ゼロ 56 THE MAN OF THE CREATION (ジャンプコミックスデラックス)

里見 桂 集英社 2006-06-02
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新・海洋動物の毒―フグからイソギンチャクまで

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posted by 樹 at 18:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 生き物の化学物質 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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